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【読書感想】「保育園義務教育化」 古市憲寿

読了日:2017/7/26

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もしも保育園が義務教育化されたなら…子どもの学力は向上し、児童虐待は減少し、景気まで回復する!?良質な乳幼児教育は、将来の年収や治安までも変える。少子化対策への閃光の一手を社会学者が提言!!描き下ろしパラパラ漫画も。
「BOOK」データベースより

この本の概要

日曜10時は、
・サンデージャポン
・ワイドなショー
・サンデーモーニング
などの情報番組が視聴率をきそっています。
私はダントツでワイドなショー派。

長嶋一茂が落書き事件でいじられ、
前園さんは飲酒ネタでいじられ、
不倫系では、ベッキー、乙武さん、川谷絵音が出演。
芸能人たちの最終的なみそぎの場所になっている。
そんなワイドなショーで、定期的にコメンテーターとして登場してるのが社会学者の古市さん。

古市さん、好きなんです。
他人をバカにしたようなしゃべりのなかに、社会学者らしい真理をつく発言がある。
小バカにしたような発言をするわりに、小沢一郎を怒らせたときにはチキンハートが垣間見えたりもして、完全にヒールにもなれないところがまた面白い。

そんな古市さんが日本の少子化問題に切り込んだのがこの本。
子供嫌いであろう古市さんが、表紙でぎこちなーく子供と並んでいるのが笑えます。

内容的には完全同意。
子持ちのパパ・ママ社会学者が自分の経験交えて語るのもそれはそれでもちろん共感できるんだけど、
独身で全然子供とか好きじゃなさそうな彼が、子持ち世帯にしかわからない問題について論じてくれてるのが、とっても説得力があるし嬉しい。

母親は普通の人間?

古市さんはこの本の冒頭で
「自分の母親が普通の人間だと気付いたのはいつ?」
と他人に質問するのが好きだと述べています。

この質問の話を読んで、私の場合はどうだったか考えてました。
おそらく、私が母親を客観的に見たはじめては、中3。
受験の面接でよく聞かれる「尊敬する人物は?」の回答を考えていたときに
「あ、母さんって何気にすごいんだな」
と思ったのをなんとなく覚えてて。

古市さんが周囲に聞いてみた結果、古市さんの知人の多くが自分の母親を普通の人間だと思ってないことがとても多かったんだそうです(笑)。

これ、本当にその通りだと思いました。
対自分の母親はもちろんだけど、世の中全般が母親という役割に対して、無自覚に、当たり前に、無茶を言うことがとても多い。

母親は無償の愛の権化で、子供への愛のためであればどんな無理難題もやってのけるし、やってのけるべきだと、なぜだかみんな、当然のように思っています。

「母親」に課せられている呪い

「母親」という役割に課せられている呪いはとても強力です。

いまだに社会から消えない「経腟分娩>帝王切開、無痛分娩」という図式、
いまだに消えない母乳育児神話、
授乳中はスマホもテレビもNG、
ご飯・おやつは添加物なし手作り推奨、
子供の虫歯は母親の責任、
宿題忘れも物忘れも母親の責任、
デジタルに頼らない遊びが良しとされ、
家事も頑張れ、
仕事もしろ、
子供をたくさん産め。
窮状を訴えれば「自分で決めて生んだクセに無責任」と言われ、
「保育園落ちた日本死ね」と叫べば品位がないと言われてしまう。
これに加えて、最強に理不尽で小憎らしい子どもからの要求がエンドレス×子供の数だけあって、
これらすべてに感情的にならずに対処するスキルまで求められる。

今あげた呪いは、ほんの一握り。
この他、大小さまざま無数の母親ノルマが存在しています。

たちが悪いのは、母親カテゴリーに属さない人がこれらを求めてくるだけでなく、同じ母親同士でも、自分との価値観の差違を見つけて「母親なのに」といいがちな点。
女の敵は女…。

親やシッターさんの協力なしで、これらを完璧にこなせるスーパーな母親は、私の周囲にはいません。
どの母親にもできる部分とできない部分がある。それは、それぞれの優先度や価値観の違いで取捨選択されたもの。
それなのに、未婚者も既婚者も男も女も、自分の中の「優先度高」要件が、他者にとって「優先度低」要件になっているときに批判し見下してしまう。

真面目でがんばり屋な母親は批判が怖いから、すべての項目を高い優先度で取り組もうとして、息切れし、できていないなにかに劣等感と罪悪感を感じながら、子育てしています。

母性は本能、ではない

多くの人が、産めば勝手に母性が涌き出てくるものだと思っています。
けれど「それも違うよ」と古市さんは言ってます。
私も同感。

母性を作るには、健やかに母性を育むための環境土台が必須。
環境がぐらつけば母性なんて即効で減衰します。

子育て現役世代の女性でも「母性は本能」と、思ってる人は多いと思います。
でも、それも、本人が自覚していないだけで、母性を維持できる環境が整ってるだけだと思うんです。
育児放棄や産後鬱は、母性を育成する環境作れなかった周囲(特に夫)と、ホルモンバランスの問題だと思うので、母親の理性だけで、どうにかなるものではありません。

これらは、当事者じゃないとなかなかわからないことなんだけど、古市さんは社会学者の視点で、しっかり観察してくれてるのが嬉しい。

保育園義務教育化

そして出した結論が「保育園義務教育化」。  

3歳時神話は根拠ないことがオフィシャルに認められてるし、小さいころから多くの人と触れあう方が「非認知能力(共感ややり抜く心、我慢する心など)」が伸ばせることもアメリカの研究で実証済。

狭い家庭で育児を閉じ、母親にプレッシャーをかけて燃え尽きるまで頑張らせるよりも、全体で負荷分散したほうが合理的だし社会のためにもなるよ、と言ってくれてます。

「少子化問題は移民で解決」という話もよく聞きますが、これを読むと移民制度は閉鎖的な日本国民には無理があるな、ともわかりました。

ヨーロッパも移民で問題がおきているし、移民文化を作るより、日本の男女の価値観を変える方が、まだ可能性あるような気がしました。
そもそも、移民が日本を選ばない可能性もあります。日本は、もうそこまで選ばれる国ではなくなってきているので。

それにしても、生きるというのは大変なことだ。

これまでは、お母さんの犠牲と奉仕の精神で支えてきたけれど、課せられる荷が重すぎてお母さんたちも疲弊している。
それを助けるためにお父さんにも求められてることが格段に増えている。
さらに、子供は子供で誘惑も多く、やることや求められることも増えてる。
みんな、本当に大変。

もうちょっとお互いさま精神で、いい感じにゆるく、楽しく、生きていけないもんなのかなぁ。

少子化&子育て問題を、わかりやすくユーモア交えて書いてるので、読んでいても、ところどころ笑えるし、ポイントも的確。
提言も納得できることばかりでした。
ますます古市さん、好きになった。


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