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栽培植物のリスト 「ヒマ」の歴史

栽培植物のリストでも少々変わり種、油脂植物のうち「ヒマ」という植物について取り上げてみます。
見た目はこんな感じです。

オリーブ油、ごま油などと違い、食卓で日常的に見かける油ではないため、ヒマ??ヒマワリの仲間??ともなることも多いようです。
ヒマというより唐胡麻(トウゴマ)と書いた方が馴染みが…ないですね。
では、参りましょう。

ヒマはどこで生まれたのか

ヒマの原産地はアフリカ大陸の東部、エチオピア。
同じ油脂作物であるベニバナと原産地は近く、古くから油脂として用いられていましたが、古代のヒマの油(ヒマシ油)の基本的な用途は薬用だったと考えられています。

エジプトでも用いられた痕跡があり、ギリシャでも身体に塗る油などとして用いられていました。
その後アラビア半島を経てインドにもたらされています。インドではアーユルヴェーダ(インドの伝統医学)で、薬効のあるオイルとして用いられています。
中国への伝播はベニバナより遅く、記録に登場するのは7世紀。
日本への伝播はさらに遅く、『倭名類聚抄』に初めて登場することから、10世紀頃と考えられます。

伝播が比較的遅いのは、ヒマの油は熱で変質しやすく、難消化性油脂で食用に向かないため、栽培が紅花に比べて広がらなかったのではないかと推測されます。

ただ、その薬効は各地で折り紙付きで、別名に「Palma Christi(キリストの御手)」という呼び名があります。
その効能は鎮痛作用、抗炎症作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗酸化作用、デトックス作用など。
ヒマシ油を染み込ませた布を用いた湿布は、あらゆる外傷に効果があると言われています。

また、保湿効果も高く、古くから美容に用いられており、現在でも化粧品の原料として重要な地位を占めています。

さらに緩下作用があり、古くから下剤として用いられていて、この効果もなかなかのもの。
古いエピソードでは、日本では誤ってヒマシ油を天ぷら油に用いてしまい、客がお腹を下したとか、ヨーロッパの孤児院でいたずらの罰としてヒマシ油を飲ませたなどというものも残っています。

毒を持つヒマの種

そして、ヒマの種には猛毒のリシンが含まれています。
ヒマシ油には含まれていないものの、実や種を誤植すれば死に至る危険すらある危険な一面があります(リシンの致死量は体重1kgあたり0.03mg)。
戦時中は化学兵器として用いられたこともあり、さらに戦後にもKGBが暗殺用の毒として用いたこともあるいわくつきの毒物です。

ヒマシ油には毒性はないのでご安心を。

ヒマシ油の大半を占めるリシノール酸は水酸基を持つ非常に珍しい植物油で、広く工業用途にも用いられます。
エンジンオイルにも使われており、旧日本軍の零式艦上戦闘機(ゼロ戦)

のエンジンオイルにも使われていたそうです。

イギリスのオイルメーカー、カストロール(Castrol)の社名は、ヒマシ油の英名(Castor Oil) から来ていたりします。

現在でも潤滑油の原料として用いられるだけではなく、有機溶剤に溶けるため塗料の原料としても重要、また、ウレタンの原料でもあり、身の回りの製品にはかなりの頻度で用いられていると言えます。
私達の生活を陰から支える重要な作物です。

ちなみに、現在の主要産地はインド、中国、ブラジルで、需要が旺盛であることから生産は拡大傾向。

というわけで、今回は簡単にヒマ(ヒマシ油)について書いてみました。
お役に立てば幸いです!






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