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【読書感想】「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

読了日:2012/9/21

人気首相、金田貞義が地元仙台でのパレードの最中、爆発物により殺されてしまう。
民衆やマスコミが騒ぐなか、容疑者として手配されたのは、青柳雅春という青年。
全く身に覚えのない事件の犯人にしたてあげられた青柳は、見えない大きな力に抗いながら、逃げる道を探す。

映画になるだけあるなぁ。
ボリュームある内容だったけど、あっという間に読めた。
面白〜〜い。

伊坂幸太郎作品は、本筋と関係ないところのさりげない表現とか、会話がとっても好き。
内容的には追い詰められて逃げるっていうしんどい話ではあるんだけど、重くなりすぎないのは、そういう表現で軽くしてくれてるからなのかな、と思った。
素晴らしいバランス感覚。

直前に読んだのが「ロストシンボル」で、「秘密結社が隠している秘密とは?!」というストーリー。

今回の作品は、公的な組織(国とか政治家)が、秘密を隠すために普通の一般人を追い詰めるっていうストーリー。
どちらも「組織の秘密」っていう共通項があったので、ますます見えない世界のダークサイドに興味が湧いてきた(笑)。

作品全体として
・当時の一般人の視点
・事件から20年後の記者的視点
・事件当時の関係者(主に青柳くん)視点
・事件後3ヵ月のそれぞれ
というふうに、視点や時間軸が頻繁に変わっていく。
でも迷子にならないで、するする読める。

物書きの人の書く力はすごいな。
小説をたくさん読むと、本当に色々な構成の仕方や、流れの作り方、表現の仕方があるのだな、と改めて気付く。
作品によってそれを自在に使いこなす作家さんはやっぱりすごい。

青柳くんは、世間やマスコミから、あることないこと騒ぎ立てられてしまう。
そんななかでも、彼をよく知る人物は、彼が無実であることをちゃんと信じている。

数日前に、ほぼ日のサイトでイトイさんが、
『我々は、テレビをはじめ、誰かが切り取った情報や、誰かが作った情報や、誰かが得た情報を又聞きすることによって、昔では考えられないような情報を得ることができるようになった。
でも、自分の目で見て、自分が直接知ることができる情報量は昔から変わってなくて、むしろそういう又聞きの情報が限られていた江戸時代とかの方が、
自分の目でもっと見たり、気付いたりできていたのかもしれないよなぁ』
という趣旨のことを書いていた。

青柳くんをよく知る人は、報道から流れる又聞きの情報ではなく、自分の目でみた青柳くんを信じている。

私はどこまで自分の目で、人を信じることができるだろう。
私はどこまで又聞きの情報ではなく信じる目を向けてもらえるだろう。
それに足る言動ができているだろうか。
など、考えさせられた。

青柳くんの友人である森田くんが
『最後の残るのは「習慣と信頼」』と言っていた。
いい言葉。

ワタクシ的名文

平穏な状態では、誰もが正論を吐ける。人権を主張し、正攻法を述べる。
が、嵐がはじまればみんな、浮き足立つ。正しいことを考える余裕もなく、騒ぎに巻き込まれる。
そういうものなのだろう。

震災直後を思い出した。
確かにそうなってしまうね、ヒトは。

「キューバ危機を起こしたカストロにしても、ソ連と組んだのは、訪米した時の相手の対応が悪かったからですよ。
アメリカに行く前には、カストロもそれほど、アメリカが嫌いじゃなかった、そう言ってるんです。
それなのに、帰ってきた時には、ソ連と組んでもいい気持ちになっていた。
人の気持ちなんてそういうものです。相手の態度が悪ければ、意地悪したくなるんですよ。」

国レベルの話でも、やっぱり感情や対応の仕方は、個人と同じ。
戦争も平和も全部「人の感情」からなんだよなぁ。

「名乗らない、正義の味方のおまえたち、本当に雅春を犯人だと信じているのなら、賭けてみろ。
金じゃねえぞ、何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ。
おまえたちは今、それだけのことをやっているんだ。俺たちの人生を、勢いだけで潰す気だ。
いいか、これがおまえたちの仕事だということは認める。仕事というのはそういうものだ。
ただな、自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれねえんだったら、覚悟はいるんだよ。
バスの運転手も、ビルの設計士も、料理人もな、みんな最善の注意を払ってやってんだよ。
なぜなら、他人の人生を背負ってるからだ。覚悟を持てよ」

息子の無実を絶対に信じて、マスコミにタンカを切る父。
圧倒された。
こんな親に自分はなれるだろうか。
こんなふうに自信をもって言い切れるほどの子を、私たちは育てることができるだろうか。
親として、こう言える強さを持ちたい。
そしえ、こう言えなければいけないな、と思った。

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