#089 ちょっぴり大人の階段登る
県庁所在地とはいえ田舎のこの町には、洒落た勉強スペースなんてものはなく、友達と勉強する場所なんて限られていた。
学校の空き教室か、大きめスーパー4階にひっそりある多目的施設か、それかカフェ。
そう、カフェといえば、勉強するための場所だった。
カフェ巡りなんていうお洒落なものには縁遠く、学校や施設が開いてない日は駅近のチェーン店カフェに駆け込むのだった。
まったく迷惑な話かもしれない。勉強での使用はお控えください、なんて言われることもあった。その言葉がかかるまでわたしたちはよくカフェでペンを走らせ続けた。
いつからだろう、カフェが勉強スペースじゃなくなったのは。
落ち着いて本を読みたいとき、誰かへの手紙を書きたくなったとき、ご褒美で甘いものが飲みたいとき、ちょっと一息つきたいとき。そんなときにカフェに足を運ぶようになった。
勉強スペースという、とりあえず「スペースとしてその場を利用」していたわたしは、気づけば、「空気や温度を吸い込む」場所としてカフェに来ていた。
これに気づいたとき、ちょっとだけふふっとにやけてしまった。だってだって、なんだか、大人の階段登ったみたいじゃない。こんなわたしも、もしかしたら大人になったのかもね。
心を弾ませて、今日もカフェに来た。いつもはカフェラテだけど、勢いでアイスコーヒーを頼んだ。
大人の味はまだちょっと苦かったけど、いつか優雅に嗜むことができるようにと思って。その練習だね。
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