見出し画像

青春のチクチク 意地悪をしちゃったことと懺悔とみそぎ


20代のころ、
アルバイト先で知り合った
高校生の女の子に、
私がしちゃった意地悪の話。

彼女は心の病気を持っていて、
定時制高校に通いながら、
昼間はアルバイトをしていた。

とても人懐こくて、
新入りの私にも興味に深々。

私の経歴や、好きなもの聞いてきたり、
自分のこともたくさん話してくれて
私もおしゃべりなので
すぐに仲良くなった。

彼女はいわゆる恋愛体質。
バイト仲間の男の子で
お気に入りランキングを決めては
私にだけだよと教えてくれたけれど
イコールそれは、
私のだからねという牽制でもあった。

その店には
カウンターキッチンがあり、
男の子はキッチン、
女の子はホールを担当する。

店長も含め、
20代の学生とフリーターばかりのその店を、
今の私が行けたなら、
可愛い若者が揃っていて
とっても眩しく感じるだろう。

普通に学校に行くことのできない彼女には、
ちょっと年上のお兄さんお姉さんは
みんなかっこよく見えていたらしく、
毎日、楽しそうにしていた。

そして自分もかっこかよくみせなきゃと
頑張っていた。

ホールからみたキッチンには
カウンター越しに、ちょうど肩から下、
白いブラウスをまくしあげた男の子達の腕が、忙しそうに包丁を動かしているのが見えた。
長めのカフェエプロンを巻いた細い腰は
異性を感じさせて、
かっこ良くて、
私もドキドキしていたけれど、
そんなそぶりは見せないようにして、
ちょっとすまして、
高校生の彼女よりも大人なふりをしていた。

閉店後は掃除をし、
一人一人着替えをする間、
一つのテーブルに座りアイスコーヒーを飲み、話しをしてから帰る。

興味深々の女子高生の彼女は
いつも目をキラキラと輝かせて、
男の子たちと話をするのを楽しみにしていた。

彼女のお父さんのお店がすぐそばあって、
私はお父さんのところへ
出前に行くこともあった。
お父さんは、
私が娘と仲が良いことを知っていたので、
私が顔を出すと、
一言二言、笑い合うような会話をかわすようにもなった。

私が仕事に慣れた一年くらい経ってからのことだったと思う。

その日は彼女のお気に入りランキング常に上位の男の子(ただし彼女持ち)と
店長がキッチンに入り、
遅番で入った私と彼女は
2人でホールを回していた。

夕方の忙しい時間をせっせとこなしていると、
私がやろうとする仕事を片っ端らから
彼女が奪っていく。
別の仕事に手を出そうとすると、
彼女はさっと手を伸ばしてくる。

そんなことがその日だけでなく、
以前から続いていたのかもしれない。
私はすでに苛立っていた。
記憶は曖昧だけれど、
不快だったので、その日、
彼女に話しかけられても無視しがちだった。

ところが彼女がレジ打ちを間違えてしまった。
私は黙って、レジを打ち直し、
お客の相手をして、
彼女を無視したままその場を離れた。

閉店間際、
彼女が突然泣き崩れた。
わーわーと大きな声で、
私に謝っている。

店長が駆け寄っても泣き止まず、
近くのお店のお父さんが呼ばれ、
迎えにきた。

経緯をお父さんに話す店長は
私とのトラブルを暗に示唆していた。

心神喪失のまま、お父さんに抱き抱えられて、彼女は帰っていった。

店長から
「優しくしてあげなきゃダメだよ」
とたしなめられた。
その日の私の行動は
誰からみても意地悪だったと思う。

次のシフトで店に行くと
彼女はすでに仕事をしていて、
この前は恥ずかしいとこ見せちゃったと
いつものように私に話かけてきた。
でも前のように
私の仕事を邪魔しないように気をつけていた。

とても素直な子なんだと思った。
だから余計に苦しくなった。

それから半年後くらいに
新しい仕事につくために、
私はその店を辞めた。

辞める時、
彼女は手紙を書くからと
連絡先を聞いてきた。
その年から毎年、年賀状が届いた。

20年以上の間、お互い結婚し、
子どもを産み、
彼女は地方に住み、
子沢山の頼もしいママになっている。

コロナ禍に入る前、
彼女のお父さんが癌であることを知らされた。

お店で働くお父さんの声や顔も
今も思い出せる。

あの日、彼女を迎えにきた姿も
しっかり覚えている。

「まだお店にいるから会いに行ってあげて」
と彼女からメールを貰ったけれど、
私には会いにいく資格なんてない。

あの日のことを、彼女にも
お父さんにも謝らなかったから。
悪いのは私なのに。

半年後、お父さんが
亡くなったとメールが入った。

お悔やみの言葉を送ると、

「パパは木曜日ちゃんのこと
気に入っていたんだよ、
いつも木曜日ちゃんみたいに
強く生きなきゃダメだよって言われた。」

と、明るい文面で返信がきた。

あの日のことは
お父さんにとっては
小さい子どもの喧嘩だったんだ。

大人から見れば、
ただそれだけだった。

私が大人ぶっていたのだって、
全部見透かされていたんだ。

喧嘩に勝った私のように
強く生きろって、
それが
お父さんから見たあの日の私。

お父さん、寛大だな。
大人だよね。
そして明るい素直な彼女のお父さんらしいな、と思った。
私はあの時も、今までも
私のことしか見えてなかった。

私たちはこの夏、
彼女の帰省に合わせて
会うことになった。

長い間続いた手紙やメールの結びの言葉、
会いたいね、が現実になった日、

お気に入りランキング上位の男の子も
来てくれてた。
(もう素敵なお父さんになっていた)

閉店したあとのアイスコーヒーとおしゃべりが、
ただ時間が流れてこの日につながっていたんだと、
確かめるような、
夢みたいな食事会。

私は、ずっと連絡をくれた彼女に、
ずっと連絡をとっていて良かったと
思って貰えるように
相変わらずおしゃべりな彼女の話をたくさん聞いて、
その時間を楽しく過ごし、笑ってきたのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?