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敬語について

このページは受験生のための古典文法の復習を目的としたものです。
★:古文漢文の基本知識に関する掲載一覧は古典読解のための知識確認:目次に戻ってご確認ください。

以前に作った動画を試みにあげてみますが、自分で見ていて眠くなるような代物にすぎません。観る場合には1.25倍速程度で視聴してください。


■公式35:敬語の語彙

A:基本知識

■ 敬語の種類には尊敬・謙譲・丁寧の三種類があり、それらは動作に関わる動詞、助動詞、補助動詞によって表される。
本動詞と補助動詞の区別は、補助動詞は動詞の下にあってその動作に敬意を与えていると考えれば、多くの場合、動詞の下にあることがその判断理由とできるが、本来は本動詞としての意味がないことが原則であるので注意する必要がある。特に「侍り・候ふ・おはす」が断定の助動詞「に」の下にある場合は補助動詞であることは注意したい。例えば「なに人にかはべりけむ」の「はべり」には「あり(存在する)」の意味はなく、「に・あり」の「あり」が敬語化した補助動詞である。
かえって混乱するかもしれないが、助動詞は「る・らる・す・さす・しむ」(尊敬)しかなく、丁寧のニュアンスは「侍り・候ふ」にしかない。


■ 敬意の方向の仕組みについては理解がしやすく、敬語への抵抗感は語彙を覚えられないことにあると思う。基本的な敬語の語彙として本動詞・補助動詞・尊敬・謙譲・丁寧の入り交じる語をマスターすれば、敬語に対する抵抗感は激減する。それは例えば下に挙げたような語である。それぞれの語について、例に従って、( )に示した数の意味用法を答えてみよう。

・給ふ(3)→例:「与ふ」の尊敬語・尊敬の補助動詞・謙譲の補助動詞
・おはす(おはします)(2)
・申す・聞こゆ・聞こえさす(2)
・奉る(3)
・侍り・候ふ(3)
・参らす(2)
・参る(3)

解答 必記憶敬語を参照

B:基本問題:敬語の説明・口語訳確認

ア:女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、
イ:まことにやはべらむ。
ウ:いかなる故か侍りけむ。
エ:壺なる御薬奉れ
オ:さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人に、いとよう似たてまつれるが、まもらるるなりけり

解答
ア=「仕ふ」の謙譲語
・女御や更衣がたくさんお仕え申し上げていた中に
イ=丁寧の補助動詞
・本当でしょうか
ウ=「あり」の丁寧語
・どのような理由があったのでしょうか。
エ=「飲む」の尊敬語
・壺にあるお薬をお飲みなされ。
オ=ともに謙譲の補助動詞
・それにしても限りなくお慕い申し上げている方に、たいそうよく似申し上げているのが自然と見つめられてしまうのだなあ

C:入試問題

1:同じ用法の「きこゆ」の含まれている文を選びなさい。
世の人と思ひきこえけるに、当代の御ひとつ筋にてあるべきさまの御掟なりけり。
選択肢
:関白殿、御前にたえず物し給ひて、世のまつりごとなどきこえ給ふ
:そのほどのめでたさ、宮にはたはぶれにも思ひよりきこえ給はざりけむ
:歌を召せば、あはれに忘れがたく恋ひきこゆる昔の人びと、われもわれもと奉れり
:このほど帝降りさせ給ふべきよしきこゆれば、いととく撰集奏せられけり
:古く仕うまつりける女房のもとより、あはれなる御消息をきこえて、御衣替への御衣を奉りけり

2:「侍り」が本動詞として用いられているものをすべて選べ。
ア:僧のつたなげなる侍り
イ:やすみする臥しどとはし侍りけるなめり
ウ:優なる事なむ言ふ時も侍りける。
エ:なすべきこと侍りて、東路に思ひ立ちて、・・
オ:聖あへなく覚えて、人をわかちて尋ね侍れど、・・
カ:物をわかちおきて、かへりてこれにまよふに侍り。

3:次の「まゐらせ」と文法的に見て同じものを二つ選べ。
をととしの御ここちのやうに、あつかひやめまゐらせたらん、何ごこちしなん。
イ:ものまゐらせこころみんとてなりけり   
ロ:大弐の三位、御うしろにいだきまゐらせて、・・・
ハ:「ものまゐらせよ」とあれば・・       
ニ:殿のうしろのかたよりまゐらせたまひけるも・・
ホ:ふさせたまひぬれば、そひふしまゐらせぬ 
ヘ:大殿近くまゐらせたまへば、御ひざを高くなして、かげにかくさせたまへば・・・

解答・・1=BC・2=アウエ・3=ロ・ホ


■ 公式36:敬意の方向

A:基本知識

敬語は誰かが誰かに敬意を表すために使われる。それを見極める。
敬意の出発点(誰が)は、地の文であれば作者、会話文であれば話者である。
敬意の対象(誰に)はそこに用いられている敬語の種類によって変わる。
日本語の敬語は動詞・補助動詞・助動詞を主とするため、「動作」に付随して用いられる。動作を直接高めるのが尊敬語であり、したがって尊敬語が用いられていればそれは動作主(主体)への敬意を表している。
動作の受け手(客体)に敬意を与えたい場合は、動作をしていないために直接高めることができないために、動作主の行為を「申し上げる」などの言葉を加えることで低め、間接的に動作の受け手(客体)に敬意を表す。これが謙譲語である。
丁寧語はそうした動作と無縁に話し手と聞き手の関係で決まり、話し手が聞き手・読み手(対者)に敬意を表したい場合に用いる。


B:基本問題:敬意の方向を答えなさい

:かぐや姫、いといたく泣き給ふ
:翁(月の国の使者に)答えて(A)申す。「かぐや姫を養ひ(B)奉ること二十余年になりぬ」
:かぐや姫(が翁に)「見れば世の中心細くあはれに侍る」といふ。

解答
ア=作者→かぐや姫
イ:A=作者→使者・B=翁→かぐや姫
ウ=かぐや姫→翁

C:入試問題

■ 次の文章は『今鏡』の一節で敏捷な藤原成通に関する話である。A~Fのうち成通に対する敬意を表しているのはどれとどれか。(センター試験)

(成通が宮内卿有賢の女房のもとに通っていたが、宮内卿の侍たちが何者だろうかと不審に思い、明け方、男が女の所からでてくるところをとらえようと待ち構えていた。ところが、それが成通であることがわかり、侍たちは平伏する。ちょうどその時、主の宮内卿もその場に現れて・・)

宮内もたたずみ歩かれけるが、急ぎ入りて装束して、出であひ申さ(A)れて「こはいかなることにか」と騒ぎければ、「別のことに(B)侍らず。日ごろ女房のもとへ、ときどき忍びて通ひつるを、さぶらひの『待ち伏せむ』と申す由(C)うけたまはりて、『そのおこたり申さむ』とてなむ、参りつる。と侍りければ、宮内おほきに騒ぎて「この科はいかにあがひ(D)侍るべき」と(E)申されければ、「べつのあがひ侍るまじ。かの女房を(F)賜りて、出で侍らむ」とありければ、左右なきことにて、御車、供の人など徒歩にて門の外にまうけたりければ、具して出で給ひけり。
選択肢
1:A「れ」とB「侍ら」 
2:B「侍ら」とC「うけたまはり」  
3:C「うけたまはり」とD「侍る」
4:D「侍る」とE「申さ」 
5:E「申さ」とF「賜り」

解答=4

■ 公式37:二方面に対する敬意

A:基本知識

話し手が自分の話題の中の動作主(主体)と動作の受け手(客体)の両方に同時に敬意を表したいとき謙譲・尊敬の順に敬語を重ねる。「いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ 給ひける中に」では、作者は「候ふ」という「仕ふ」の謙譲語によって天皇に敬意を表し、「給ふ」という尊敬の補助動詞によって女御更衣に敬意を表しているのである。
敬語が重なる場合は、二重尊敬の「尊敬・尊敬」という重なりと、「謙譲・尊敬(・丁寧)」という重なりが基本であることも覚えておくとよい。

B:基本問題:敬意の方向を答えなさい

:僧、「母上は、君をこそ兄君よりは、いみじう恋ひ(A)聞こえ(B) 給ふめれ」
:(かぐや姫は)いみじく静かに、公に御文(A)奉り(B)たまふ

解答
ア:A=僧→君・B=僧→母上
イ:A=作者→天皇・B=作者→かぐや姫

C:入試問題

次の文章は『源氏物語』「橋姫」巻の一節で、宇治の八の宮(光源氏の弟)と、ようやく成長したその娘たち(大君。中の君)との家族団らんの場を語ったものである。文章中の傍線部A~Cの敬意の対象をあとの1~5のなかからそれぞれ一つずつ選べ。

御念誦のひまひまには、この君たちをもてあそび、やうやうおよすけ給へば、琴習はし、碁打ち、偏つきなど、はかなき御遊びわざにつけても、心ばへどもを見(A)奉り(B)給ふに、姫君は、らうらうじく、深く重りかに見え(C)給ふ
選択肢
1 大君・2 中の君・3 大君と中の君・4 亡き母・5 八の宮

解答:A=3・B=5・C=1


■ 公式39:最高敬語

A:基本知識

地の文で身分が最上級の人に対して尊敬語が二度重ねて用いられるとき、これを最高敬語と呼ぶ。
代表的な例は「せ給ふ・させ給ふ・仰せらる」など。最高敬語は天皇、皇后、中宮、院を中心とした皇族、または話者の意識によりそれに準ずる高位の人などに限定して用いられる敬語である。ただし、二重尊敬であっても会話文中にある場合は普通の敬意である。
また「せ給ふ・させ給ふ」の「す・さす」が使役の意味で用いられることがあり、「れ給ふ・られ給ふ」の「る・らる」は尊敬の意味ではないことに注意することも必要である。

B:基本問題:助動詞の意味を確認

ア:殿ありか給ひて
イ:御随身を召して遣り水はらは給ふ
ウ:まどろま給はず
エ:かく罪せられ給ふを
オ:「いとよし」と仰せられ
カ:腹立た給へど

解答
ア=尊敬・イ=使役・ウ=可能・エ=受身・オ=尊敬・カ=自発

■ 公式39:絶対敬語

A:基本知識

奏す・啓す」は特定の相手に限定して用いられる敬語で絶対敬語と呼ばれる。「奏す」は天皇、上皇「啓す」は中宮、皇后、皇太子などを対象として使う。両者とも「言ふ」の謙譲語であり、「奏す」とあれば天皇に対して申し上げている(訳は「申し上げる」または「奏上」する」)ことが分かる。最高敬語とともに人物関係の特定に役立つ語でもある。ただ、「言う」主体ではなく客体であることを間違わない。

B:基本問題:空欄補充
「よきに奏したまへ、よきに啓したまへ」の解釈は「(ア)様によろしく(イ)てください。(ウ)様によろしく(エ)てください」となる。

解答
ア=天皇・申し上げ(奏上し)
イ=中宮(など)・申し上げ 

C:入試問題
( )に入れるのに、最も適当と思われるものを選べ。
童に教へられしことなどを( )ば、いみじう笑はせたまひて、(中宮)「さることぞある。あまりあなづる古言などは、さもありぬべし」など仰せらる。(『枕草子』)
選択肢
1:言はすれ ・2:申さすれ  
3:宣はすれ ・4:仰せらるれ  
5:奏すれ  ・6:啓すれ

解答=6


■ 公式40:二つの「給ふ」

A:基本知識

「給ふ」には二つの「給ふ」がある。
■ ひとつは尊敬の補助動詞で、ハ行四段活用をし、「~なさる」という尊敬のニュアンスを与える。この尊敬の補助動詞「給ふ」は頻出しなじみが深い。
■ これとは別に謙譲の補助動詞の用法がある。
・これはハ行下二段に活用するため、下二の「給ふ」とも呼ばれる。
・会話文や手紙文の中で用いられ、「思ふ・見る・聞く・知る」などの知覚動詞につくことが特徴である。
・謙譲の補助動詞と言われるが、自分の話や手紙の中での自分の行為を低めることによって、話し手に対して敬意を払うというイレギュラーな存在である。主体の行為を低めることで誰かに敬意を与えるという仕組みにおいては謙譲語と言えるが、話し手に敬意を表すという点では丁寧語とも言える。簡単に言えば「へりくだり」である。
・訳す時は聴き手に敬意が向くという点では丁寧語と同じ「~です・~ます」で、また自分のへりくだりを意識するとすれば「存ずる」のような解釈の仕方が妥当である。普通の謙譲の補助動詞のように「~申し上げる」という解釈は用いない。

B:基本問題

1:
次の「たまふ」を説明し、口語訳しなさい。
ア:心安くてこそ侍らめとなん思ひたまふる
イ:人々、逃げ騒ぎたまへりけり。
ウ:うちの帝御衣(おんぞ)ぬぎてたまふ

2:次の「たまふ」の活用の種類・活用形・敬語の種類を答えなさい。
「さてもいくつにかなり(A)たまふらん」よ問へば、「いさ、よくもわれながら思ひ(B)たまへわかれぬほどになむ。百とせにもこよなく余り侍りぬらん」

解答

ア=謙譲の補助動詞
・安心でございましょうと思います。
イ=尊敬の補助動詞
・人々は逃げ騒ぎなさった
ウ=「与ふ」の尊敬語
・帝は御衣を脱いでお与えになる

A=ハ四・終止・尊敬の補助動詞
B=ハ下二・連用・謙譲の補助動詞

C:入試問題

1:ABの活用形と文法的意味、敬意の方向を記しなさい。  
「葬料給はり候ひぬべかめりと思ひ(A)給へて(毒キノコを)食ひ候ひつるなり。それに死なずなり候ひぬれば」と申しければ、殿、「物に狂う僧かな」と仰せ(B)給ひてなむ笑はせ給ひける。

2:「思ひ給へらむ」の説明として正しいものを選べ。(センター試験)
いよよ親坐す国の恋しう、いかなる宿世にや、かく人の親の心の闇におもひたまへらむと、涙をとどめて、いかなれば老いの涙のわが袖にかかるなさけをえやは忘れむ。
選択肢
:「おもひ」は名詞、「たまへ」は四段活用の動詞、「らむ」は現在推量の助動詞である
2:「おもひ」は動詞、「たまへ」は四段活用の補助動詞、「ら」は完了の助動詞、「む」は推量の助動詞である
3:「おもひ」は動詞、「たまへ」は四段活用の補助動詞、「らむ」は現在推量の助動詞である
4:「おもひ」は名詞、「たまへ」は下二段活用の動詞、「ら」は完了の助動詞、「む」は推量の助動詞である
5:「おもひ」は動詞、「たまへ」は下二段活用の補助動詞、「ら」は完了の助動詞、「む」は推量の助動詞である
6:「おもひ」は動詞、「たまへ」は下二段活用の補助動詞、「らむ」は現在推量の助動詞である

解答

A=連用・謙譲・僧→殿
B=連用・尊敬・作者→殿
=2


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