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ネプリ『第一回 不穏婦人会』

ネプリ『第一回 不穏婦人会』を拝読しました。
印象に残った歌を引きます。

10,000のピースのすべてに意味があるなんて世界の呪いでしょうね

北谷雪(第一部 不穏なプレゼント交換)

10,000ピースのジグソーパズルでしょうか。
一つとして同じものはなく、全てが等しく全体を構成する要素になっている。
意味のないものがないということは、余白や余裕がないということでもあります。
余分なものが入るから、人生は面白くなる。
意味のあることだけをしていたら、つまらない。
そんなメッセージを受け取ったような気がしました。

ひとごととじぶんごととの境界をいつしか超えて苦い蜂蜜

青糸りよ【不穏 × おんなともだち】

自分の境界を守るって難しいですよね。
親しい人であるならなおさら、相手の望む自分でありたいと思ってしまいます。
美味しそうにどろりと溶ける蜂蜜は、見た目とは裏腹に苦い。
他人との境界を見失う甘美さと、危うさを表していると思いました。

ほんとうによごれをおとすということがどういうことかわかりそうです

岩瀬百【不穏 × 洗濯】

不穏なお歌だー!と思いました。
そして人間関係のお歌だと思いました。
主体はこれから、今まで切れずにいた縁を切ってしまうのではないか。
そんな予感がしました。

白波に足を取られて同調はいつもすこしの退化と思う

北谷雪【不穏 × 泡(あぶく)】

「白波に足を取られて」、動きにくそうにしている主体を想像しました。
主体は気高い感性の持ち主でありながら、社交性があるがゆえに、自分を突き通せないでいるのかなと思いました。
本当は頷きたくないところで、周りに合わせて頷いてしまったり、愚痴を言い合う人たちの仲間に入ってしまったり。
「すこし」ということは、主体は今の環境に概ね馴染んでいるのでしょうか。
でも、「いつも」感じてしまっているのですよね。
人と一緒にいると、100%自分そのままではいられない。
そんな苦しさを描いていると思いました。

ゆっくりと息がつまってゆく人を見るとき人はマンボウの顔

岩瀬百「マンボウ」(第三部 不穏な雑談タイム「あなたの怖いもの、教えて?」)

魚類ってちょっと怖いですよね。
じっと見つめてみても、何を考えているのか分からないし。
「ゆっくりと息がつまってゆく人」は、肉体的にというよりは、精神的に追い詰められているのかなと想像しました。
息がつまってゆく人がいて、その人を助けるでもなく、ただマンボウの顔をして見ている人たちがいる。
マンボウ側は、本当は一人一人顔が違うんですよね。
でも、息がつまっている人には、全員同じ表情に見える。
追い詰められた人間の心情が、リアルに描き出されているお歌だと思いました。

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