ぼんやりとした小説を書いています。

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マガジン

  • お月様の食べ方。

  • キラキラとは程遠い。

    理想の恋を追い求める女の子と、それに振り回される男の子のお話しです。

  • 小説詰め合わせ

    いろいろ書いたよ!

  • 日記というほどでもない話

  • 過去を抱いて今は眠るの

    渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)幽霊が見える。口が悪い。モテない。 宮園恵(ミヤゾノ メグミ)正体不明の女の子に憑りつかれている。 冷原一(セイライ ハジメ)幽霊。イザナに憑りついている。 千葉茉由(チバ マユ)イザナの幼馴染。メグミの友達。おっとり系。

最近の記事

砂場で眠る

 砂場で眠る。私は手をつないでもらっている。  目の前は星空ばかりで、月は見当たらなかった。でも空がぼんやりと明るいからきっとどこかに隠れているのかもしれない。  月光が漏れ出ている空が、ジャングルジムの影を私の体に薄く這わせている。その交錯する影の直線が亀裂のようだとぼんやりと思った。つないでいる手は私を何かと繋ぎ止めてくれているもので、きっと今手を離したら、私の身体はこの亀裂から裂けてバラバラに砕け散り、砂場に放たれる。  粉々になった私の身体は砂場の一部になって、夏の照

    • 疲れきった天国 1

       「飲んで良いよ」  そう言って、コンビニから戻ってきたマキオが渡してきたのは缶チューハイだった。私は顔を歪めながらもそれを受け取る。勢いよくプルタブを引くと空気の抜ける音が車内に響き渡った。夏の夜だけが持つことを許されている密度の濃い空気が、冷えた缶にまとわりついて、水滴となり私の手や肘を濡らした。  ひと夏の恋も、欲望も、嫉妬も、幸せも、まどろむような疲労感も、すべてをごちゃまぜにして、なんだかよく分からなくなったものが夏の夜の空気で、秋が来るまでの少しのあいだいやら

      • 海に連れてって。今すぐに

        車は暗闇の前で震えながら停まった。 「ついたよ」 シフトレバーをパーキングに押し込みながら言うと、助手席で眠っていたユリは目をこすって短く息を吐き出した。たぶん笑ったのだと思う。暗くてよく見えなかった。車内のライトをつけると彼女は片目をつぶって眉を寄せた。 「まぶしい」 手足を伸ばしながら言う彼女からは、俺と同じシャンプーの匂いがする。 おとこ物の、清涼感の強いその匂いでさえ、ユリが纏うと妙な落ち着きをはらんで俺の肌をなでるように這う。 まだ開ききっていないユリの

        • 過去を抱いて今は眠るの 6

          「な、なにそれ?どうなってるの?」   宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は座っていた座布団から身を崩し、顔を引きつらせながら後ずさった。  顔面を殴られたはずの冷原一(セイライ ハジメ)は、他人事のように頭の後ろをぽりぽりと搔いている。  「お前が言うところの幽霊ってやつだ。だからハジメには触れることはできない」  渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は下を向いて、頭を押さえた。絞り出すように放たれた言葉には、失望がにじみ出ているようだった。  「う、嘘だよ。だって目の前にちゃん

        砂場で眠る

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        • お月様の食べ方。
          15本
        • キラキラとは程遠い。
          9本
        • 小説詰め合わせ
          21本
        • 日記というほどでもない話
          1本
        • 過去を抱いて今は眠るの
          6本
        • ピッキーイーターず
          1本

        記事

          彼は独りで甘く眠る

           握りしめていた手のひらの中で、「秘密」がぐにゃりと溶け出しはじめた。  私はそれに気づきながらも、手を開くことはしなかった。かわりに息をゆっくりと吸い込み、あいている手で筆を動かす。  私の体温で少しづつ形を失ってゆくそれは、甘いミルクの匂いを漂わせながら、彼の存在を色濃くさせてゆく。居ないはずなのに、彼が近くに居るのだと、つい錯覚してしまう。そのたびに私の心臓は小さく高鳴り、必ず痛みを連れてくる。  音のないため息をついて、私はまた筆を動かす。  飴色をのせた柔ら

          彼は独りで甘く眠る

          でんきくらげ

           ちょうど十二時の鐘が鳴って、僕は本を破る手を止めた。  口の中に放り込んだものを咀嚼し、飲み込むとタイミングを見計らったかのように「ねぇねぇ」と声が聞こえた。  声は上からだった。  顔を向けると、街頭の上に一人の女の子が立っていた。ジーパンに白のティーシャツというラフな格好だ。しっかりと僕と目が合っている。中庭で時々見かける子だった。  彼女は街灯に取り付けられているハシゴからするすると降りてきて、僕の座っているベンチの横に立った。長い麦色の髪が揺れて太陽を鋭く反

          でんきくらげ

          過去を抱いて今は眠るの 5

           「返して、寂しい、返して、私の、冷たい、取らないで、誰か、独りぼっち、返して・・・」  渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は支離滅裂な単語をぶつぶつと呟いている。顎に手を当てて、何か考え込んでいる様子だった。  そんな不気味な行動をとるワタラセを目の前に、宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は膨れ上がる恐怖心を止められずにいた。  自分の表情が強張ってゆくのが手を取るように分かる。 「何言ってるの?ねぇワタラセくん、変な冗談はやめてよ。面白くないよ」  思わず強い口調になってしま

          過去を抱いて今は眠るの 5

          過去を抱いて今は眠るの 4

           宮園恵(ミヤゾノ メグミ)が連れてこられたのは、体育館裏にある倉庫だった。  昼休みに足を運んだ時と同じく、湿った土の匂いがまだ辺りに強く残っている。風が吹くたびに、伸び放題になっている雑草や木々が音を立てて、メグミの恐怖心をくすぐった。  渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は慣れた手つきでワイシャツの胸ポケットから鍵を取り出し、真ん中の扉の鍵穴に差し込む。  「ねぇ、なんでここの鍵なんか持ってるの?」  メグミが聞くと、ワタラセは短い舌打ちをした。  「関係ねぇだろ」

          過去を抱いて今は眠るの 4

          【お知らせ】セイエン文庫さんにて朗読して頂きました「ねぇ、先生。」が期間限定で無料公開キャンペーンを実施中です!お耳に時間のある方はぜひ!ぜひぜひこの機会に聞いてみてください!素敵な声にきっとくらくらしてしまいますよ。 https://note.mu/seienbunko/n/n226ddac27c84

          【お知らせ】セイエン文庫さんにて朗読して頂きました「ねぇ、先生。」が期間限定で無料公開キャンペーンを実施中です!お耳に時間のある方はぜひ!ぜひぜひこの機会に聞いてみてください!素敵な声にきっとくらくらしてしまいますよ。 https://note.mu/seienbunko/n/n226ddac27c84

          過去を抱いて今は眠るの 3

           「おい!ミヤゾノちょっと来い!入学してからずっとお前のことが気になってたんだ!」  という渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)の声に、一年一組の教室に居た誰もが言葉を失っていた。雑談で溢れていた教室はしんと静まり返り、遠くで蝉の鳴く声が聞こえる。  がたん。  と、音を立てて椅子から立ち上がったのは、宮園恵(ミヤゾノ メグミ)ではなく、千葉茉由(チバ マユ)だった。  いっぽう名前を呼ばれたメグミは、ワタラセの言葉を理解することができずにフリーズしている。  「おい!聞こ

          過去を抱いて今は眠るの 3

          過去を抱いて今は眠るの 2

           「そろそろ元気出しなよぉ。何かひどいこと言われちゃった?」  というのんきな声と共に、机に突っ伏していた宮園恵(ミヤゾノ メグミ)に飴の袋が差し出された。メグミは何のためらいもなくその袋に手を突っ込む。声をかけてきたのはクラスメイトの千葉茉由(チバ マユ)だった。メグミのことを心配そうに見つめている。  学校中で「変人」と呼ばれているワタラセの元を訪れてから、メグミはすっかりしょぼくれてしまっていた。お昼休み、ワタラセに「ある相談」を聞いてもらうまでの流れは良かったのだ

          過去を抱いて今は眠るの 2

          【告知】セイエン文庫様にて「0.3ミリ」「待ち焦がれながら真夜中に」「ねぇ、先生」を朗読して頂きました。私の作品だとは思えないほど、とっも素晴らしく仕上がっています。最高です。有料マガジンですが、一人でも多くの方に聴いて頂きたいです。 https://note.mu/seienbunko/m/mc8ba7bfbb37f

          【告知】セイエン文庫様にて「0.3ミリ」「待ち焦がれながら真夜中に」「ねぇ、先生」を朗読して頂きました。私の作品だとは思えないほど、とっも素晴らしく仕上がっています。最高です。有料マガジンですが、一人でも多くの方に聴いて頂きたいです。 https://note.mu/seienbunko/m/mc8ba7bfbb37f

          過去を抱いて今は眠るの 1

           昼休みのチャイムと同時に宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は、お弁当を持って教室を飛び出した。朝降っていた雨はすっかり上がっていて、乾いたアスファルトに夏の日差しが反射している。肩の辺りで切りそろえている髪の毛が、汗をかいた首にまとわりついてきて気持ちが悪い。けれど速足になるのを止めることはできなかった。  メグミはクラスメイトのマユに紹介された人物を訪れるために、体育館裏に向かっていた。正確に言うと体育館裏にあるらしい倉庫を目指している。この高校に入学して四か月ほどたつけれど、

          過去を抱いて今は眠るの 1

          多分、同じ月を見ているのだろう

           木漏れ日が落とすまだら模様がくすぐったそうに揺れている。公園のベンチに腰を掛けて、ぼんやりとそれを眺めていた。  持ってきたサンドイッチはとっくに食べてしまって、パンくずも鳥たちにあげてしまったから、私はすることもなく休日を持て余していた。  さんぽ中の誰かの犬が短く吠えると、それに反応した鳥たちがいっせいに飛び立っていった。巻き起こる風に木々がざわめいて、思わず顔を上げると、月があった。青い空に、いまにも剥がれ落ちそうな、そんな心もとなさで。  薄白く空に張り付

          多分、同じ月を見ているのだろう

          ☆お知らせ☆ このたびセイエン文庫さまで朗読していただきました。 短編声演集「お月様の食べ方。」 https://note.mu/seienbunko/m/m3f20f664bb23 私のつたない作品に声優さん方が命を吹き込んで下さいました。嬉しくて飛び跳ねてます。素晴らしいのでぜひ、聞いてくれたら嬉しいです。

          ☆お知らせ☆ このたびセイエン文庫さまで朗読していただきました。 短編声演集「お月様の食べ方。」 https://note.mu/seienbunko/m/m3f20f664bb23 私のつたない作品に声優さん方が命を吹き込んで下さいました。嬉しくて飛び跳ねてます。素晴らしいのでぜひ、聞いてくれたら嬉しいです。

          宝石箱の住人

           触れれば簡単に砕けそうな硝子のピアス。  細かい曲線が連なった金の指輪。  ぐにゃりと曲がる薄いバングル。  どれもほんの少しの不注意で壊れてしまいそうなものばかりで、でもカエデさんの周りはそういったもので溢れている。  「わざと身につけて緊張感を持って生きなきゃ、私はダメになるんだと思う」  カエデさんが初めて俺の家にやってきたとき、彼女はひどく不安そうな顔をしてそう言った。俺より年上だけど、ひょっとしたら泣き出すんじゃないかと身構えた。でもカエデさんはそのとき

          宝石箱の住人