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論文レビューDigital Urban - The Visual City ISSN 1467-1298 Hudson-Smith, A; (2007) Digital Urban –The Visual City. (CASA Working Paper Series 124 Sept 07). Centre for Advanced Spatial Analysis: London.

本論文は技術革新により都市がデジタル空間内で再現できるようになったことから、その技術が市民生や研究においてどう有効的に使えるのかを探る論文となっている。

 彼らの具体的な研究内容は、ロンドンの詳細な都市モデルの作成・都市モデル内での災害シミュレーション・仮想社会空間内での意見合意・市民行動の把握があげられる。ロンドンの都市モデル作成においては、大まかな建造物群はGISの3Dモデルツールを採用し、箱型のビル群モデルの作成後テクスチャを張るやり方で都市モデルを再現している。また、歴史的建造物については写真測量を使用し、詳細な建物モデルを作成する方法や360°撮影可能なカメラでの空間再現が行われた。このような都市モデルを活用した例が都市モデル内での災害シミュレーション・仮想社会空間内での意見合意である。災害シミュレーションについては論文中で洪水と大気汚染が取り上げられており、洪水時の浸水範囲が映し出されるとともにシミュレーションを行うことで視覚的に危険地域とされてきた以外の部分からの氾濫の可能性や大気汚染では大気の対流ポイントの把握を行う。また、都市モデル内の公園などの空間では仮想社会空間内での意見合意が行われた。これはいわゆる仮想現実(VR)の内でのコミュニケーションである。論文内では都市モデル以外のものも触れられておりGIS上で市民の行動をSNSを使って把握する研究なども行われどこにどのようなことを求めて人々が空間を使うかが調査されていた。
 近年日本国内においても国交省からPLATEAUがリリースされ、3D都市モデルの活用案が考えられている。基本的な活用案はHudson-Smithが提示した歴史的建造物のアーカイブ化、災害シミュレーション、まちづくり(他の論文でHudson-Smithが提案している)がメインで使われている印象である。個人的には防災とまちづくりで3Dモデルの活用が見込めると考えており、Hudson-Smithの意見は大枠合意である。また、本論文が掲載された2007年以降技術開発がより進んだことにより、研究者や一部の大手企業のみしか作成しできなかった3Dモデルが一般の市民でもスマホさえあればモデリング可能になっていることからシティズンサイエンスとして都市内のミクロな空間のアーカイブ化や危険箇所の共有に有効だと考えられる。

最後に、本論文は2007年に掲載されたことを考えると非常に現在に近い技術を提唱し研究しておりとても感銘を受けた。そのなかでこのような最新技術も重要であるがその背景にある理論や主観的な感覚も都市にとって重要な要素となることを忘れてはならないと思った。

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