見出し画像

栽培作物のリスト 「ゴマ」の歴史

さて、今回はヒマワリ、ヒマに次ぐ採油植物のひとつ、ゴマについて取り上げてみます。
ヒマワリやヒマは、食用として私たちの身近にあるものではないためピンとこない方も多かったかもしれませんが、ゴマ油は油脂類の中では比較的よく目にしますよね。

ゴマと日本文化の関りは割と深く、地理では(最近はあまり出てきませんが)「世界四大農耕文化」というものがあります。

①根栽農耕文化
発祥地:東南アジアの熱帯雨林地帯。
主要作物:タロイモやヤムイモ、サトウキビ、料理用バナナなど。
・無種子栽培で、根分け、株分け、挿し木など栄養繁殖。
・豆類、穀物を欠き、油脂作物がない。
・タンパク質が不足しやすいので漁労・狩猟で補完。
・焼畑農耕で、農具は掘り棒(ハック)。

②サバンナ農耕文化 
発祥地:西アフリカ。その後、西アジア~インド~東アジアに伝播。
主要作物:イネを含む穀類、豆類。瓜や油脂作物のゴマなど。
     瓜類のひょうたん、ゴマをとり、「ひょうたん・ごま文化」
     等とも称する。
・夏作物主体
・イモ類がない
・調理用の土器が発展

③地中海農耕文化
発祥地:オリエント=西アジア、地中海性気候の地域。
主要作物:麦類、エンドウ、玉ねぎや大根、油脂作物のオリーブなど。
・冬作物主体
・イモ類がない
・麦類は保存性が良く、富が蓄積され強大な古代国家を形成。

④新大陸農耕文化 
発祥地:中南米
主要作物:トウモロコシ、落花生、カボチャ、トマト、トウガラシ、サツマイモ、ジャガイモ、油脂作物のヒマワリなど。
・「旧大陸」に伝播後、非常に重要な作物として世界で生産が拡大。
・新大陸のイモ類は旧大陸におけるカロリー不足を補い、人口増加のきっかけとなった。

日本の古代の食文化を見ると、①~③の文化が混合していると言えそうですね。こう考えると、日本は世界の農耕文化の結節点にもなっていて非常に面白いです。
さて、本題のゴマのお話に参りましょう。

ゴマはどこで生まれたか

その生まれは遥か遠く、アフリカだと言われています。
先述の農業文化圏「サバンナ農耕文化」の主要作物の一つ。

なお、サバンナ農耕文化はサハラ砂漠以南、名前の通り主にサバナ気候(Aw)

Wikipediaより

地域が発祥の農業文化。
その後、サバナ地帯から東進し、インドや中国、日本に至ります。
含まれる作物には、ゴマ以外にもささげやシコクビエ、ひょうたんなど、聞き覚えのある作物名が並んでいます。
なお、ゴマ(胡麻)の「胡」は西方の意。日本から見て西方から伝来しましたので、この名がついています。

ゴマの栽培化と伝播(インドまで)

ゴマは、アフリカからメソポタミアを経てインドに伝播しました。
その過程で栽培化され、紀元前1300年頃にはエジプトでも栽培されるようになります。
ナイル川の沿岸に畑が広がり、その油は様々な用途がありました。
燃料はもちろん、薬、香料、そしてミイラづくりの際の防腐剤としても用いられ、かのクレオパトラもボディオイルに用いたと言われています。

また、古代ギリシャでも滋養強壮のスーパーフードとして用いられていたようで、古代ギリシャの医者で「医学の父」と呼ばれる、ヒポクラテス

Wikipediaより

は、ゴマを健康のために食べることを推奨しています。

その後、アレクサンダー大王の東方遠征で世界の東西が繋がったことで、一気にインドへと伝播。
インドの伝統医学、アーユルヴェーダでも用いられるようになるなど、とにかく健康に良い食品や薬品として重宝された様子がうかがえます。

ゴマの栽培化と伝播(中国から日本)


ゴマは東アジアにもその後伝播します。
紀元前5世紀頃には中国に到達、さらにその後朝鮮半島経由で日本にも入ってきたと思われます。
中国で著され、世界最古の医学書とも言われる『神農本草経』にゴマの記載があります。これは、本草書と呼ばれる東洋医学の書物ですね。
ゴマはここで
「気力を増し、脳髄を補い、飢えず、老いず、寿を増す」
とあり、長期にわたり積極的に摂取すべき生薬とされました。
その後も長らく、ゴマは薬として用いられています。

日本への伝来はかなり古かったという説もありますが、より明確に食されることがわかるのは6世紀頃。
中国への伝播から1000年近い歳月を経ています。
ちなみに6世紀は、百済から日本に仏教が公に伝来した時期ですので、ちょうど大陸との交流も活発だった時期。
また、仏教との関連性があったようで、ゴマは肉に代わる高タンパク食品として精進料理に用いられるようになります。

実は、ゴマは20%がタンパク質でできており、肉の代替になる食品なのです。
そのため、日本ではタンパク源として重宝されるようになりました。

ところで、ゴマは、日本では油脂作物としてはかなり古い歴史を持っているのですが、そもそも日本の古い食文化で油脂類があまり用いられていない様子があります。
そういった意味では、日本の農耕文化の原型は根菜農耕文化をベースに、サバンナ、地中海(この辺りは古代)、新大陸(主に近世・近代)という形で作物が伝来し形作られたと考えると良さそうです。

というわけで、今回は農耕文化とゴマについてでした。
お役に立てば幸いです。




サポートは、資料収集や取材など、より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。 また、スキやフォロー、コメントという形の応援もとても嬉しく、励みになります。ありがとうございます。