見出し画像

社会的企業の実例(日本編 番外)

社会的企業の実例として、アメリカの教育機関や英国のサッカークラブ、地域活性化事業などを紹介してきました。ここで、日本の例を紹介したいと思います。

と言っても、現代的な意味の社会的企業ではないです。現代的な意味の社会的企業とは、主として株式会社形式で、会社定款などで社会的目的を明確に示し、会社利益と社会的利益を同時に追求するものを言う事とします。英国の場合、CIC(コミュニティ・インタレスト・カンパニー)は、limited by guaranty(予め決めた額を限度として、そこまでは債務保証するという有限責任の会社)という形態のものも多いですし、CBS(コミュニティ・ベネフィット・ソサエティ)と呼ばれる法人格を有する組合形式のものも盛んなので、株式会社に限られるというわけではないですが、組合を入れると生活協同組合のような長い歴史を有するものもあるので、一旦除外します。

なんで、こんな前置きをするかというと、かなり古い話だからです(笑)。しかも、社会的企業と言っても、具体的な社会的目的を定款に定めるような、現代の社会的企業とは様相が異なるからです。

日本の例として紹介したいのは、現在の大日本印刷株式会社(DNP)の前身である、秀英舎という会社です。

この秀英舎は、佐久間貞一という事業家が、1876年(明治9年)、今の銀座に共同出資者とともに設立した印刷会社です(もっとも秀英舎沿革誌によれば、会社組織となったのは1988年(明治21年)ということです。)。

この佐久間貞一は、今でいう社会起業家のような人だったようで、佐久間貞一伝という本によれば、自身の経営する秀英舎において、労務管理の近代化の実験、実践を進めていたようです。労働者保護法も無い時代に、8時間労働制を取り入れ、工場労働者の保護を目的とした工場法の制定についても尽力しました。

秀英舎の会社規則において、工場協議員を設置し、雇用条件や衛生について常時、労使で話し合いのできる体制を整備し、労災のような制度も設けて、従業員が安心して働ける環境を整えたりもしました。

また、自分の会社だけでなく、各社において職工たちによる労働組合設立の動きが起こると、労働組合期成同盟会の評議員となって、労働組合設立の動きを支援しました。

社会的企業というのは、英国の例のように、地域社会などの利益を具体的に会社目的として掲げる場合もあります。

一方、アメリカの例のように、地域社会、労働者、取引先などのいわゆるステークホルダーの利益を考える事に主眼を置く場合もあります。

誤解無きように付言しますと、英国が地域社会、米国がステークホルダーと決めつけているのではないです。ただし、傾向の違いは確かにあります。

詳しくは、拙著をご覧ください。

いずれにせよ、日本にも現在の欧米の社会的企業に繋がる考えが100年以上も前から存在していたというのは興味深いです。「三方(自分、相手、世間)よし」で有名な渋沢栄一と違って、佐久間貞一に関しては、資料もあまりないそうです。今後、歴史研究家がこの辺を掘り起こしてくれることを期待したいです。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?