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【読書感想】「仕事と家庭は両立できない? 「女性が輝く社会」のウソとホント」 アン=マリー・スローター

読了日:2017/11/15

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「世界の頭脳100」に選ばれた女性が書いた、まったく新しい働き方の教科書。全米で話題沸騰の書、待望の邦訳!
「BOOK」データベースより

この本の概要

この本、今年読んだ本のベスト3に入ります。
性別、年齢、職種問わず、すべての人に読んでほしい。
そして古い考え方からシフトするきっかけにしてほしい。

著者のアン=マリー・スローターさんは、弁護士であり、学者であり、経営者であり、アメリカ国務省の政策企画本部本部長にもなったことがあるアメリカのスーパーウーマン。同時に、男子2人を育てるワーキングマザーでもあります。
彼女は、夫に子育てを託し単身赴任で国務省の重役を2年間務めましたが、子供が荒れるなど色々問題が勃発したので、子育てを理由に契約更新を断り、家族のもとに戻りました。

この本は、彼女が身をもって感じた競争社会の限界や問題、ケア(育児・介護など)に対する私たちの思い込みについて、様々な気付きと示唆を与えてくれます。

アメリカ女性はたくましい

この本を読んだ最初の感想は
「アメリカの女性、すごすぎ!」
です。

144ヵ国を対象に調査した男女平等ランキングというのがあります。
このランキングでアメリカは49位。どちらかというとランキング上位の方です。(ちなみに日本は114位)

でも、読み進めていくと
「よくこんな整ってない社会保障制度でランキング上位になれたもんだな…」
と、心底感心してしまいます。

どれだけ整ってないか、いくつか紹介します。

・産休は産前産後あわせて12週。それ以上休もうとすると解雇されることも多々ある。もちろんその間は無給。
(ちなみに日本は、産前は6週、産後8週が基本で、収入に関しては、会社からは無給だけど健康保険で手当が出る)

・育休の制度も基本はない
(州によって多少違いはある。ちなみに日本は最長2年までで男女共に健康保険から育休手当も出る)

・保育園問題は日本と一緒。妊娠発覚時点で保活が必要。いい保育を受けたり、よいベビーシッターを雇うとかなりの額になる。

・職場環境も超微妙…。
(「従業員の柔軟な働き方」ではなく、柔軟なシフトに合わせて、直前で従業員が割り当てられる、という企業側優位の理屈になってるサービス業もある。)

などなど…。

いろんな事例や企業の話がでてきますが、ハイキャリアはもちろん、貧困層になればなるほど、ホントにヒドイ…。
文化の違いはあるにせよ、こんな社会保障で、男女平等ランキングが49位っていうのがホントにすごい。。
なんでこんな環境で、女性が社会進出できてるんだろう?

ちなみに男女平等ランキングというのは、経済・政治・教育・健康における男女格差を数値化したランキングです。
先ほど書いたようにアメリカは49位で日本は114位。日本は教育と健康は男女差がなく世界でも1位らしいのですが、経済と政治がダメダメなんだそうです。

気になったので、日本とアメリカでどっちの方が子供をより多く産んでるかも調べてみました。
結果、アメリカの合計特殊出生率は、188ヵ国中129位で、日本は170位…。
もし、日本の文化でアメリカのような社会保障レベルだったらどうなるんだろう?
こんな環境でもたくましく子供を育てて働いてるアメリカのママ、本当にすごい。

国の文化の違いより、すぐ隣の人との文化の違いの方が大きい

これを読んでいて、
「国の文化の違いより、すぐ隣の人との文化の違いを埋める方が難しそう。」
という点も感じました。

すぐ隣の人というのは、たとえば「男女」とか「バリキャリと専業主婦」とか「地方出身と都会出身」とか。
これらはどこの国でも存在する違いだけど、そういう身近なところでの違いのほうが、違いを乗り越えるのがすごく難しいな、と思ったんです。

会社の同僚(中国の地方出身の方)と話をしたときに、地方で育ったからこその価値観、みたいなのがすごく似てるように思ったことがありました。
「地方で育ったからこその価値観」というのは、たとえば、人との距離感とか、死生観とか、決まりごとに対する臨機応変さ(ユルさ)とか、人の価値観のベースになるような部分。

地方出身の私には、
「同じ日本の、都会で育った人」
よりも、
「違う国の、地方で育った人」
のほうが、根っこの部分が近いのかもしれないな、と感じたんです。
(別に都会育ちの人とはウマが合わないということではないです。ただ「国境を越えて同じなんだ」と感じたというだけの話。)
この同僚との会話で感じていたことを、この本でも感じました。

アメリカも、ケア(家事・育児・介護など)の中心は、日本と同様に女性です。
女性・男性それぞれの葛藤や生きにくさも日本と一緒、仕事とケアに対する価値観の差や、妻と夫の家事の気になるポイントの違いなど、価値観の違いが表れる場面は日本と驚くほど同じのようです。
正直「そこまで同じなの?!」とびっくりするほど。

国の文化の違いってわかりやすい分、
「あ、この国はこういう文化なんだ」
と受け止めやすいし、価値観の差もお互いに認識して折り合いをつけやすいような気がします。
それに対して、「同じ文化」とお互いに思い込んでる場合、その思い込みが邪魔して、互いに主張を曲げられなくなるんじゃないかな、と思いました。

文化的に日本ほど男女の差がなさそうなアメリカでも同じ問題で悩んでるんだから、男尊女卑文化や風土がプラスされた日本で、「競争」と「ケア」に同程度の価値を与えていけるようになるのは、すごーーーく難しいことだろうなぁ…(;´д`)

ワタクシ的名文

いろいろな意味で、この運動はまだ道半ばといっていい。21世紀の曲がり角に立った今、女性だけでなく男性もステレオタイプや思い込みから解放されるべきだし、それが女性の前進につながるはずだ。つまり、これまでのさまざまな「常識」に疑問をなげかけなければならないということだ。何が大切か、それはなぜなのか、何をもって成功とするのか、何が幸福の源なのか、真の平等とはいったい何なのか?それを問うには、職場環境から、人生設計から、リーダーの在り方まで、すべてを考え直してみなければならない。
私の理想とする社会は、すべての人に充実した働き方の機会が開かれている社会だ。

著者がこの本を書いた理由です。
私自身も、この本を読み、自分のなかにある「競争の方が価値が高い」という思い込みに気づかされました。
自分の中に無意識にある、「思い込み」や「常識」の呪縛にそれぞれが気付いて、価値観の再構築が必要なんだろうと思います。

先ほどの3人の学者がコンサルティング会社の依頼で行った調査に話を戻そう。綿密な調査の結果、この会社では男性も女性も同じように仕事と家庭の両立に対するストレスをため込んでいたことが分かった。また、過去3年間に長時間労働が原因でこの会社を辞めた社員の割合は、男女ともに同じだった。この会社の人事の問題は性差にあったのではない。経営陣の思い込みは間違いだった。問題は企業文化にあったのだ。
この会社の上層部は、3人の発見したことを認めなかった。
(中略)
上層部が望んでいたのは、これが女性の仕事と家庭の両立の問題だと確認することだった。それが確認できれば、彼ら自身の行動や考え方を変えなくていい。皮肉にも、コンサルティング会社の経営陣は「証拠に基づく分析を拒絶」したのだった。

あるコンサルティング会社の上層部から依頼されて、著名な3人の学者がその会社の内情を調査しました。
上層部としては、自分の会社で起きている問題を女性特有の問題として片づけたいという思惑があったみたいですが、調査した結果、男女の性差に違いはなく、企業文化が原因だとわかってしまいました。
本来であれば、そこで調査結果を受け止めて、改善に努めるのがあるべき姿だし理想的。でも、その会社の上層部は、客観的かつ証拠に基づく分析結果を拒絶し、自分たちの都合のよい思い込みの方を優先したそうです。

なぜ、客観的な事実を受け止められないのか?
企業の場合は、「大事になりすぎるのが自分たちにとって都合が悪い」というのもあるでしょう。
個人の場合は、「自分の思い込みや予想が外れたことを認めたくないプライド」もあるんだと思います。

「上層部の人たち、かっこわるいなー」
と思うけど、実際の会社組織では、こういう人の方が多いんですよね…。
むしろ、きちんと調査結果を受け止めて、自分たちにとってはイタい対策を考え、実行していける人は、多くの組織において「空気読めない鼻つまみ者」になってしまうように思います…。
私もどちらかというと切り込み隊長気質ではありますが、それでも鼻つまみ者になるのはイヤなので、
「明らかに違うな」
と思っても黙ってることが多いです。(でも、結局、我慢できなくなって衝突することも多いんですけどwww…)

「思い込み」とか「上司に対する過度の忖度」は、日常の作業レベルでも多いにあるし、それらが「事実」以上に大事にされることはすごく多いと思うんです。でも、そういうところに切り込める勇気をみんなが少しずつでも持てるようになるといいな、と思いました。

あと、そういう「切り込む」タイミングで、できるだけカドがたたず、お互いにwin-winであるようにアピールするための「論理的なストーリーの構築力」とか「伝える力」とか「交渉力」とか、もっと自分にほしいと思いました。

なぜ働き方が硬直化しているのかといえば、家族を犠牲にして身を粉にして働いてトップに立った白人男性が、自分と同じような人間が一番優秀に違いないと思い込んでしまうからだ。だから、そんな上司は勤務時間を短縮したり、働き方を変えたり、しばらく仕事を休んだ方が成果が上がることをいくらデータで証明しても、全く信じないか、疑いの目を向けてしまう
法学者のジョアン・ウィリアムズはこの点をはっきりと厳しく指摘する。「休みが面倒だと思うような人生を過ごして、大好きだったおじさんの葬式にも出られず、子育てにも参加せず、長時間労働を賛美する文化で生きて来たら、死ぬほど仕事をしなくても成果は上がるなんてことは、どれほど統計で説明してもわからせることはできない」
そうやってトップに上った多くの男性と少数の女性に、だから言わんこっちゃないと説教しても仕方がない。昔の社会の慣習にとらわれている彼らには、犠牲を払ってきたことを認めてあげて、子供たちの時代には違う世界を描くようお願いするほうがいい

さっきの引用と同じです。
お偉い学者さんも「わからせることはできない」って言いきってしまってますし、そこはもう理解してもらうのは難しいんですね。
そう考えるととても残念な気持ちになります…。

できることとしては「犠牲を払ってきたことを認めてあげて、子供たちの時代には違う世界を描くようお願いする」ということだと言ってるんですが、ただ、実際問題これもすごく難しい。
「犠牲を払ってきたことを認める」ことは、まぁできると思うんです。
先駆者たちに対して、感謝の意を表明することもできると思う。

でも、そういうやり方で来た人って、結局、次世代にも同じ価値観を強制しようとしちゃうんですよね。そこは別モノとは見てくれない。
なので、結局、衝突は発生するんです…。
自分が所属する小さい小さい組織でも、そういう衝突はしょっちゅうだし、自分だって気付かないうちに我が子に古い価値観を植え付けてる部分があるかもしれない。
片方が価値観を押し付けている限り、衝突は不可避なんだよなぁ。
だから、衝突は起きるものとして、衝突を恐れない勇気をひとりひとりがもつことが大事なんだろうな。

このようなケアの理想は、他の多くの分野の偉業と同じく、難しくもやりがいのあるものだ。実際、メイヤロフは、優れたケア提供者になるために必要な要素を上げていて、それは優れた社員や管理職に必要な資質とまったく同じものだった。彼が上げたのは、知識、忍耐力、順応力、正直さ、勇気、信頼、謙虚さ、そして希望だ
(中略)
また、真の忍耐力とは、自分でなにかを解決しようとしている人たちに「ある程度の回り道や試行錯誤を許すこと」でもある。この姿勢が、無駄な時間に見えて実は、成長に必要な「遊び」の部分なのだとメイヤロフは言う。グーグルも同じことを言っている。だから、レゴや卓球台やスクーターやおもちゃがオフィスのあちこちに置かれているのだ。

ホリエモンがちょっと前に保育士の給与問題について発言してましたけど、今の社会では、
「ケア」は誰でもできるもの、
「競争」は特殊スキルを持つ人ほど価値が高く優秀なもの、
という思い込みがあります。

社会の構造もそういうふうになっていて、ケアの仕事(介護ビジネス、教育ビジネス、保育ビジネスなど)はだいたい薄給。「競争」の仕事(いわゆるホワイトカラーな会社員とか)は給与もそれなりにいい。
その考え方と構造を変えていきたいね、と作者は言ってるわけですが、この優れたケアの資質って、ほんとその通りだなと思います。

仕事で後輩をどう育成するか考えたことは、その後の子育てに確実に活用できているし、子育てで体験する忍耐力や順応力は仕事に活かされてるな、と実感します。
子供を育ててることが不利にならずに、むしろ子供を育てた期間があることを堂々と履歴書に書いてアピールできるような価値観の社会に変わってほしいと思います。

もう、感じることがたくさんあって、感想が書ききれません。
働く女性は共感しまくりだと思うので読んでほしい。
働いてない女性も共感しまくりなので読んでほしい。
家庭と仕事の両立に苦しむ男性も「そうなんだよ」と思うところが多々あると思うので読んでほしい。
古い価値観のおじさんおばさんにはもちろん読んでほしい。そして変わってほしい。

本当におすすめ。


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