過去を抱いて今は眠るの

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ノート

過去を抱いて今は眠るの 6

「な、なにそれ?どうなってるの?」 

 宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は座っていた座布団から身を崩し、顔を引きつらせながら後ずさった。

 顔面を殴られたはずの冷原一(セイライ ハジメ)は、他人事のように頭の後ろをぽりぽりと搔いている。

 「お前が言うところの幽霊ってやつだ。だからハジメには触れることはできない」

 渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は下を向いて、頭を押さえた。絞り出すように放たれた言

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過去を抱いて今は眠るの 5

「返して、寂しい、返して、私の、冷たい、取らないで、誰か、独りぼっち、返して・・・」

 渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は支離滅裂な単語をぶつぶつと呟いている。顎に手を当てて、何か考え込んでいる様子だった。

 そんな不気味な行動をとるワタラセを目の前に、宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は膨れ上がる恐怖心を止められずにいた。

 自分の表情が強張ってゆくのが手を取るように分かる。

「何言ってるの?ねぇワ

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過去を抱いて今は眠るの 4

宮園恵(ミヤゾノ メグミ)が連れてこられたのは、体育館裏にある倉庫だった。

 昼休みに足を運んだ時と同じく、湿った土の匂いがまだ辺りに強く残っている。風が吹くたびに、伸び放題になっている雑草や木々が音を立てて、メグミの恐怖心をくすぐった。

 渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は慣れた手つきでワイシャツの胸ポケットから鍵を取り出し、真ん中の扉の鍵穴に差し込む。

 「ねぇ、なんでここの鍵なんか持ってる

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過去を抱いて今は眠るの 3

「おい!ミヤゾノちょっと来い!入学してからずっとお前のことが気になってたんだ!」

 という渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)の声に、一年一組の教室に居た誰もが言葉を失っていた。雑談で溢れていた教室はしんと静まり返り、遠くで蝉の鳴く声が聞こえる。

 がたん。

 と、音を立てて椅子から立ち上がったのは、宮園恵(ミヤゾノ メグミ)ではなく、千葉茉由(チバ マユ)だった。

 いっぽう名前を呼ばれたメグミ

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過去を抱いて今は眠るの 2

「そろそろ元気出しなよぉ。何かひどいこと言われちゃった?」

 というのんきな声と共に、机に突っ伏していた宮園恵(ミヤゾノ メグミ)に飴の袋が差し出された。メグミは何のためらいもなくその袋に手を突っ込む。声をかけてきたのはクラスメイトの千葉茉由(チバ マユ)だった。メグミのことを心配そうに見つめている。

 学校中で「変人」と呼ばれているワタラセの元を訪れてから、メグミはすっかりしょぼくれてしまっ

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過去を抱いて今は眠るの 1

昼休みのチャイムと同時に宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は、お弁当を持って教室を飛び出した。朝降っていた雨はすっかり上がっていて、乾いたアスファルトに夏の日差しが反射している。肩の辺りで切りそろえている髪の毛が、汗をかいた首にまとわりついてきて気持ちが悪い。けれど速足になるのを止めることはできなかった。

 メグミはクラスメイトのマユに紹介された人物を訪れるために、体育館裏に向かっていた。正確に言うと体

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