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ショートショート18  イエス・ノー

   イエス・ノー
 中二の二学期陶子のクラスに転校生がきた。それもアメリカからだ。おかぁさんが日本人で、お父さんがアメリカ人だそうだ。男の子たちは、そわそわ浮き足立っていた。ミシェルは日本語も英語も話せたので、すぐにクラスになじんだ。陶子は英語がうまくなりたくて、よくミシェルに話しかけた。彼女は陶子のへたくそな英語に戸惑いながらも、こう言うのよと親切に教えてくれた。自分の英語が上達しているようでうれしかった。昼休みに、
「ミシェル、外に遊びに行こう」
と誘った。しかし、
「ワタシは今は本を読みたいから、他の人を誘って行ってください」
と言われてしまった。
 陶子は戸惑った。
『えっ、せっかく誘ったのにあんなにはっきり・・・』
 陶子は、
「ね、お天気いいし行こうよ」ともう一度誘った。
「トウコ。あなたは外に行きたい。でも、ワタシは本を読みたい。昼休み自分の思うように過ごしたいだけです。いけませんか」
と聞かれた。
 陶子はなんだか冷たくあしらわれたような気がした。
「ヨッチ、二人で行こうよ」
 仲良しのヨッチを誘った。
「うん。」
「ね、ミシェルのあの態度どう思う?」と陶子は不満げにヨッチに話しかけた。
「外国の人はイエス、ノーをはっきり言うっていうじゃない。でもねぇ・・・」
ヨッチも戸惑っているように見えた。
「本は後でも読めるのに。せっかく誘ったのにさ」
 陶子はすごく不満だった。
 次の日の朝、
「トウコ、おはよう」とミシェルはいつも通り声をかけてきた。
 しかし、陶子は素直におはようと言う気にはなれなかった。ちらっと顔を向けて聞こえるか聞こえないかくらいの声で、
「おはよ」と言った。
「トウコ、元気ないね。どうしたの」
「ううん。なんでもないよ」
「今日のトウコ変です。いつもの笑顔がありません」
「何でもないってば。一人にして。ミシェルも昨日そう言ったじゃない」
 ミシェルは戸惑ってしまった。『昨日わたしは、一人にしてと言ったのかしら・・・。何のことなんだろう』色々考えてみたが、よく理解できなかった。その様子を見ていたヨッチはミシェルが気の毒になり、
「ミシェル、ちょっと来て」と呼んで廊下で話をした。
 
「陶子は昨日お昼休みに誘って断られたことを、冷たくされたと思ってんのよ」
「えっ!」とミシェルは驚いた顔をした。
「ワタシ冷たくしてないよ。本を読みたかったから、そう言っただけだよ」
「日本人は誘いを断られると、さらっと流せないこと結構あるんだよね」とヨッチが言った。
「なぜですか? ワタシはちゃんと訳を言いました」
「一緒に行動するのが友達って感じもあるしねぇ」ヨッチはつぶやいた。
 
「一緒に行動するのが友達? 変です」
 ヨッチはどう説明したらいいのかわからなくなってしまった。
 
 文化の違い? 友達との付き合い方の違い? そもそも、友達というものの認識の違い?  
 頭がごちゃごちゃしてきた。こんなんじゃぁ陶子に、ミシェルの気持ちを伝えられないなと悩んでしまった。


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