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5.29三冠戦〜デカイは正義されど複雑な感情〜

さて。5.29全日本プロレス後楽園ホール大会で行われた三冠戦。当初はCCの覇者である芦野祥太郎が王者永田裕志に挑むはずでした。しかし芦野の負傷欠場により挑戦者が白紙に戻るという非常事態。そこに名乗りを上げたのがCC準優勝のT-Hawkと芦野のタッグパートナーである本田竜輝。5月の新木場大会で次期挑戦者決定戦を行った両者。これに勝利したT-Hawkが正式に三冠の挑戦者として永田と対戦する形となりました。

全日本プロレスにとって数年ぶりとなる外敵同士による三冠戦。どちらが勝ってもベルトが全日本に戻ることはない。そもそも芦野のCC制覇→三冠奪還を見越してこの日のチケットを入手した私。そんな全日本ファンの私にとってもかなり複雑な心境で迎えた三冠戦でした。気持ちの上ではこんな感じです。


教えてくれ五飛。ぼくは誰を応援すればいいんだ。教えてくれ五飛。難波さんは何も答えてくれない…。

ただし試合前の宮原健斗とのサイン会に参加出来たことで「これもうチケットの元とれたのでは?」という気持ちにもなっていました(やはりサイン会は楽しい)。

本題に入ります。結論から言えばかなりの好勝負でした。個人的には永田がT-Hawkの速度に付いてこられるか?という部分を心配していました。しかしT-Hawkがわりと永田に併せた地上戦(打撃戦)を選択したこと。そうしたT-Hawkの打撃に対して、胸を突き出して耐える永田というわかりやすい図式になったこと。更にこれまでと異なり「永田にとって自分より小柄な相手との試合」という状況になったこと。そうした部分により永田とT-Hawkが良い方向に噛み合ったため、私の想像してたよりも良い試合になったのだと思います。

サイズ感の部分をもう少し掘り下げると、永田とT-Hawkが対峙すると永田はT-Hawkより一回り程は大きかったです。サイズに分があるということは攻撃面では同じ手数でも相手によりダメージを与えられる。また防御面でもサイズの大きい選手のほうが耐久力に勝りやすい。そんな状況になります。先程述べたように、T-Hawkが地上戦を選択したことで永田がサイズ差を活かしやすかったところはあると思います。

地上戦になったことでリング上での戦いが中心となり、会場を広く使う試合にはなりませんでした。しかしT-Hawkはバルコニー席にいる芦野を見つけると「芦野!」と叫び観客の視点を広げることに成功しました。このあたりのアピールに好き嫌いは分かれますが、観客の視線を動かすという意味でこの試合にはハマっていたと思います。また全日本にとって外敵のT-Hawkが挑戦者として同じく外敵の永田と戦う。かなりテーマ設定の難しいこの試合を「芦野の意志を継ぐ」という舞台装置を利用することでT-Hawkはうまく「戦う理由」を作れていたと思います。

T-Hawkの再三の打撃を耐えきった永田の姿。それは90年後半から00年代前半で新日本の選手がインディーの選手と対戦した際にみせたものを彷彿とさせました。いわゆる「シンプルな体の強さ(強靭な耐久力)」。「お前らが何をやってきても俺たちには通用しないぞ」というメジャーの誇りといってもよいかもしれません。それはサイズ差が勝ったことでより伝わりました。

体の強さに勝るものが勝つ。サイズのある人間が勝つ。そうした全日本の文脈も踏まえた上でT-Hawkに勝利した永田。しかし個人的には「そのバイブルを今持ち出してしまうとこれまでの防衛戦は何だったのか…?」「バイブルに従うとこれまでとの整合性が…」という疑問も拭えませんでした。

とはいえ永田がこれまでの試合よりはコンディションを整えていたことも。この試合が好勝負だったことも。それは事実です。このクオリティの試合をもう少し早い時期からできていたら?全日本ファンの永田に対する印象も変わっていたでしょう。

そして勝者永田に挑戦宣言をしたのは安齊勇馬。この大会で本田にシングルで勝利した安齊の挑戦はある種の既定路線ではあったやもしれません。安齊が新人離れした速度で成長していること。それは全日本ファンも満場一致で認めることでしょう。ただし三冠戦という状況でファンを唸らせることができるか?それは正直未知数です。一部で誤解されていますが、全日本ファンが今の状況(外敵侵略)に憤っているのは「好きな選手が負けているから」ではありません。「王座戦にふさわしい試合がなされていないではないか?」という疑問が根底にあるからです。事実世界ジュニア戦へのアレルギー反応はほぼ聞きません。つまり安齊も「単に勝利するだけではなく」「単に好勝負をするだけではなく」「三冠戦としてふさわしい試合をしなければならない」という状況です。

今の安齊はまさに「選ばれし者の恍惚と不安、ふたつ我にあり」という状況かもしれません。6月の大田区での試合まで彼がその成長速度をさらに加速して不安を打ち消し。挑戦者として自信を持って試合に臨めるか?観客である我々もまた「期待と不安のふたつ」を持って彼の躍動に期待したいと思います。




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