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105kgという重さの先にある世界〜芦野祥太郎の冒険

1.27全日本プロレス八王子大会。この大会のメインイベントは三冠王者中嶋と挑戦者芦野祥太郎の試合です。中嶋VS芦野という言葉から連想されること。それはおそらく「WRESTLE-1での試合」になることでしょう。ぼくも最初はそこについて連想しました。ただしぼくはWRESTLE-1時代の芦野をしっかり把握しているわけではないので。そこについて語ることはできません。きっとそれを知る人が語ってくれるでしょう。

ではぼくが考えるこの試合のテーマは何か?それは「芦野が全日本プロレスで歩んだ約3年の成果を見せつけること」。さらに言えば「それを全日本プロレスファン全てに伝えること」だと思います。

青柳優馬と宮原健斗の二人を破った中嶋からの三冠ベルトの奪還。その役目を芦野が務める。そこについては実際のところ「全日本プロレスファンからの満場一致の願い」には至っていないようにぼくは思います。その理由はおそらく「芦野のサイズが全日本プロレスのヘビー級戦士としては小さい」という点でしょう。「185cmを超える大型選手こそが全日本プロレスのヘビー級、ひいては彼らによる戦いこそが三冠の試合だ」。そうした意見があることをぼくは否定しません。これは自体は全日本プロレスの大切な哲学です。

しかし50年を超える全日本プロレスの歴史の中で。そうした「全日本プロレスらしい大型選手にサイズで劣っても立ち向かう者」がいました。彼は現在でこそヘビー級の選手にあてはまりますが。当時でいえば「小柄な選手だ」という見られ方をしていました。実際に狂信的な全日本プロレスファンであるぼくの父も「鶴田やハンセンのようにでかくなくて〇〇は小さい」と未だに言っています。

彼はそうした大型ヘビーの選手と真っ向からぶつかっていました。今であればスピードや切り返しのセンスでそれを果たすのがトレンドですが。彼は逃げませんでした。そこには卓越したセンスによる天才的な受け身があったからでしょう。しかし要所では受け身で避けるものの。大型ヘビーの激しい攻撃を受けきり。そして勝利をおさめたのが彼です。彼が時代を掴み、当時の全日本プロレスファンから絶大な支持を受けた理由。それはきっとそうした「大型ヘビーのぶつかりから逃げない姿勢」があったからでしょう。

ここで芦野です。彼が全日本プロレスに主戦場を移してから3年近くが経過しました。当初は外敵としての戦いだったこともあり。反則介入などもありましたが。ベースとして彼は「自分より大きな選手の攻撃からは逃げない」という姿勢をとっていました。それは彼の体重が107kgという点からも想像ができます。

174cmという身長で107kgという体格を維持すること。それはとても厳しいことです。単に大きいだけではなく。自分の体をコントロールする。そのためには体重が重すぎると不利になることもあります。実際彼の身長で機動力を持ちつつ、この重量をキープできる選手は決して多くないでしょう。

しかし彼はこの3年でそれをしっかりと果たしていました。ぼくの中での芦野の全日本プロレスのベストバウトはこの試合です。

2022年の世界最強タッグ決定リーグ戦。本田竜輝と組んで諏訪魔&KONOとの対戦。この試合は反則介入&それに対するカウンターなどもあり。とにかくハチャメチャな試合でした。そのハチャメチャな試合で芦野は諏訪魔とKONOの重い攻撃をひたすら受けます。


こんなバックドロップも喰らいました

そして大型ヘビー戦士の攻撃を受けきったうえで。最後は伝家の宝刀アンクルホールドで諏訪魔からタップアウト。ぼくは会場で観戦していましたが、そのときの会場の熱狂ぶりは凄まじかったです。

芦野が単純にヘビー級戦士として栄冠を掴みたいのであれば?彼は全日本プロレスを主戦場には選ばなかったとぼくは思います。自分より大きな選手と戦うことでの怪我のリスク。チャンスを得られる頻度。その団体のファンから認められるまでの過程。それらを考えれば。芦野の全日本プロレス参戦は、彼の強い覚悟があったからこそだと思います。

今回の対戦相手の中嶋はその意味で格好の相手です。中嶋は鋭い打撃とキレで体格を超えてヘビー級で結果を出してきました。これはある意味で芦野と逆の思想です。もちろんそれが間違っているというわけではありません。これは単にふたりの思想の違いでしょう。

外敵である中嶋と全日本の本流ではない芦野との三冠戦。「そこに全日本プロレスらしさはない」と言い切るのは簡単です。しかしこれまでぼくが述べたように。芦野は「3年の全日本プロレスでの経験」があったからこそ。今に至るわけです。105kgという重さの先を歩む困難さを誰よりも知っている芦野。だからこそこの試合は間違いなく「全日本プロレスの試合」だとぼくは思います。

振り返れば芦野の三冠初挑戦は無観客での試合でした。あのときはどんなに激しい試合をしても、そこに観客の歓声という後押しはありませんでした。そもそも当時の芦野は外敵でしたしね。しかし今は違います。全日本プロレスの芦野にはファンの歓声という大きな後押しがあります。そしてその先にはきっと「初戴冠を大歓声で祝福される姿」があるでしょう!頑張れ!芦野祥太郎!




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