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『スクラップ・アンド・ビルド』 羽田 圭介(著) :: ユニークな発想の介護小説?

この芥川賞受賞作品は、全く知らなかった。
Kindle Unlimited 対象、Kindle換算 93頁。
先月記事にした『コンビニ人間』村田沙耶香(著)よりも短い。

芥川賞は短編・中編作品を対象としており長さに明確な規定があるわけではないが、概ね原稿用紙100枚から200枚程度の作品が候補に選ばれているらしい。

スクラップ・アンド・ビルド』は、羽田圭介による小説。
初出は「文學界」2015年3月号。2015年8月に文藝春秋より出版された作品で、2015年に第153回芥川龍之介賞を受賞している。

あらすじ
主人公の健斗(28歳)は、新卒で入社した会社を退職し、資格試験の勉強をしながら就職活動をする傍ら、母親とともに同居している87歳で要介護でありながらまだまだ健康体の祖父の介護をしており、「早う死にたか」と毎日呟く祖父に対して母親とともに祖父に対してストレスを感じていた。そこで、健斗は敢えて過剰に世話を焼いたり、日々筋力を鍛えたりすることで祖父を弱らせようと考える。そうして彼女とも交際しながら、介護と就職活動の日々を送る無職の青年の目から「死への希望」と「生への執着」を同時に持つ祖父の姿を描いている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/スクラップ・アンド・ビルド


著者のインタビュー(2023年8月)は、こちら。


感想

主人公健斗が語る一人称の物語。
祖父の介護がテーマとなり、家族仲は良くない。

著者が狙って書いたのか、主人公、その母、介護を受けている祖父、三人とも好感度の低いどちらかと言えば、近くにいたら付き合いたくない人物として描かれている。

母は口を開けば祖父(自分の父)を叱ってばかり。
祖父は家族の前では弱々しくしているが、一人になると台所で冷凍ピザにトッピングをして食したり、デイケア先では女性介護士にハラスメントもどきの行為を行う。
主人公の行動は自己中心的で、再就職試験に落ち続けるが、ある会社に運良く受かると母と祖父が居る実家をサッサとあとにするシーンで物語は終わる。

この著者が本作で芥川賞を取ったあとの著書を読んでいないので何とも言えないが、この作品を読む限り「芥川賞って、今後を期待する新人賞」なのだなと思う。

文章を読んで特に惹かれるところはなく、出版する際に校正が入っているはずだが「ここは読点が無いと、ひらがなが続いて読みにくいのだが」と感じる所が数箇所あった。

老人介護の在り方を考えさせる小説」と捉えれば、話題性のある小説だったのかも知れない。

以下の引用箇所が著者の主張であれば、ユニークな小説だと思う。

「人間、骨折して身体を動かさなくなると、身体も頭もあっという間にダメになる。筋肉も内臓も脳も神経も、すべて連動してるんだよ。骨折させないまでも、過剰な足し算の介護で動きを奪って、ぜんぶいっぺんに弱らせることだ。使わない機能は衰えるから。要介護三を五にする介護だよ。バリアフリーからバリア有りにする最近の流行とは逆行するけど」

プロの過剰な足し算介護を目の当たりにした。健斗は不愉快さを覚える。被介護者への優しさに見えるその介護も、おぼつかない足どりでうろつく年寄りに仕事の邪魔をされないための、転倒されて責任追及されるリスクを減らすための行為であることは明らかだ。手をさしのべず根気強く見守る介護は、手をさしのべる介護よりよほど消耗する

延命医療が発達した今の世では、したいことなどなにもできないがただ生き長らえている状態の中で、どのように死を迎えるべきかを自分で考えなければならなくなってしまった

『スクラップ・アンド・ビルド』 羽田 圭介(著)


MOH


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