私の思い出の中の一コマシリーズ    「つとむくんの出来事」

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思い出の中にある一コマを思いつくままに書きます。
私の知人・友人で、登場人物に「あれ?これ私とちゃうのん?」「これ俺のことちゃうんか?」とお心当たりのある方はお知らせください。
その思い出について語り合いましょう~。
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小学3年生の時の担任の先生は、徳島出身の若い女の先生だった。
3年3組、大島先生。
「ちゃいこらちゃいちゃい。」とタイ語みたいな言葉を使って生徒を注意してはった。
元気が良くて朗らかで大好きな先生だった。

そのクラスにつとむくんがいた。
クラスの中でも特に元気のいい、いわゆるやんちゃ坊主。
時間があれば外で走り回っているような感じでキーンコーンカーンコーン~と休み時間になるチャイムが鳴ったら誰よりも早く教室を飛び出し、授業開始にぎりぎりセーフで教室に戻ってくる。
引っ込み思案の私は口をきいたこともなかったけど男の子たちには人気の、頼られるタイプの男の子だったんだと思う。

その頃(昭和40年代終わり頃)の小学校と言えば、みんなが色んなものをクラスに持ってきた。
庭に咲いた花を切って持ってくる子が多かったけど、「学習」としてみんなに見てもらうために学校外で何か珍しいものを見つけたり入手した際には朝の間に先生の机の上に置いておくと先生がそれをみんなに見せ、必要があれば持ってきた人にその説明をさせてくれた。
それは、いつも楽しみだった。


その日も、朝の会が始まるまで男の子たちは外でボール遊びをしていた。
チャイムが鳴ってみんなが教室に戻り自分の席に着く。
しばらくして大島先生が笑顔で教室に入ってくる。
日直さんが前に出て朝の会をする間に、先生は机の上に誰かが持ってきたものがあれば、それを確かめて後からみんなに紹介してくれる。


先生の机の上には、高島屋の紙袋が一つ置かれていた。


突然、大島先生が「キャーッ」と大声で叫んで泣き出した。
朝の会が始まろうとする時に、一体何が起こったのか私たち生徒は目が点状態で教室がシーンと静まった。
いつも笑顔の大島先生が突然泣いてしまうなんて、何が起こったのか・・・
みんな緊張し、背筋を伸ばして成り行きを見守る。


しばらくして、大島先生は自分の手に負えないと思ったのか主任の石塚先生を呼んできた。
石塚先生は、中年のベテラン女性教諭で大声で生徒を威嚇するような𠮟り方はしないけれど、常にテンションの上がり下がりのない状態で落ち着いているのが子供の私には「怖い先生」と思えていた。


石塚先生は、教室を見まわし先生の机の上にある高島屋の紙袋を指さし、落ち着いた声で尋ねた。
「これを持ってきたのは誰ですか?持ってきた人は前に出なさい。」


つとむくんがサッと立ち上がり、「え?え?」という表情で前に出た。
石塚先生が静かに尋ねる。
「どうしてこういうことするの?」

こういうことって???
つとむくんは、何をしたんや?


なんと!
つとむくんが持ってきた高島屋の紙袋の中身は、死んだ大きなアオダイショウだった。
ワタシ的には、大蛇。
ヘビが大嫌いで怖くて仕方ない私は、大島先生の気持ちがよく分かった。
泣いて当たり前の怖さ。
袋の中身が見えた瞬間から恐怖のどん底に突き落とされてしまったに違いない。気の毒な大島先生・・・・


でも、同時にこの時はつとむくんの気持ちも理解できた。
つとむくんにはヘビは恐ろしいものでもなんでもなく、超お宝の収穫物だったと思う。
きっと前日の放課後、どこかで死んだ(その時は生きていたかもしれないけど)アオダイショウを見つけ、
「めっちゃすごいもの見つけた。明日学校でみんなにも見せたろ!」というノリで高島屋の紙袋に入れて持ってきたのだと思う。
だから、つとむくんは、静かに説教をする石塚先生の顔と泣いている大島先生の顔をちらちら見ながら神妙な「なんで怒られてるんやろ・・・」って顔をしていた。

石塚先生は、静かなお説教を終わるとこれまた落ち着いた様子で死んだアオダイショウ入り高島屋の紙袋を涼しい顔でひょいと提げてどこかに持って行ってしまった。

「すご・・・」
心底からヘビ入りの紙袋を平気で持てる石塚先生をすごいと思った。
ヘビやで、ヘビ・・・・・
私はヘビが何より怖い。


思う存分サポートしてやってくださいっ。「よ~しっ!がんばるぞ!」という気になってもっとがんばって書きます。