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【ラーメン紀行神奈川版②】どんとこい家編

横浜市保土ヶ谷区といえば、おいらにとっての「青春の地」だ。
おいらは、相鉄線の星川駅を出て山を上り、高校へ通っていた。昭和50年代後半の話で、当時付き合っていたクラスメイトの女の子が住んでいた上星川から天王町まで、そして「学校の山」の向こう側にある国鉄保土ヶ谷駅を含む一帯は、あの3年間の思い出が凝縮されている。


【マイナス乗換】保土ヶ谷から天王町まで走って不可能を可能に【保土ヶ谷ダッシュ】
https://www.youtube.com/watch?v=JMNQKQMMM-k


保土ヶ谷区内の相鉄線は、帷子川に沿って走っている。戦前から町工場が軒を連ねる独特の風情で、この川の水を利用していた染物工場が上星川駅のすぐ側にあり、星川と天王町の間には巨大なガラス工場があって、電車の窓から砕かれたガラス瓶の山が積み上げられているのが見えたものだ。今は、そうした工場が郊外へ移転してしまい、平成の間にそれらの跡地が再開発されて、保土ヶ谷区は横浜駅至近の優良住宅街へと変貌を遂げている。

今日は横浜へ出る用事があり、昼休みのタイミングでそれが終わった為に西口で昼飯を食うことができなかった。何も自ら進んで混雑しているとわかっているオフィス街の外食ゾーンに向かい、予想通り3蜜の中で飯を食うのもなぁ、と心が簡単に折れてしまったからだ。
外は秋の終わりを告げる雨、それがちょうど昼休み時間に豪雨になって、おいらはしばらく近くのコンビニへ入って雨をやり過ごした後、お茶を買って相鉄横浜駅へ入った。ホームでは各停が出発を待っていたので、それに乗り込んだ。座席に腰を下ろしたところで、何となく高校時代を思い出し、別に急いで帰る必要もないことに気が付いて、久しぶりに保土ヶ谷区で途中下車し少し遅い昼飯を食うか、という気分になった。

●和田町●
昭和の昔は通学定期で下車できる駅だった為、和田町で降りて駄菓子を買い帷子川の脇でそれを食べてから帰宅したりもしたものだ。当時のこの川は例の染物工場からの排水で汚染がひどく、関東でワースト3に選ばれたほどの汚れっぷりだったが、田舎な瀬谷区住みのおいらには、そういう汚れた、ゴミゴミした感じが嫌いではなかった。まぁ、夏は臭いがきつくて何分もいられなかったが、瀬谷にはない都会な空気にはどこか惹かれる部分があった。
そんな帷子川だったのに、浄化が進んだ今は夏にアユが泳いでいたりする。当然、かつての汚れ荒んだ保土ヶ谷区の印象は、過去のものになっていると言っていい。

和田町の北側には国道16号線が走っている。前回訪れた高座渋谷もそうだったが、拡張され整備が終わった新しいこの道の脇が、平成以降は新店開店のメッカになっている。もちろん、ラーメン屋も次々にやってきて、今はここも激戦区と称されるようになった。
ここから北側の山を上った先に横浜国大のキャンパスがあるので、駅と国道16号をつなぐ短い商店街が、いわゆる学生街的な雰囲気になっていたことも懐かしい。今は、横浜駅から出る市営バスに乗り山を上っていくのがメインルートらしく、一昨年からは相鉄がJRへの乗り入れを果たして「羽沢横浜国大前」なんて駅もできてしまったこともあり、和田町周りで大学へいく、というルートはかなり廃れていると聞いた。

●終わりゆく街●
そういうわけで、特にこの和田町と隣の上星川は、取り残された場所的になりつつある。JR乗り入れの為のバイパス線は保土ヶ谷区の外れである西谷から分岐し、武蔵小杉へ向かっていくのだが、将来はここが東横線への乗り入れ口にもなる(信じられないだろうが、東横、JRと更にバイパス線はVの字に分岐していくのだ。とにかく金と時間がかかっている)。なので、そちらを走る電車の本数が多くなればなるほど、横浜へ向かう本線の「盲腸化」が懸念されている。
今回、コロナの影響で減便をメインにしたダイヤ改正が実施されたのだが、沿線には衝撃が走った。朝「星川発横浜行き」各停が新設されたからだ。つまり、上星川と和田町の切り捨てが始まった?というわけだ。昭和の頃なら相鉄の売り上げを支える大票田の一つだったはずなのに、今や見る影もないほど乗客数は伸び悩んでいる、ということらしい。

相鉄線のすぐ南を通る「水道道(すいどうみち、と読む)」の脇には商店がずらりと並んでいたものだが、今はそんな古びた昭和の建物もシャッターが降り、もしくはマンションに建てかえられて、あの独特だった街の味が失われていて悲しい。和田町は帷子川沿いの猫の額のような平地のみが開発可能で、北も南も山が始まれば建物を建てられない急傾斜地になってしまう。あの閉塞感こそ、坂の街でもある横浜のイメージそのものなのだが、その特殊な立地ゆえに孤島化が始まっているとは皮肉なものだ。

●どんとこい家●
そんな和田町だが、国道16号線沿いのラーメン屋たちは元気だ。コロナで閉店に追い込まれた店もなかったようで、雨が降る中でも客の入りは上々だと見えた。
実はこの界隈、相鉄沿線では珍しい二郎系の店が1つあって、コロナ以前にはよくそこへ立ち寄ったものなのだが、残念ながら18時オープンで昼の営業がない。その為、開店時からのお気に入りである「八家」を目指してみた。が、空いているので焦る必要もない、と少し足を延ばしてその先も偵察をしてみた。「どんとこい家」を覗くと、1つ席が空いているのが見えたので、ここへ滑り込むことにした。

朝4時に開店、15時で終わり、という変則的な営業時間の上、人気店でもある為になかなか食べることができない、おいら的な「幻の店」であるどんとこい家は、カウンターのみの5席という小さな店舗だ。今日はたまたま野郎が1人ずつ、アベックが1組、と左右に分かれて客が座る形になっていたので、その間の席が空いていた、らしい。
着席し、当然ルーティンのチャーシュー麺並を注文する。ここも900円で、たまたまかもしれないが、2店続けて良心的な料金設定の店にあたった、と感じた。ここは前金制の上、店主が一人で切り盛りしている関係上、お釣りが出ない形で会計することが肝要かもしれない。

チャーシューは注文を受けてブロックから切り出すスタイルだが細切りで、珍しいなと思って口に運ぶと理由がわかった。燻製されているのだ。チップの香りがアクセントになり、立ち込める豚骨スープの匂いに重なると俄然食欲が刺激される。
麺はストレートな平打ちなのだが、太いタイプなので普通を頼んでもコシがすごい。だが、これくらい硬派じゃないと、濃厚なスープに負けてしまうということで、まさに「どんとこい」な野郎向けの家系ハードコアラーメンだと言っていい。
逆に醤油タレは尖り過ぎず、暴れる豚骨スープを手なずけているという印象だ。このバランスが高評価を呼ぶ理由なのだと感じる(食べログでは堂々の評価3.55だ)。荒っぽいだけではない、ということらしいw
海苔も固めで、ここもライスと一緒に食う「家系スタイル」を推している店でもあるのだな、なるほどと思った。
背脂がたっぷり浮いており、これが煮過ぎていないほうれん草によく合っている。しかし、並でこのボリュームだとライスまでは食えないよ、さーせんw

で、家に帰って食べログを書こうとしたら、このレベルでも以前より豚骨が薄くなっていると書いている猛者がいてびっくりした。その当時は、骨片も混じって出てきていたのかもしれない。

●保土ヶ谷区よ永遠なれ●
それにしても、ここは思わず食べ歩きを始めてしまいたくなる魅力店が多くて困る。
ラーメンだけではなく、洋食もうまい店があちこちにあって、上星川のグリル小竹の「今日は何を食えばいいんだ?」で迷うあの感じは、おいら的な「保土ヶ谷区で食うならここ」な店だ。


グリル小竹
https://tabelog.com/kanagawa/A1401/A140302/14004083/


とにかくハヤシライスがたまらなく旨い。ホテルのレストランでも滅多に注文しないほど「ハヤシ意識が低い」おいらだが、ここでなら最初の選択テーブルにまず置きたい一品だ。
生姜焼きもうまくてほんとに困る。高校時代にこの味を知ってしまい、たった一つの幸せの為に、妥協ができない舌になって今に至っている。ああ、また食いたいw

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