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王政をやめたすべての国たちに獣のにおいのピザは配られ/鈴木智子 一首評

歌誌「かばん」2022年3月号掲載

王政をやめたすべての国たちに獣のにおいのピザは配られ
/鈴木智子『舞う国』2022年1月14日発行
( NextPublishing Authors Press)

 口当たりのいい歌ではない。一つ一つの語に分かりにくさはないものの、一首として像を結ぶには言葉の跳躍がある。
 歴史を紐解けば、国家の近代化とは、王政が終焉し民主的な政府が誕生することにある。つまり上句の「王政をやめたすべての国たち」とは、近代化に踏み出した国々のことであると読める。結句の「ピザ」も、均質に等分されやすい食べ物、且つデリバリー等でおなじみの近代化したシステムに馴染みやすい食べ物であるから、歌の上下はつながる。
 だが鈴木はそこに「獣のにおい」を嗅ぎとってしまうのだ。これは彼女がイランをはじめとする中東国家に滞在した経験も生かされているのであろう。近代国家によって分配されるピザとは野蛮さの象徴である。革命によって死に至らしめられた王族の財であり、また「王政」と喩されるいまだ近代化されていない国の財も、先進的な国家が獣のように奪い分け合っているとも読める。文明化された「国」が「王政をやめた」と歌われるのは必然なのである。
 歌集『舞う国』にはほかにも、「屋上で白く干されたシーツたち五月はきっと揮発する夏」「シロップをペリエで割って飲むようにわたしを銀河で割れば、弾ける。」などの歌が収録されている。冒頭に挙げた歌より、これらの方を好む読み手は多いかもしれない。しかし、このような清涼感のある歌にとどまらず、自他に内在する暴力性に目を向け顕在化させる感性も持っているのが、鈴木という歌人なのである。

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