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紫のマスカラを塗りあなたまで見渡す塔をいくつも建てる/鈴木智子 一首評

初出 『舞う国』刊行半年記念ネプリ!(2022年8月2日発行)

紫のマスカラを塗りあなたまで見渡す塔をいくつも建てる

/鈴木智子『舞う国』2022年1月14日発行
( NextPublishing Authors Press)

 マスカラを塗る。紫を纏った睫毛はあなたを探し伸びはじめる。はじめは水平に、それから上へと。平行に屹立する紫の塔。その天辺から主体は「あなた」を含む世界を見渡す。
 歌われている光景はシュルレアリスム的であり、主体と「あなた」の関係も不可思議だ。なぜ主体はせっかく見付けた「あなた」の元に行かないのか。なぜ塔から下りず見続けるだけなのか。
 もしかすると主体は「あなた」を求めてなどいなかったのかもしれない。下界を見つめる定点として「あなた」を指向しているだけなのかも。自らの身体を塔としてこの世を見渡す、そんなことができるのは神そのものだ。そして見渡されている「あなた」とは、読み手の我々のことなのである。

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