坂元 稔

アマチュア物書き。長編小説を中心に書いています。/掲載中の作品は、全てフィクションです…

坂元 稔

アマチュア物書き。長編小説を中心に書いています。/掲載中の作品は、全てフィクションです。/作品の著作権は筆者に帰属します。盗用および誹謗中傷目的の転送・転載を禁じます。/それぞれの連載作品を長く楽しんで頂けるよう【マガジンごとのブックマーク】をお薦めします。

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【坂元 稔】 長編小説 一覧 (自作マガジンまとめ記事) ※随時更新中!

 筆者【坂元 稔】のnoteをご覧いただき、ありがとうございます。(このペンネームは、一作目の主人公の名前でもあります。)  趣味として、長編小説を中心に書いています。2023年7月現在、note利用開始から3年が経過し、作品数も順次増えておりますので、一覧を固定記事にしています。  それぞれの作品を長く楽しんでいただけるよう、マガジンごとのブックマークをお薦めしております。図書館で本を借りるかのように……お手元で、じっくりと読み込んでいただけましたら、とても嬉しいです。

    • 「長い旅路」 作者として推したい話

       ご覧いただき、ありがとうございます。坂元(筆者)です。  今回は、「吉岡奇譚」に登場する「倉本くん」を主人公としたスピンオフ小説「長い旅路」について、まとめ記事を書きました。ご一読いただければ幸いです。  この作品は、連載開始から完結まで3年を要しました。当事者ではない自分が「ゲイの主人公」を描くにあたり、彼の人格や物語全体が “リアリティーのない陳腐なもの“ にならぬよう、そして何よりも当事者の方々への偏見を助長しないよう、慎重に情報収集を行いながら、かなり時間をかけて

      • 「長い旅路」 あらすじ

         過疎地の大規模養鶏場で働く主人公(和真)は、劣悪な労働環境と、同僚からの差別的な冷遇に耐えながら、日々の職務に勤しんでいた。彼が職場で差別を受けるようになったのは……後から入社した大学の後輩に、同性愛者であることをアウティングされたことが発端だった。その頃、和真の大学時代の恋人(拓巳)は俳優としての頭角を現し始め、自身が同性愛者であることを公表した上で活動の幅を広げていた。山奥の閉鎖的な農場で、刺激と娯楽に飢えた人々にとって「イケメン俳優の元彼」は、格好の餌食だった。  そ

        • 小説 「長い旅路」 38(最終話)

          38.旅の果て  俺は、再び檜村さんの世話になって、玄さんの勤務先で働くことが正式に決まった。身分としては前職と同じ「福祉サービスの利用者」ではあるが、れっきとした雇用契約を結んでいる。  ここも椎茸の栽培工場だが、前のところとは設備が全く違う。あちらは窓の無い地下室で栽培が行われ、収穫物はエレベーターで上層階に運ばれてパック詰めされていた。ここは、郊外にある広い敷地に専用のハウスが10棟も並び、その中に山ほど菌床が並んでいる。ハウスで収穫された椎茸は人力で作業小屋まで運

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        • あらすじ・まとめ記事
          11本
        • 「長い旅路」
          38本
        • 「Company Crusher」
          5本
        • 【短編】
          6本
        • 「僕と先生の話」
          43本
        • 「ノスタルジア」
          9本

        記事

          小説 「長い旅路」 37

          37.遠足  大きく鼻息を吐きながら、サイが乾草を喰っている。この光景は、本当に何度見ても飽きない。俺にとって、クロサイは他の何物にも代えられない、絶大な安心感をもたらしてくれる特別な動物だ。  最近になって、いよいよ自宅がサイの置き物やぬいぐるみで溢れてきた。もちろん写真集も買ってある。だが、本物は格別だ。  今日はこの場所で、初めて吉岡先生と恒毅さんの対面が叶った。悠さんは……来られなかった。体調が、依然として芳しくないらしい。とても残念だが、仕方ない。  今は、3人

          小説 「長い旅路」 37

          小説 「長い旅路」 36

          36.時は来たり  俺は足繁く図書館に通い、学生達に混じって机に向かっては、母への手紙の文面を考え続ける日々を送っていた。  初めは大学ノートの中だけのマインドマッピングが続いたが、次第に文章の形になっていった。  俺はまず、恒毅さんとの暮らしがうまくいっていること、彼と居れば自分の体調が安定すること、そして、可能な限り長く彼と共に暮らしたいという意思を書いた。次に、ゲイを公表している拓巳と慎司さんが何故パートナーシップの宣誓をしたのかについて書き、続けて、その条例の最大

          小説 「長い旅路」 36

          小説 「長い旅路」 35

          35.助言  どれだけ独りで考えても、答えは出なかった。「このまま、彼と一緒に暮らしていきたい」というのは、間違いなく本心だ。彼との暮らしをやめてしまえば、俺は再び「どん底」に落ちるだろう。彼の作る食事が俺を生かし、彼の笑顔と真摯な情熱が、俺に勇気と安心を与えてくれる。  そして、いつまでも母ばかりを頼っていられないのだから、入退院にまで付き添える「家族」の必要性も、少なからず感じている。しかし、彼との養子縁組によって苗字が変われば、銀行口座その他の名義が全て変わり、実の両

          小説 「長い旅路」 35

          【短編】きぼう屋さん(English version)

          英語の勉強のために、こちらの短編小説「きぼう屋さん」の英訳に挑戦してみました。 ※日本語話者の方々は、日本語版の内容を把握されてから、以下の英語版を読まれることをお薦めします。(日本語の併記は、あえてしていません。) +-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+ The "Hope Store"  A young man was walking down a large street with his shoulders drooping

          【短編】きぼう屋さん(English version)

          小説 「長い旅路」 34

          34.家族  ずっと「課長」と呼んできた人を、俺はいつしか「隆一さん」と呼ぶようになっていた。亡くなった時点での彼の役職は課長ではなかったし、俺自身が、あの会社を辞めて久しい。単なる一人の人間として、一人の故人を偲びたかった。  俺は、相変わらず隆一さんの「声」を日常的に聴いている。決して「霊感がある」とかではない。彼が生きているうちから、この病理的な幻聴は続いている。  しかし、俺はそれを医師に話したことはない。薬か何かで、この「症状」を消されてしまったら……俺は、二度と

          小説 「長い旅路」 34

          小説 「長い旅路」 33

          33.再会  かつて俺が借りていた部屋に、すっかり弱りきった様子の彼が居た。壁際に敷かれた布団の上で、夏らしくない毛布を腹より下に被せて横たわり、折り畳んだバスタオルを枕に うたた寝をしているようだった。あの、若々しく活力に溢れ、筋肉の塊のようであった立派な身体は、別人のように痩せ衰え、小さく見えた。以前より白髪が増えたことも、一目で判った。  そんな状態の人を起こしてしまうことを躊躇っていた俺をよそに、先生は彼に そっと声をかけ、静かに頭の近くに座って、何度も肩を叩く。

          小説 「長い旅路」 33

          小説 「ノスタルジア」 9

          9.懺悔  悠介は目を覚まし、自分が事務所奥の「社長室」にある応接セットのソファーの上に寝かされていることに気付きました。靴を脱がされ、体には厚い毛布がかけられています。  そこは応接セットの他に、自社にまつわる山のような記録と、工場長のデスクがある部屋で、創業当時に撮影されたモノクロの写真が何枚も掲げられています。工場長は根っからの【現場主義者】であるため、この部屋は普段ほとんど無人です。悠介が ここに入ったのは、入社前の面接以来でした。  そして、ここは誰かが急病や熱中

          小説 「ノスタルジア」 9

          小説 「ノスタルジア」 8

          8.源流  昼休み、社員食堂で悠介が弁当を食べていると、後から来た亘が「お疲れ」と挨拶をして、向かい側に座りました。彼も、自身か家族のお手製と思われる弁当を持ってきていました。(誰が作っているのかなど、悠介は訊いたことがありませんでした。)  亘が「今日は暑いね」とか「自販機が無けりゃ、死ぬねぇ」と言いながら包みを解いて食べ始めると、悠介は全く違うことを訊き返しました。 「あの……。全然、仕事と関係ない質問なんすけど」 「何だい?」 「亘さんは、どこでスペイン語を勉強したん

          小説 「ノスタルジア」 8

          小説 「ノスタルジア」 7

          7.右腕  現場仕事を終えた職人達が、私服に着替える前に、社内では貴重な「お湯が出る蛇口」の前で石鹸を使って肘まで洗う(人によっては頭まで洗う)……というのは、この会社では日常の光景でした。    とある金曜日の夜。例の【勉強会】を終えて現場の隅で腕を洗っていた亘は、すぐ近くで悠介が手先の治具を外しながら順番を待っていることに気付いていました。  念入りに泡を流してから交替し、自分の腕を拭きながら、亘は手を洗い始めた彼に提案しました。 「松くん。今度さぁ……仕事終わり、一緒

          小説 「ノスタルジア」 7

          小説 「ノスタルジア」 6

          6.座学の日  あれ以来、直美が兄からの挑発に乗ってしまうことは ほとんど無くなりました。時折、口論にはなりますが、それが暴力を伴う闘争にまで発展することはありません。  珍しく、穏やかな日々が続いていました。  その日は待ちに待った金曜日でしたが、常務が家庭の事情により休みました。「常務が不在ならば、勉強会は中止」という決まりがあったため、亘と悠介は完全に諦めていました。外はどんより曇っているし、空気は じめじめして、社内も気怠い雰囲気です。  しかし、直美だけは違いま

          小説 「ノスタルジア」 6

          小説 「ノスタルジア」 5

          5.兄妹喧嘩  事務所の机の配置が少し変わり、直美が隣に座るようになってから、悠介が「固まってしまう」ことは減りました。直美は相変わらず集中力が長くは続かないので、事あるごとに悠介に話しかけては、自分の気を紛らわせると同時に、彼の体調を見ていました。  声をかけられると気が散ってしまい、ミスが増える人というのも世の中には存在しますが、悠介は、むしろ長時間黙って作業に没頭していた日のほうが体調は悪化しやすいように見受けられました。彼は話しながらでも正確な製図ができる熟練者だっ

          小説 「ノスタルジア」 5

          小説 「ノスタルジア」 4

          4.配置換え  暴れてしまった翌日から数日間、悠介は仕事を休みました。その間、睦美は悠介の悪口を言い続けました。妹の直美は何度も「やめろ!」と言いましたが、睦美は それを鼻で嗤い、しつこく悠介を貶め続けました。悠介が休んでいる間、やりたくもないデスクワークを肩代わりしなければならないことが、睦美はずっと不満だったようです。  あまりにも幼稚な兄に対し、直美は怒りを募らせましたが、常務は「今に雷が落ちるよ」と言って彼女を宥め、自身も特に叱責はせず悠然としていました。  そして

          小説 「ノスタルジア」 4