見出し画像

【短編】 ハチワレ「テオ」の憂鬱


俺はテオ。8歳のハチワレ猫だ。

割と大きな家で特に不自由もなく暮らしている。この家の家族に「飼われて」やって、その対価として住む所とご飯を確保しているんだ。

憂鬱な一日がまた始まる。
朝、遅めに起きるコウジ(お父さんらしい)と、ベッドで一緒にグズグズする。誤解のないように言うと、一緒にグズグズしてやってるんだ。コウジはいわゆる「寝起きが悪い」やつのようだ。
まったく。俺は早起きでさっさと朝飯を済ませて二階のベランダへ散歩に行きたいのに。
コウジはいつも言う。
「テオは甘えん坊だなあ ベッドで一緒にゴロゴロするのが朝ルーティンだもんね」
はー、憂鬱だ。
仕方なく付き合ってやってるのが分からないのかい?朝飯のためとはいえ、甘えん坊呼ばわりされちゃたまんないよ。そりゃまあ、フワフワのあったかい布団は気持ち良いけどさ。

朝飯を食べてベランダで日光浴をしていると、ユキコ(お母さんらしい)が洗濯物を干しに上がってきた。

手際よく干し終えると、ユキコは俺を抱き上げてベランダから家の前の道路を歩く登校中の中学生達に見せ始める。
中学生は、「あー、猫だ」「猫ちゃんバイバーイ」などと言いながら登校していく。

はー、憂鬱だ。
俺は見せ物じゃないんだよ。だいたい俺は愛想を振りまくタイプでもないし。チヤホヤするならオヤツぐらい置いていけってんだ。
そりゃまあ、悪い気はしないけどさ。

午後になると高校生のカオル(娘だ)が帰って来た。
「テオー、ただいま」
お、いつもは俺の顔なんか見もせずにすぐ友達と遊びに行くくせに、今日はねずみのおもちゃを持ってどうした?
うお!そ、そんな、ホンモノのねずみっぽい動きをマネしたって、俺は騙されないもんね。

ひゃ!右!左か!えーい、ちょこまかと!
それ!捕まえた!猫は生まれながらにしてハンターなんだ。ナメてもらっちゃ困るよ。

ここから先は

685字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?