ぼんやりとした小説を書いています。

砂場で眠る

砂場で眠る。私は手をつないでもらっている。
 目の前は星空ばかりで、月は見当たらなかった。でも空がぼんやりと明るいからきっとどこかに隠れているのかもしれない。
 月光が漏れ出ている空が、ジャングルジムの影を私の体に薄く這わせている。その交錯する影の直線が亀裂のようだとぼんやりと思った。つないでいる手は私を何かと繋ぎ止めてくれているもので、きっと今手を離したら、私の身体はこの亀裂から裂けてバラバラに

もっとみる

疲れきった天国  1

「飲んで良いよ」

 そう言って、コンビニから戻ってきたマキオが渡してきたのは缶チューハイだった。私は顔を歪めながらもそれを受け取る。勢いよくプルタブを引くと空気の抜ける音が車内に響き渡った。夏の夜だけが持つことを許されている密度の濃い空気が、冷えた缶にまとわりついて、水滴となり私の手や肘を濡らした。

 ひと夏の恋も、欲望も、嫉妬も、幸せも、まどろむような疲労感も、すべてをごちゃまぜにして、なん

もっとみる

海に連れてって。今すぐに

車は暗闇の前で震えながら停まった。

「ついたよ」

シフトレバーをパーキングに押し込みながら言うと、助手席で眠っていたユリは目をこすって短く息を吐き出した。たぶん笑ったのだと思う。暗くてよく見えなかった。車内のライトをつけると彼女は片目をつぶって眉を寄せた。

「まぶしい」

手足を伸ばしながら言う彼女からは、俺と同じシャンプーの匂いがする。

おとこ物の、清涼感の強いその匂いでさえ、ユリが纏う

もっとみる

過去を抱いて今は眠るの 6

「な、なにそれ?どうなってるの?」 

 宮園恵(ミヤゾノ メグミ)は座っていた座布団から身を崩し、顔を引きつらせながら後ずさった。

 顔面を殴られたはずの冷原一(セイライ ハジメ)は、他人事のように頭の後ろをぽりぽりと搔いている。

 「お前が言うところの幽霊ってやつだ。だからハジメには触れることはできない」

 渡良瀬誘(ワタラセ イザナ)は下を向いて、頭を押さえた。絞り出すように放たれた言

もっとみる

彼は独りで甘く眠る

握りしめていた手のひらの中で、「秘密」がぐにゃりと溶け出しはじめた。

 私はそれに気づきながらも、手を開くことはしなかった。かわりに息をゆっくりと吸い込み、あいている手で筆を動かす。

 私の体温で少しづつ形を失ってゆくそれは、甘いミルクの匂いを漂わせながら、彼の存在を色濃くさせてゆく。居ないはずなのに、彼が近くに居るのだと、つい錯覚してしまう。そのたびに私の心臓は小さく高鳴り、必ず痛みを連れて

もっとみる