見出し画像

川野里子『ウォーターリリー』

川野里子さんの『ウォーターリリー』(短歌研究社)を拝読いたしました。
この一冊全体を通して連作という印象が強い本です。
一首単位で紹介して良いものか悩ましいのですが、特に印象に残った歌を3首引きます。

ウォーターリリーここに生まれてウォーターリリーここがどこだかまだわからない

「ウォーターリリー」

巻頭の一首です。
このあと、何度も何度もウォーターリリーの歌が出てくることで、本の中でリフレインが続いていきます。
思い出したように浮上してくるウォーターリリーの歌たちがとても印象に残ります。
その始まりの一首として、この歌を紹介させて頂きました。
ちなみに、ウォーターリリーは睡蓮のことです。

ドアノブはあやふしといふ名前なく顔なきあまたの手を知るゆゑに

「船歌(バルカローレ)」

コロナ禍の一首ですね。
当時の緊張感が伝わってきます。
今までは特に意識をせずに握っていたドアノブが危ないものとして扱われる。
「名前なく顔なき」にドアノブに残っているのは、手の記憶だけなのだというのが発見のように感じました。
「あまたの手を知る」という擬人化も巧みだなぁと思う一首でした。

(あの角とこの角きちんと重ねてね。ここが狂へばすべてが狂ふ)

「鶴の折り方」

「鶴の折り方」という連作中の一首です。
広島、原爆をテーマに編まれた連作中に、()に括られて鶴を折る様子が歌うように描写されていきます。
この歌は()で括られた歌の一首目です。
「あの角とこの角」と言われただけで、正方形の折り紙を三角に折る様子が想像できます。
上の句は優しい声掛けのようですが、下の句の「狂ふ」という言葉に底知れない心情が込められていると思いました。
この歌単体としても好きですが、ぜひ連作として味わってほしい一首です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?