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出版大手三社が流通に参入

◉講談社・小学館・集英社の大手出版社三社が、流通に参入とのこと。あまり話題にもなっていませんし、たぶん一部の人間にしか需要がないと思いますが、いちおう出版業界に編集者として30年近く関わっている人間ですから。noteはロングテイルで読まれるSNSですから、作家や投稿者、出版業界に興味がある人が、ボチボチ読むことを想定して、想うところを書いておきます。備忘録も兼ねて。

【講談社など3社、書籍流通へ参入 出版生き残りへDX】日経新聞

講談社と集英社、小学館は、全国の書店に書籍や雑誌を届ける流通事業を始める。丸紅を加えた4社で年内に共同出資会社を設ける。出版流通は取次会社が担ってきたが約4割は売れずに返品されている。新会社では販売データなどに基づく需要予測で各書店の客層に合った書籍を届け、市場縮小が続く出版業界の生き残りを狙う。
出版流通は日販グループホールディングスとトーハンの取次2社による寡占状態で、出版社が流通を手掛けるのは異...

DXとはDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)のことで、デジタルデータの活用などIT化によって、生活がより良い方向に変化すること。

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■取次会社と再販制度とは?■

まず基本的なところから。日本の場合は、出版社は取次会社(出版取次)に自分で作った本を流通させてもらいます。全国の書店や鉄道会社の売店やキオスク、コンビニエンスストアなどに配ります。で、再販制度があるので、売れなかった本は、一定期間をおいて出版社に戻ってきます。取次会社は日販やトーハン(東販)が2強で、この2社でシェアの70%を占めます。他に17社がありますが、栗田出版販売や太洋社など倒産しちゃいました。

再販制度とは、正確には『再販売価格維持』のことです。Wikipedia先生の説明が解りやすいので、以下に転載しますね。本来ならば適正な競争を阻害するので、資本主義経済国家の多くは独占禁止法で原則禁止しています。原則、ということは例外があるということ。日本では、書籍や雑誌、新聞、音楽ソフト、タバコなどが対象です。コレはメリットもデメリットもあります。

再販売価格維持(さいはんばいかかくいじ、英語: resale price maintenance)は、商品の生産者または供給者が卸・小売業者に販売価格を指示し、それを遵守させる行為。再販売価格維持行為(再販行為)、再販売価格の拘束とも称する。商品の供給元が小売業者の売価変更を許容せず、定価販売を指示すること。

■取次会社と出版社の関係■

なんか、大手出版社が取次会社の支配から脱して云々という解説を加えている人を見掛けましたが。大手出版社は取次会社の株主でもあって、むしろ再販制度のもとでは、有利なんですよ。だから、電子書籍の普及に当初は積極的ではなかったんですよね。講談社は若社長が力を入れまくりましたが、小学館とか未だにあだち充先生の全作品が電子化されていないという体たらくです。

01位:株式会社講談社 - 6.33%
02位:株式会社小学館 - 6.27%
03位:日販グループ従業員持株会 - 3.92%
04位:株式会社光文社 - 2.95%
05位:株式会社文藝春秋 - 2.40%
06位:株式会社秋田書店 - 2.35%
07位:株式会社三井住友銀行 - 2.23%
08位:株式会社KADOKAWA - 2.13%
09位:株式会社TSUTAYA - 1.97%
10位:株式会社旺文社 - 1.91%

上記データも、Wikipedia先生より転載。原作者の故鍋島雅治先生は、小池一夫先生のスタジオシップの経理担当として当初は採用され、取次会社に自社の本の取り扱いを頼みに行くと、挨拶しても無視、口を開けばいかに売れていないか、いかに返本が多いかの嫌味を言われ、でも大手出版社の営業が来ると、満面の笑みで揉み手すり手と、酷い扱いをされた思い出を語っておられましたが。

■狙いは大手三社の寡占?■

そんな、印刷書籍の流通においては、絶対的に有利な大手がさらに流通に乗り出す。どういうことかといえば、業界最大手の日販への影響力は強いとは言え、4位以下の会社の本も扱わないといけないわけで。でも、講談社・小学館・集英社の会社なら、それ以外の会社に気を遣う必要はないわけで。つまり、コレはますます大手三社の書店への支配が強まるわけで。手放しでは喜べないでしょう。

もちろん、講談社系音羽グループ(光文社・星海社・一迅社・日刊ゲンダイ・ビーシー・短歌研究社など)と、小学館系一ツ橋グループ(白泉社・祥伝社・ホーム社・照林社・演劇出版社など)の各社は、安泰でしょうけれど。弱小の出版社は苦しくなるし、デジタル移行ができてない老舗は、廃業するでしょう、逆に、デジタル移行が進む可能性もありますが。

■本屋と映画館の相似形■

自分は本好きが昂じて出版社の編集になった人間ですから、本屋は今でも好きですが。本屋はどんどん減っていって、さらに半減するだろうと思っています。自分が業界に関わりだした1990年頃は2800店舗前後あったのですが、2000年ごろには21500店舗弱、2010年ごろには15000店舗、今は11024店舗と減る一方。ただ、一店舗当たりの売り場面積は増えてて、大型店化が進んでいます。

それこそ、映画館の数が全盛期の1960年には7000館以上あったのが、1993年には1734館まで落ち込み、現在は3437館まで回復した状況と、似たような感じになるかも、です。本屋は都市部の大型店が増え、地方はもう小さな書店に注文するより、Amazonなどで直接注文するか、電子書籍での購入が主になって、全国に数千店舗になるでしょう。悲しいですが、コレも時代の流れでしょうね。

■出版社が書店を経営する未来■

映画という点に関連していうなら、日本の映画館は映画会社の系列。シン・エヴァンゲリオンのように、東宝と東映が配給することもありますが。コレに対する批判もありますが、自前で箱を持つのはリスクと利益はセット。土地建物を押さえ、映画館を中心としたショッピングモールとか、手を打った部分は認められるべきで、深田晃司監督のような批判は、全面的に同意できません。

流通に関しては、例えば大日本印刷が出版社にとって目の上のコブだったブックオフを買収しましたし。また、大日本印刷の子会社である丸善CHIホールディングスがジュンク堂書店を買収し、子会社にしています。大型店舗のチェーン店を、出版社が買収したり、自分たちで経営する未来は有り得そうです。Appleが、Apple Storeという自前の流通ルートを持ったように。都市部限定ですけどね。出版社は意外に、不動産収入が多い業種ですし。

■大手とインディの二極分化?■

で、アメリカでは再販制度がないため、大手の本屋チェーンが版元から大量に本を購入し、定価の5-20%引きで販売します。売れなかったら、本屋の損になりますが、利幅も大きいです。結果的に、アメリカは売れ筋が大量に並び、少部数の本は手に入りづらいです。今回の大手三社のやろうとしていることは、コレではないかと邪推します。もちろん、再販制度の建前上、値引きはしません。

でも、取扱量を増やしてくれる見返りに正味、つまり卸価格を下げるなどの優遇で、本屋の利益率を高める。では、田舎の小さな書店が1冊だけ注文とか、対応するのか? たぶんしないでしょうね。そこは、実はAmazonが去年から少部数の中小書店の注文に対応しだしたので、そっちはAmazonに丸投げして、都市型の大型店舗での配本が中心になるだろうと、邪推しておきます。違ったらごめんなさいm(_ _)m

中堅弱小出版社は、ますます苦しくなりますが、KADOKAWA以下の出版社がどう動くか。専門書の出版社は流通ルートが決まっているので、細々とやっていけるでしょう。中堅どころは、大手に身売りしてグループ入りするなど、再編が進かもしれません。一迅社などは、その嚆矢なのかもしれませんね。同時に、作家個人や編プロが、電子書籍でのニッチを狙っていける部分もあるかな、と期待します。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ