万国ばんこく 名勝めいしやう 尽競づくし之内のうち　　英吉利いぎりす 龍動ろんどん海口のみなと

英国えいこくの 大府たいふ 龍動ろんどんは 爹模ていむず河がはの 上うへにあり。家屋いへ／＼ 櫛くしの歯はを挽ひくが如ごとく、人民じんみん 皆みな 福有ふくゆうなり。

此この河かはに 跨またがりて 大橋おほはしあり。長ながさ 百八十丈じやう、幅はゞ 四丈、三處みところに 燈臺とうだいを 設まうけ、夜よはこれに 灯ひを 点てんじ、行人ゆくひとの 便たよりとす。

又また、岸きしの 上うへに 砲臺はうだいを 築きづき、外寇ぐわいかうに 備そなへ、數す處しよに 互市かうえき場ばを 置おき、土産とさんの 品物ひんぶつを 以もて 万国ばんこくの 商人あきうどと 貿易かうえきす。その 商あきなひ舶ふね 河口かはぐちに 集あつまりて、水面すいめん 陸おかの 如ごとし。

府下ふかの 人口じんかう 凡およそ 一百零れい五万余よ、大学校だいがくかうに 在ある所ところの 生徒せいと、平常へいせい 數す万まんの 多おほきに 下くだらず。

土人どじん、女子によしは、頗すこぶる 情欲じやうよく 深ふかく、男子性だんしのさが 極きわめて 怜悧れいり狡點かうてん、然しかれども 事業じぎやう 遠大ゑんだいを 期ごし、大舩おほぶねを 製せいして、萬国ばんこくに 航海わたり、諸物しよぶつを 交易かうえきして、巨萬こまんの 利りを 計はかる。其その 商あきなひ 舶ふねの 數かず、二萬まん八千八十艘そう、舶ふねの上うへに 使役所つかふところ の者もの、十八万五千人、国王こくわうの 手舩てふね、大砲たいほう 四十挺てうよりして、百二十挺てうを 備そなふるもの 八百余よ艘てうありといへり。

萬國ばんこく噺ばなしの作者
　假名垣魯文譯誌