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時代を動かすとは?〜10.30中嶋勝彦vs田中将斗

トップ画像は@shun064さんの作品です。

10.30福岡でのGHCヘビー級王座防衛戦。10.10に丸藤正道を降し4年ぶりにGHCヘビー級王座に返り咲いた中嶋勝彦。その中嶋の初防衛戦がこの日行われた田中将斗との一戦でした。これまでシングル未勝利かつ直近のN-1でも敗北を喫している田中が相手。ビッグネームへのリベンジ、そして中嶋の言う「時代を動かすとは何か?」。私はこの2つに注目してましたが、いわゆる「中嶋勝彦の時代」についてその片鱗が見られたと思いました。

「GHCヘビー級王座とは何か?」。王者であればそれに対して自分なりの解釈ができねばなりません。時代を作った選手たちはそこに何らかの解答を示してきました。三沢光晴は「凄み」。小橋建太は「生命力」。杉浦貴は「強さ」。潮崎豪は「覚悟」。丸藤正道は「自由」。彼らに共通するのはそこに「相手の攻撃を全て受けきる力」がベースにありました。受身を通して各々の主義を訴えたというイメージです。

実はノアの王者の多くはこの形でした。あの鈴木みのるですらも「破壊という手段を受身を通じて行った部分」が少なからずありました。唯一異なるのは武藤敬司だけかもしれません。

そうした受身の強さという視点を持つと、この日「ノアの王者らしい選手」は挑戦者の田中将斗だったかもしれません。中嶋の強烈なキックのみならず、必殺のヴァーチカルスパイクですらキックアウト。コンディションの良さを加味しても「相手の攻撃を受けて全部跳ね返す」という田中のスタイルは、ある意味これまでのノアの王者像でした。

では中嶋は王者として何を見せたのか?もちろん受身の強さはありました。田中の凄まじいスライディングDに最後まで屈しなかったのは、彼に受身の強さがあるからです。

しかしそれ以上に見せたのは「攻撃での殺伐さと痛み」です。中嶋は「どんな相手とも良い試合をする選手」でしたが、それは相手の攻撃を受け切る形ではありません。むしろ相手の攻撃に反応してそこに沿う形で反撃する。つまり攻撃型の選手だと私は捉えています。※20年の鈴木秀樹戦などが分かりやすいところ。

この日の試合であれば田中へ向けた諸々の誘い水。グラウンドでも打撃戦でも中嶋から仕掛けて相手の出方を伺い、相手が応じるならそれ以上の反撃を繰り出す。相手の攻撃を受け止めているようで試合の手綱は手放さない。それは彼が持っているであろう「相手が何をやってきても必ず反撃できる」という絶対的な自信によるものでしょう。最終的にえげつない攻撃を繰り出すからこそそこ殺伐さが生まれ、それを受ける相手の痛みが観客に伝わります。受け切ることの競い合いは、ある種のタフマンコンテストに陥る危険性を孕んでいます。しかし中嶋はそれをさせない。むしろ「俺はそれじゃない」と言わんばかりの戦いでした。

中嶋の体格はヘビー級では決して大型ではありません。その中嶋が「相手の攻撃を全て受け止めて勝つ」という形にこだわれば、そこにある種の歪みが生まれる可能性もあります。しかしそこに中嶋の持つ数々の武器(打撃、殺気、寝技の強さ等)で「受け身の王者像」ではなく「攻撃の王者像」を創造することが出来れば。これはノアにおけるGHCヘビー級の歴史を大きく塗り替えることになります。

中嶋が常々口にする「時代が動くぞ?」という言葉。それにはこうした「過去の王者像を塗り替えること」も含まれてるかもしれません。さらに「俺がノアだ」というフレーズや「生え抜き優遇への批判」にしても、根底は「過去の王者像を塗り替えること」にあるのでは?考えています。

中嶋勝彦が防衛を続けることで「攻めの王者像」をどのように創造するか?とても楽しめる展開ですね。

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