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TVドラマがドル箱になった弊害

◉日本テレビのドラマ『セクシー田中さん』と芦原先生の件は、漫画家の間にかなりの動揺を与えています。興味深い指摘がありましたので。インターネット時代のビジネスモデルの転換、という視点で少しばかり、語ってみたいと思います。前々から書いていることですが、インターネットの出現・SNSの発達・スマートフォンの高い普及率は、音楽・映画・テレビ・新聞・雑誌などのビジネスモデルを、大きく変える形になっています。旧来のビジネスモデルに安住したい向きには、これが不満なんですが。この波に乗ったほうが、旧メディアは延命できると思うのです。

【なぜ日本テレビは「セクシー田中さん」を改変したのか…元テレ東社員が指摘「テレビの腐敗」という根本問題】プレジデント・オンライン

 昨年10月~12月に放送されたテレビドラマ「セクシー田中さん」(日本テレビ)の原作者で漫画家の芦原妃名子さんが亡くなった。芦原さんは「マンガを大きく改編したプロットや脚本が提出されて(いた)」などと、ドラマ化をめぐるトラブルをSNSに投稿していた。なぜテレビ局は、原作者の意に沿わない改変を行ったのか。テレビ東京でドラマ・プロデューサーを長く務めた、桜美林大学教授の田淵俊彦さんは「テレビ業界の『ドラマ偏重主義』にトラブルの一因がある」という――。

https://president.jp/articles/-/78338

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、メイプル楓さんのイラストです。

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■ドラマは良質コンテンツ■

詳しくは、上記リンク先の全文を、お読みいただくとして。ポイントをザックリ言えば、地上波中心のテレビのビジネス・モデルでは、かつては制作費がかさんで赤字で、会社側からは敬遠されていたテレビドラマは、配信によって儲かるコンテンツになった、という点。でもこれ自体は、自分が編集者だった90年代末からゼロ年代の前半に、既に萌芽はありました。お昼のドラマが低視聴率でも、DVDのセールスで十分にペイできるという感じで。フジテレビ系列の東海テレビの、『真珠夫人』のヒットが嚆矢でしたね。ネット時代になって、配信で稼げるようになったと。

 近年、テレビ局はドラマ制作に躍起になっている。ドラマはほかの番組ジャンルより格段に制作費がかかる。そのため少し前までは費用対効果が低いと考えられてきた。だが、いまドラマはテレビ局にとって「採算性が悪いコンテンツ」ではなく、「ドル箱」とも言える重要コンテンツに変わろうとしている。
 その可能性を大きく裏づけたのが、民放公式テレビ配信サービス「TVer」におけるドラマの再生数の実績である。最新の2023年10~12月期の総合番組再生数ランキングでは、上位10位に入っているバラエティは7位の「水曜日のダウンタウン」だけでそのほかはドラマの独占状態である。「セクシー田中さん」も5位にランクインしている。

世界最大級のテレビ見本市MIP(春はMIPTV・秋はMIPCOM)で、世界中のバイヤーから番組が購入されているというのも、テレビコンテンツが映画のように、商売として広がってる証拠で。これはタイで日本とで同時期に韓国の歴史ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い』が放映されていて、世界市場は狭くなりつつあるなと、20年ぐらい前に感じましたから。優れたコンテンツをきちんと作るのは、長い目で見るとビデオや配信などでのセールスに跳ね返って、会社に利益をもたらす。

■ビジネスモデルの転換期■

インターネットを適しするマスコミですが、ひとつの可能性でもあります。視聴率の高い番組を出して、スポンサーから広告料をもらうというビジネスモデルから、自社のコンテンツを販売し、売れるコンテンツにするという、転換の武器になるわけで。テレビが登場したとき、映画業界は敵視しました。実際、昭和33年をピークに、映画館はどんどん減っていきましたが。今はむしろ、テレビとタイアップした作品・テレビでヒットした作品の劇場版が、ヒットする時代ですから。ただそのためには、金を払ってもらえるような、質の高い作品を作るという、あたり前の努力が必要です。

自分は、広告料に依存したビジネスには、疑問を持っています。テレビやラジオは言わずもがな、新聞も収入のほとんどは新聞を売った売上ではなく、広告費に依存しています。雑誌は、バブルの頃はマガジンハウスがそういう広告依存型のビジネスモデルにシフトしましたが、バブル崩壊で大打撃。けっきょく、物を売るという昔ながらのビジネスモデルは、古臭いと言われようとも、堅実で確実なんです。かのスティーブ・ジョブズがApple Storeを作ったのも、運営資金の日銭が入るという落語『小言幸兵衛(搗米屋幸兵衛)』で幸兵衛さんが言ってるのと同じ理由です。

漫画業界だと、新田たつお先生の『静かなるドン』という、とっくに連載も終わり雑誌も休館した作品が、ピッコマなど漫画配信サイトで配信されたら大人気で、版元の実業之日本社に6億円を超える利益をもたらしたように。ビジネスモデルは変わりつつあるのですから。一方的に敵視しても、時代は巻き戻りません。であるならば、没落する武士階級と勃興する商人階級という時代の変化を見て取った田沼意次が、重商主義政策で貿易赤字を解消し、国内に経済的な繁栄をもたらしたように。旧メディアも変化すべき時期なんでしょう。もう昭和ではなく、令和です。

■映画界とテレビ界の行方■

なのに、昭和の時の感覚のままで、有名タレントのスケジュールをまず押さえて、その後で適当な原作を探す、みたいなことがまだまかり通っているのですから。今回の『セクシー田中さん』も、原作者の芦原先生に話が来たのは6月なのに、タレントには5月にオファーが来ていたという情報も、漏れていますね。ベリーダンスなんて、そんな短期間で身につくものですかね? 別に、1年前から本格的にやれとは言いませんが。アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』が数年前から動いて、あの完成度と原作の過不足を埋めていったのを見せたのですから、もうそういう手法も、淘汰されるべき時期。

以前にも書きましたが、2023年の邦画界全体は、興行収入10億円以上の作品は34本で、その合計1139億1000万円。アニメ12本、漫画原作19本、小説原作6本、ゲーム原作1本、テレビ作品の劇場版・またはテレビ版が有る作品16本。重複も含みますので端的に言えば、漫画・小説・ゲームの原作付きが26本です。34本中26本が原作付き。テレビドラマの統計は解りませんが、似たような状況でしょう。制作費が安い分、冒険も出来るのでもうちょっと、オリジナル脚本が多いとは思いますが。

芦原先生は、映画版の『砂時計』のスタッフには最大限の敬意を払っていましたから、やはり日本テレビのプロデューサーに、窓口となった小学館の編集者か担当部署の人間が、コミュニケーション能力に欠けたのか。犯人探しをしてもしょうがないですが、このプロデューサーが過去にも似たような事例をやらかしているのは、事実です。元記事の執筆者である田淵氏が、その経歴から庇うのは理解できますが。脚本家も、日本シナリオ作家協会も、正直言って感じ悪い部分が見られましたし、脚本家仲間からも批判されてるのも、事実です。まぁ、自分だって編集者時代にやらかしていますし、恨んでいる漫画家もいるでしょうから。

■責任逃れをする巨大企業■

ここで終わろうかと思ってたんですが。小学館側が、説明責任は果たさないというニュースが、流れてきました。この態度に、作家側が苦言を呈しまくっています。当たり前ですね。しょせん日本テレビも小学館も、労働組合があって守られている社員と違って、いざとなれば弱い立場の個人事業主やフリーランスに責任を押し付けるのであって、ビジネスパートナーでもなければ、下請けぐらいにしか考えていないのが、可視化されてしまいましたね。「テレビ局との交渉で、やましいことがありました」って自白に見えちゃうよね。

芦原先生は、経緯を説明しようとされて矢面に立たされて、死を選んだんですから。本当に寄り添う気があるなら、経緯を説明するのが真っ当では? 担当編集が力不足だったのか、『名探偵コナン』で関係の深い日本テレビに忖度したのか、そこは分かりませんが。やはり、まだまだテレビの影響力は大きく、アニメ化やテレビドラマ化で、売れ行きがぜんぜん違ってきますからね。どんな失敗作でも、それで漫画や小説の売上が落ちることはなく、小学館的には重要なビジネスパートナー。社員でもない漫画家は、護らないと?

【小学館 芦原妃名子さん急死の経緯、社外発信の予定なし 説明会受け、社員からは反発の声も】スポニチ

 昨年10月期放送の日本テレビドラマ「セクシー田中さん」の原作者で漫画家の芦原妃名子さん(享年50)が急死したことを受け、小学館が6日に社員向けの説明会を開いたことが分かった。同社関係者によると、現時点で同社が今回の件に関する経緯などを社外発信する予定はないとの説明があった。出版活動にあたっては、今後も作家に寄り添うことを誓い、その姿勢を改めて作家に伝えていくという。

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2024/02/07/kiji/20240206s00041000603000c.html

『美味しんぼ』の福島ヘイトは全力で擁護し、役員が元総理暗殺犯を賞賛する会社ですからね。今回の件は逆に、特定の役員や社長の思惑で、歪められている疑いは拭えないわけで。労組が強いので社員は守るけれど、しょせんフリーランスは消耗品、と? 子会社の集英社の方が、売れてる雑誌が多いというコンプレックスを、拗らせてる編集者がいますし。『さるまん』でもネタにされたように、漫画を馬鹿にしてる高学歴社員もいるでしょうし。楳図先生や雷句先生やヒガ先生とか、ずぅ〜っとトラブルが絶えませんねぇ。

作家が、自分で出版社を持って、自分で発信して、自分で収益を上げられる時代だって、わかっていないですね。

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