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映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』感想。

 観てきました。油断してたらもう上映回数激減してるんでやんの。

 原作未読。なんとなくいい評判は聞いてる漫画でしたが、私自身が漫画を読む習慣からしばらく離れていたので見逃してたものの、評価してる方の傾向からして読めばまずおもしろいんだろうなぁと思ってた作品の一つ
 でありながら、映画予告編を含めてほとんど情報を見聞きすることなくいられたのは、観劇という点だけで言えば幸運だったと思います。

 前情報としては主役二人のキービジュアルとなんか宇宙人の侵略母艦っぽいデカいメカ、くらい。メカの緻密さよりも、キャラデザのおそらく意図的な「緩さ」(後述)「なんかこれただモノじゃないな」感はありましたが…。

 見始めて10分くらいかな?まず頭に浮かんだのが「ああこれ震災後に描かれた漫画なんだ」ってこと。あとで確認したら震災の二年後ですね。露骨な災害描写はないものの、日常にのしかかる不安感や疑心暗鬼、それによる陰謀論や過剰防衛的な奇行など、あのころの雰囲気が鮮やかによみがえってきて「上手いなぁ」と思いつつも、それを娯楽作品として消化することへの若干の後ろめたさなども感じます。(念のため補足しますが、これは原作者や映画制作側への批判ではありません。辛い思い出などをいつまでも聖域にしておけない、あるいは未来への糧にしようとする私を含めた人間の”業”に対してです)

 漠然とした不安の中、それでもそれなりに日常生活を送れてしまうのも、「あの頃」を共有する私たち(もちろん本当に辛い思いをしてる被害者のみなさんや救助その他の関係者のみなさんは除きます)がよく知ってる光景。
そんな毎日を送らなきゃいけない「私たち」にはあたりまえ、むしろそれに耐えられなくなった(ある意味正常な)人が様々な形で「日常」から離脱していく。残酷なまでによく描けてると思いました。
 これは極一部の戦争映画にのみ描かれる「戦時下といってもわりとのんきな日常を送っている」描写に通じるものがありますよね。最近鮮烈だったのは言うまでもなく『この世界の片隅に』でした。あの映画でものんきな日常が映る目の端に戦争の不穏な空気がにじみ出ていましたし、後半どんどん闇が広がっていきました。

 余談というか個人的な話ですが、あの当時のTwitterに私が描きこんだので覚えてるのが、「(海外で災害の中でも日本人が冷静だったという評判があったけど)私が見る限り日本人は静かにパニックを起こしてた」という一説。
 ここに引用したいところだけど去年理不尽な凍結を喰らったのでイーロン許すまじ。

 今作でも、まさにそんな異常で普通な毎日を過ごす主人公たちは、主役二人はさすがに主役に選ばれるだけあってどこかと特殊ながら、それを含む仲良し5人組はのんきでありがちな青春を過ごしてるのが前半にきっちり描かれる。もちろんそのフレームの端にはきっちり不穏な雰囲気が漂ってるのだけど。「大丈夫」じゃないんだけど。

 主人公の一人門出(かどで)が大好きな国民的漫画『イソベやん』が序盤からかなり意識的に描写されてて、リアル目な作品にありがちな「その世界で流行ってる作品を実在の作品のパロディ的に描写する」ヤツにしてはずいぶん念入りに描いてるな…と思ってたら、案の定後半これがかなり大きな意味を持ってきますね。
 今までのnoteでもいろいろ描いてるように、私は藤子・F・不二雄作品の大ファンなんですが、これは『ドラえもん』オマージュ作品としてもかなり濃厚だなぁと。『ドラえもん』と『デスノート』を悪魔合体させて戦争モノや怪獣モノでコーディネートしたのが本作なのかもしれないなぁと。

 後半を見てないので言い切ることはできないけど、どうも上記のオマージュ先作品と現実の災害を引用して「正常」とか「正義」とか、それに伴う「力」などを主軸にしてるのかな?ってのが今のところの印象です。


 …とまあ、そんな真面目な論評はともかく、個人的には「劇画的・写実的」とは違う意味合いで人物がリアルに描かれてるところがたまらんなぁと思いました。主人公門出とおんたんをはじめとする高校生たちはものすごく「緩い」感じで描かれています。もちろん雑とか下手だとかじゃなくて、いわゆる漫画・アニメ的なかっちりした隙のないデザインではなく、劇画や写実方面のリアルさとも違う、実際の人間ってそんなにきれいじゃないよね、的なゆるさ。そして容赦ないリアルさ。上映時間の8割以上は出ずっぱりの主役二人ですら「かわいく見えなくもないけどあちこちゆがんでる」デザインで、普通のアニメならそこはシャープに描くだろ!という概念を断固拒否してる感じといいますか。もちろんこういうシャープさってある意味単純化でもあるので、アニメで動かすにはある程度必要な処理なんですが、かえってこういう不安定な要素は動かすの難しいはずなのに最後まで貫いているのがなんというかすばらしい。この映画自体が求める「リアルさ」はここなんだなぁと。もちろんこれは原作の持ち味なので、すごく真摯な映像化だと思います。

 つか、おんたん常になにかしら体液(涙・よだれ)垂れ流してるってものすげぇなってw 単純に主人公少女に「萌える」ことすら断固拒否してる感じいいですよね。
 この奇行はじけるバカ元気で、それでいて繊細さが顔をのぞかせる主人公おんたんを演じるのがもはや説明不要なあのちゃんで、これが声優初体験とは思えないほどで、むしろ漫画の方が当て書きと言われ手も納得しそう。方やもう一人の主人公門出もアーティストの生田りらさんだとあとで知って、これだけのスケールの作品でありながらほぼこの二人の物語といってもいいくらいの比重があるのにすげぇな…と感服しました。

 さらに余談ですが、あのクラスの教師が門出のアタックにも平静でかわしてるようでいて、なにげにしっかり欲情しているのがちょっと洒落になってないなと思いつつ笑いました。ギリとはいえ大人の節度を守っててえらい。こういう何気ないところでそのキャラの実在感を出すあたりも気に入ってます。(『みつどもえ』とか思い出しつつ)
 あと、あのインパクトデカいおんたんの兄貴、後半キーマンになりそうな予感。

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