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米アカデミー賞、条件変更で困るのは誰? | 今日の映画ニュース

アメリカ映画界で最高の栄誉とされる「米アカデミー賞」の選考条件が2024年から変更される。運営団体である「映画芸術科学アカデミー」 が22日、発表した。


日本映画も『ゴジラ-1.0』(視覚効果賞)と『君たちはどう生きるか』(長編アニメーション賞)で栄冠に輝いた賞だし、内容が気になる。

結論を言うと、ポイントはシンプル。そもそも選考に含まれるための条件が厳しくなり、コロナ禍の特別措置も排除された。これはちょっと辛い話。

一方、アメリカ国外で作られるアニメーション長編作品が、実写長編映画と肩を並べられることになった。これは、アニメ作品に強い日本にとっては少し嬉しい話

デッドライン誌のまとめはこちら:

基本と変更点

基本をおさらいすると、1番大事な既存ルールはこちら:

  • その年の1/1〜12/31に、アメリカの主要都市で最低1週間、最低1館の劇場で上映された映画であること

要は、そもそもアカデミー賞で選考の対象になるための条件があるわけだ。それが、いままでは年内にロサンゼルスなり、ニューヨークなりで1週間、どこか一箇所の主要都市の映画館で作品が上映されればいいという、ある意味では低いハードルだったのが肝。で、追加された条件は以下の通り。

  • 先の条件で上映された直後か、最低でも45日以内にアメリカ国内の主要50都市のうち、10都市以上で最低7日間、拡大公開された(される)映画でなければならない

  • なお年末に上映される作品は、翌年1月24日までに拡大公開の条件を満たしておいなければならない

  • 海外映画は、必須の10都市での公開のうち、2都市まで国外で劇場公開したことを条件に含めて良い(例=邦画が東京、ソウルと、アメリカで8つの都市で一週間以上上映されたと証明すれば、応募要件にあてはまる)

  • 海外映画に求められる10都市以上の劇場公開は、自国と、アカデミーに認められた世界15都市に該当していなければならない

  • ちなみに、コロナ禍で認められたドライブイン・シアターは今後、劇場としての要件を満たさない

単純に比較すると、アメリカ国産の作品も、日本などで作られる映画も「アメリカで拡大公開」しなければならないことになった。加えて、コロナ禍では特別に許容されていたドライブイン・シアターは「アカデミーに認められた映画館」ではなくなった。なお、アニメーション作品については以下の通り:

  • 「外国語映画賞」にエントリーした作品は今後、追加申請なしで同時に「長編アニメーション賞」にもエントリーして良いことになった

どういうことかと言うと、「アメリカで拡大公開」されなくても、アメリカ国外で製作されたアニメーション作品は「外国語映画賞」と「長編アニメーション賞」の両方にエントリーできる、ということ。これは日本を含む外国産のアニメーション長編作品には得となる。

改訂の主な狙い

さて、狙いがどこにあるかというと、「映画館と映画興行の尊重」に尽きる。特に「ストリーミングサービス対策」の色合いが強い。

Netflixを筆頭にした配信サービスは、これまでに何作品かで「アカデミー賞のエントリー資格を取得するためだけに1週間限定で映画を劇場公開する」という手をとることで「賞は欲しいけど、映画館は手続きのひとつとしてみなす」ことを貫いている。顕著な例がライアン・ジョンソン監督の「ナイブズ・アウト: グラス・オニオン」だった:

これで、配信サービス各社は「賞が欲しければ、アメリカ全土での劇場公開にしっかり取り組まなければならなくなった」わけだ。

先日のCinemaCon 2024でも「映画館にお客を」の号令がかかり、ハリウッドでも映画館の復権への道が求められている。

ということで、当座で「困る」のは、映画館を使いたがらないストリーミング各社となる。ただ、長期的に見ると単館系の低予算映画も困ることになる。スタジオ各社のM&Aで買い手が絶対数的に減っている昨今、ある程度の配給契約を取り付けないと、アカデミー賞にはかすりもしないことになるからだ。

それにしても「アカデミー賞」がつとに「劇場公開」にこだわっている点は、やはり興味深い。

映画・ドラマを讃える賞は数多ある。その中でももっとも権威ある賞が、今後も「映画館限定」であり続けるのか、それともその牙城はいつか崩れるのか。「ビッグスクリーン vs スモールスクリーン」はいま、世紀のせめぎ合いの真っ只中だ。


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