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30代後半福岡在住お酒大好きOLのあのサイトー。

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短編小説「食堂 すい星」

第1話 人生ゲーム  カウンター席しかない狭い店内に、客は僕とシュージの二人だけだった。年季の入ったL字型の厚みのある木のカウンターの上には、酒の他に、大根おろしがこんもり乗った揚げ出し豆腐と、ベーコン入りのポテトサラダと、ジョッキから伝い落ちた水滴が並んでいる。  真っ昼間に締め切った飲み屋で酒をのんでいると、現実世界がどんどん遠退いていくように感じられる。店の唯一の小さな窓からは、今が十二月であることを忘れさせるような温かな日差しがこぼれており、そこだけが外界を感じさせ

    • なめられの多い生涯を送ってきました

       39歳、よくなめられてきた人生だった。特に見知らぬ人に、大いになめられる。まぁわかる。背が低く地味で童顔でシルエットは丸い。終始ヘラヘラしているし。とにかくどこを切り取っても舐められる要素しかないとは思う。歩くなめられ。そして、小型犬ほどキャンキャン鳴くとはいうが、まったくそれだな私ってば、と思う。  バーで隣に座った知らぬ男が話しかけてきたと思ったら、頭を撫ででくる。いつお前とそんなに心の距離を詰めた、と瞬間的に怒りが胃から喉元まで上がってきて、結局喉元を通り過ぎ「首から

      • ゼロオブセンス、Gパンと握手

        (2016.9.12 FBより) 私、朝がこの世で一番苦手なんですけど、その次に苦手なのがおしゃれでして。 センス。センスがないんですよね。 世はまさに大SNS時代なので、写真もなんか、いい感じに写りたいじゃない。写るにこしたことないじゃない。 いい感じに写りたーてしゃーないんですけど、どんなおしゃれな料理と一緒に撮っても、どことなく一昔前の地方タレントの食レポ感がすごいんだよね。滲み出るのダサさが。 一昔前の地方タレントに対して失礼過ぎたけど。 センス氏と相

        • さくらももこ展に行った

          さくらももこ展に行った。 君はさくらももこを知っているか。 言わずもがな、ちびまる子ちゃんの作者で、ある時代日本列島をピーヒャララさせた(私は小さかったのでそんな感覚はなかったが、今思えば時のひとだったのかもしれない)あの、さくらももこを。漫画だけでなくてエッセイが爆売れしていたさくらももこを。コジコジの作者のさくらももこを。めっちゃメインストリームを歩いているようでサブカル感も隠さない、あの、さくらももこを。(ここまで先生つけ忘れてしまったけど、そうさせてしまう天才、日本代

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        短編小説「食堂 すい星」

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          最近思ったこと6.4

          梅雨が始まるっぽい。 キャンプが好きになってからというもの、雨が降っている日に家にいると「なんて立派なモノに守られてんだ、無敵じゃん」と思うようになった。外は大雨なのに快適に過ごせるの、月額まぁまぁの値段払ってる甲斐があるってもんよ。電気ガス風呂トイレ炊事場ついて住み放題、この値段なら安いかも、とすら思えてくる。どうかしてる。 世の中におもしろいエンターテイメントが多過ぎて時間が足りないのは現代人のよくある悩みだと思うけど、それとは別に、楽しさを享受してるとワクワクしながら

          最近思ったこと6.4

          最近思ったこと4.23

          伊集院光の深夜のラジオは「今週気づいたこと」から始まることが多い。 毎週聞き応えがある放送を何十年としてんだからイカれた人だ。いつ聴いても安定しておもしろくて、この先も延々とあると思ってしまうせいで、毎週欠かさず聴くリストには入ってなかったりするんだけど。 伊集院氏が「タモリ倶楽部」が終わるという話題で、好きだけど毎週見ていた番組では無く、いつでも見れるという安心感があった終わるなんて想像してなかった、というようなことを話をしていたが、そんな感覚かもしれん。 逆に危なっかしい

          最近思ったこと4.23

          エッセイ「引っ越しドキュメンタル②」

          どう? みんな4年ぶりのW杯で盛り上がってる? 私はというと4年ぶりの引っ越しを無事終えましてね。どうもありがとう勝ちました。(※サッカーは一切わかりません。) 喉元過ぎた熱さの忘れっぷりに定評のある私なので、1週間過ぎた今、新居が最高の住み心地で、引っ越しに関するメンドーなあれやこれやはもう海馬から削除されつつある。が、完全に藻屑となる前に頑張ってサルベージしてつらつら連ねてみることにする。とりあえず「この秋、引っ越しに夢中」でしたね、ファッション雑誌の煽り風に言うと。

          エッセイ「引っ越しドキュメンタル②」

          エッセイ「引っ越しドキュメンタル①」

          引っ越しをしようとしている。 30代後半、多いのか少ないのか知らないが、人生で5度目の引っ越しだ。引っ越し、ワクワクする。うそ。引っ越し後の妄想でワクワクしているだけで、その前に立ちはだかる面倒に次ぐ面倒の山脈のせいで長らく先延ばしにしてきた。黙っていたが私には先延ばしの才がある。悲しいかな共に引っ越しする夫にも同じ才がある。めっちゃある。 最初の難関である物件探しが終わり、審査も無事通ったところで、滅多にない引っ越しという行事をメモっとこうと思う。長くなりそうよ。 直

          エッセイ「引っ越しドキュメンタル①」

          短編小説「私がシンデレラの継母です」

          2555文字    私の話を記事にしたいなんて、あなたも変わり者ですね。  誰が信じてくれるというんです、すっかり世間で私は悪ものです。  えぇ、正直に言うと、まさか、こんなことになるなんて思いもしませんでした。  私のやり方は、やはり間違っていたのでしょうか。  国外追放された娘二人は、前の夫との子です。  子どもの頃から、裕福な生活に憧れていた私は、持ち前の若さと野心で、村一番の富豪と結婚することに成功しました。  しかし、二人の子どもが幼い頃に彼は亡くなり、残された

          短編小説「私がシンデレラの継母です」

          短編小説「村井の石」

          838文字 学生時代の村井の印象は誰に聞いても、物静かで優しそうな女の子、でだいたい統一される。 いつもクラスの端っこにいるような子だったが、のんびりとした雰囲気の彼女は誰にも嫌われることがなかった。 村井は周りからよく相談を受ける子だった。終始穏やかな笑みでうんうんと聞き、絶妙なタイミングで「わかるよ」と言える才能があった。所謂聞き上手で、相手がどんな言葉を欲しているのか、どう判断してほしくてその言葉を選んでいるのか、村井には容易く察することができた。 村井は、自分の言葉

          短編小説「村井の石」

          短編小説「goodmorning!!!」

          暑い。  息苦しい程の蒸し暑さと、瞼の向こうの明るさに、五十嵐の意識がぼんやりと浮上した。次いで渋々と五感も業務を開始し、やがて、五十嵐の子どものように小さな身体を、絶望が覆いつくした。あまりに完璧な絶望感に、思わず吐息だけで笑ってしまった。  狭い視界に映るのは、アスファルトの黒い粒でできた地面と、見覚えのある景色。自宅であるマンション近くの、コインパーキングだ。車も人気もない。  起きたら、タイムズに転がっていた。これほど絶望にまみれた朝を迎える女が、果たして今、この街に

          短編小説「goodmorning!!!」

          短編小説「変なおじさん」

          思えば初めから違和感はあった。遺影の男は、耳上で刈りそろえられた白髪に、ネクタイなんか締めて、記憶よりも随分と真っ当そうに見えた。  達郎がおじさんの訃報を受けたのは昨日の夜のことだった。おじさんはおじさんでも、このおじさんは、血の繋がらない、ただの近所のおじさんだ。実家を出た達郎は十年以上顔を合わせていない。  勤めに出るような姿を見たことが無く、いつも近所にふらりといる壮年の男は、子どもながら不思議な存在だった。ボサボサの髪に白髪交じりの無精髭で、背を丸め、有名スポーツメ

          短編小説「変なおじさん」

          短編小説「スマイル」

          シメジとキャベツとミニトマトで飾られたペペロンチーノは、見た目の色合いもさることながら、辛さ、塩加減もちょうどよかった。 フォークをくるくる回して麺をまきつけながら、麻美は、目の前に座る浩一の顔をそっと盗み見た。 浩一は、いつも通り、温和としか表現しようのない鶴瓶のような笑みを湛えている。 笑うと目が一本線になるこの笑顔と、バリバリと仕事をこなすギャップにやられたのだ。 前の派遣先の上司だった浩一に、麻美は出会って早々恋に落ちたが、まさか実るとは思っていなかった。 「まみちゃ

          短編小説「スマイル」

          短編小説「十五の秋」

          落ちそうになったイヤホンを、右耳に押し込めた。うるさい風の音がNOKKOの声にかき消される。ざまあみろ。手さぐりで、ポケットの中のウォークマンのボリュームを上げた。 まもなく現れる上り坂に向けて、ペダルに勢いをつける。右足と左足が、自然と両耳で鳴るドラムのリズムに合っていた。セーラー服はすでに汗だくだし、前髪は額に張り付いて気持ち悪い。けれど一瞬も止まりたくはなかった。 夕日が山に半分かじられて、辺り一面真っ赤に染まっている。この坂を越えれば、すぐ西新だ。  今日は朝から最低

          短編小説「十五の秋」

          短編小説「あんパン好きの犬」

          人生のピークは、五歳だった。十四年間生きてきて、あんなにモテた時期はない。幼稚園の帰り道、誰が僕の隣を歩くかで女子達がよく喧嘩していたものだった。  中学二年になった今の僕はと言えば、一人ぼっちで下校し、途中、いつも神社にいる変な犬の相手をしているという有様だ。 だいたい十四にもなって、僕、という奴はいない。男子はいつの間にか、俺、に切り替えているのだ。早い奴は小学校低学年から、俺、だ。俺、の響きの持つ強さ、ふてぶてしさにどうにも馴染めず怖気づいているうちに、僕は完全に、俺、

          短編小説「あんパン好きの犬」

          短編小説「ラフマニノフピアノ協奏曲は何色に聞こえるか」

          音階は五線譜に乗るオタマジャクシのように幅が均等なわけではないのだよ、と木戸はまるで世界の行く末を憂えているかのような顔で、ため息交じりに云った。  ピアノは均等なはずだよ、と冷めて余計にまずくなった学食の安いコーヒーに顔をしかめながら、僕は答えた。木戸は、380円のカレーライスを目の前に、まるで西洋人のように、やれやれと首を振った。  木戸が今日ずっとこんな調子なのは、2カ月前から付き合いだした近くの女子大の女に、昨夜フラれたからだ。今朝「世界が一気に色褪せたのだよ」とやけ

          短編小説「ラフマニノフピアノ協奏曲は何色に聞こえるか」