北の伏魔殿 ケースⅢ 作為と不作為 -➀

○単純なミスを除けば、公務員の不祥事の原因は作為と不作為にある

作為とは                              人の行為のうちの特定の行為に着目したとき、当該行為を行わないこと(消極的挙動)を不作為というのに対して、当該行為を行うこと(積極的挙動)[有斐閣 法律用語辞典 第4版]

不作為とは                                           何もしないこと、又は一定の行為をしないこと。例、行政争訟における「不作為についての不服申立て」、「不作為の違法確認の訴え」、刑法における「不作為犯」、民法学における「不作為債務」など。
[有斐閣 法律用語辞典 第4版]

 公務員の世界においては、作為より不作為の方が事例としては多いと思う。それは、そもそも仕事をしたくない、できない(もちろん全ての公務員がそうではないが)職員が多く、それがためにやるべき仕事もしないからだと思う。しかし、中には、ケースⅠやⅡの職員のように、地方公務員法違反、背任罪など法律を担当する公務員として法令さえ知らずに作為により違法行為をする人間もそれなりにいる。私が経験し、担当者の作為を見抜いて事前に不法行為を防止した事例を解説してみよう。

○許認可行為における事業者との距離

 私が昇格して、出先機関で担当した業務が許認可であった。その係は、トラブルが多く、若手職員や係長クラスで配置を嫌がる者も多いが、一方、事業者からの贈答品、餞別なども多く(当時、規律は緩く授受は禁止されていなかった)、それ目当てで希望する者も中にはいた。

 私が赴任するとすぐ、お中元が多くの事業者から届けられたが、私はそれらを全て返却し(中には生ものもあり、代替相当品を購入して返却したものもある)、信書に「李下に冠を正さず、私が希望するのは、事故のないように事業を進めて頂くことだけ」としたためた。

 お中元を贈ってきた事業者の中に法令で定められた資格者を配置していなかった事業者があり、資格者がいないと事業を廃止しなければならない。私は、近隣の事業者に協力を求め、資格者を出向させてもらい、廃止は免れた。もし、私が、贈答品を受け取っていたら、それが理由で対応したのだと言われかねず、痛くもない腹をさぐられてしまうだろう。事業者とはあくまで法令の執行という立場で適正な距離を取ることが必要である。

 多くの事業者は、役所の許認可権限について、生殺与奪を握られていると感じ、いじわるをされたくなくて役所の指導については、比較的従ってくれている。一方、組合に入らないアウトローは、法令を無視して、事業を行い、住民に迷惑をかけ、社会問題化している業種もあり、この対応が係長の職務と言ってもいいだろう。

 ○担当法令等を理解しない担当者

 私は、この業務は初めてであるが、同じ課にはいたことがあり、そういったトラブルがあることは承知していたので、担当業務の法令は、担当者レベルまで読みこなしていた。ある時、そのトラブルが多い法令の担当者S主事から起案文書が上がってきた。

 この法令は、実に簡素な条文からなっており、それが理由で事業者の法令解釈により、事故につながりかねない作業方法等がとられていたため、県としては安全基準となる要綱を作成し、法令を補完している。(なお、後年、社会問題の高まりから条例を制定した。この件については、不作為のところで詳述する。)                               

 その起案文書の事業者の添付書類は、要綱に定められていたものと異なったので、S主事に説明を求めると答えられなかった。それを見ていたその業務の前任者である次席が、「特例措置として管内では認めている」との説明をしてくれて、納得した。S主事は、4月に他課から異動してきたばかりなので、(私は、その後の7月異動)そういう取り扱いを知らなくてもやむを得ないと思い、特段、責めるようなことも言わなかったのだが、後日、次席から聞くと「係長が自分の知らないことを聞いたのが悪い」と言っていたという。次席は、「係長は勉強している」と言ったが納得しなかったと言言うことだった。

 上司が、起案文書の説明を求めることは当たり前だし、それは法令等を担当者が内容を知悉していることが大前提であるのに、聞いた私に不満を持つというのは、考え方が変わっているなと思っていた。そして、その変わっている性格が重大な事態を引き起こしかねない危うさをはらんでいた。

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