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シェイクスピアのとなりで海を眺める 《デンマークの劇場》

デンマークには、シェイクスピア好きにはたまらない場所がある。戯曲『ハムレット』の舞台となった城「クロンボー城」だ。

首都コペンハーゲンから1時間弱。クロンボー城は、ハムレットが住むエルシノア城のモデルだ。とはいっても、シェイクスピアはこの城に来たことはないみたいだけれど……


「誰の言葉にも耳を傾けよ。
 口は誰のためにも開くな。」

 シェイクスピア『ハムレット』

クロンボー城の存在もあり、コペンハーゲンはシェイクスピアに馴染み深い都市のひとつなんだろう……ということに思い至ったのは、実は、デンマークの劇場「王立プレイハウス」の入り口をくぐった瞬間だった。突然に、シェイクスピアの存在を感じた。
 

 
  <目次>
・コペンハーゲンの王立劇場
・コペンハーゲンの街
・〈おまけ〉デンマークの演劇

 

コペンハーゲンの王立劇場

川辺にある「デンマーク王立プレイハウス」。コンサートホールでもなくバレエホールでもなく、演劇を上演するための劇場だ。時々ダンスも上演されている。

プレイハウスの建物はガラス張りで近代的。
建設は2008年とまだ新しい。

入り口を入ると一階はカフェロビー。
そこに、舞台の衣装が展示されていた。

シェイクスピア『リア王』の衣装だ。

衣装の回りを仕切ったりせず、カフェの中にぽんと飾られている。間近まで顔を近づけ、縫製のこまかなところまでしっかりと見る。「あ、シェイクスピアが近いな」と思った。

壁際には大きなパネルが並んでいる。
デンマークの俳優たちだ。

調べたら、どの人も舞台や映像で活躍する俳優たちだった。かっこいい……

劇場の反対側は、すぐに水辺まで降りられるようになっている。日差しは暑いけれど、恋人や家族がのんびりサンドイッチをつまみ、中には水着姿で日焼けをしている人たちまでいた。劇場が、そしてシェイクスピアが、すぐ傍にある場所で。

この川の先は、すぐ海だ。

ハムレットは義父に追い出され、この海に出て行く。近隣諸国の争いを目にし、「くだらない土地争いのために命を捨てるのは名誉ではない」と、「じゃあ自分は父と母の復讐を果たすのが名誉だ」と自分に言い聞かせる。


「父が殺され、母が辱めを受け
 理性と血を鼓舞する充分な動機がある。
 それなのに俺は、
 それらの一切を眠らせているのか?
 それは、恥ずかしいことだ。

 ここでは2万人の兵士たちが
 死を賭して、つまらぬ名誉のために
 寝床に入るように墓場へ行く。 
 死体を埋める広さもない
 わずかな土地のために。

 ……ああ、これからは残虐になろう。
 でなければ何の価値もない。」

 シェイクスピア『ハムレット』

残虐になったハムレットは復讐という目的のために一直線。恋人の死も、その兄との友情も、部下への心掛けもなくしていく……ただひとり、友人のホレイショーのことだけは彼なりに大事にしていたようだけれど。

       *

「王立プレイハウス」の他に、コペンハーゲンには3つの「王立劇場」がある。"国立"でなく"王立"なのは、デンマークがデンマーク王国の都市のひとつだからだ。自治権を持つグリーンランドとフェロー諸島をあわせて、3地域で『デンマーク王国』となっている。

もうひとつの王立劇場は、王立プレイハウスの川向かいにある「オペラハウス」。2004年にできたバレエ、オペラ用の劇場だ。

 

3つ目はすこし離れた場所、コペンハーゲンの街中にある。石造りの「王立劇場」だ。

デンマーク最古の劇場で、こけら落としは1874年。石造りの建物はどっしりとしていて、観客席は約1,500席。オペラやクラシック音楽、デンマーク王立バレエ団などの上演が行なわれている。

ちなみにこの「王立劇場」に対して、最初に紹介した「プレイハウス」は「新王立劇場」となる。

3つの王立劇場のWEBサイト

王立以外も含めると、コペンハーゲンには2000年以降に劇場がいくつかできている。独自の歴史が深いとは言いづらいデンマーク演劇だけれど(※後述)、着実に少しずつ、今、踏み重ねているように感じた。

 
 

デザイン、環境、アンデルセン………コペンハーゲンの街

デンマークといえばアンデルセンが有名だ。海辺でも、人魚姫がお出迎えしてくれる。

港町・ニューハウンは、人気の観光地。小ぶりでカラフルな建物が並び、明るいうちからたくさんの人がビールを手に楽しそうだ。

アンデルセンもニューハウンを愛したそうだ。海の方向を向いて人魚と、蛸がいた。

兵隊さんも。アンデルセンの童話に出てきそうな兵隊さん。

海から少し離れると、緑が多い。街のいろんなところには公園がある。ビルがなくて自然が多いので、時代をとんで昔の映画を見ている思いに浸る。それこそ、童話の世界に迷い込んだみたいに。

奥に見えるのは、図書館。

街の中心に近づくにつれ、少しずつ賑わってくる。ただ、人はたくさんいるけれど、どこも広いので、混雑な印象はない。そしてどこに行っても、お花が綺麗。

音楽が聞こえてくる……と思ったらアコーディオンを弾くおじさん。

砂で犬を作っている男性。絵描きさんなどもぽつぽつと道にいる。

街中の広場にある噴水では、子どもたちがびしょ濡れになって遊んでいる。

また、コペンハーゲンの街中は、デザインが凝ったものが多い。そのつど立ち止まって見つめてしまう。

ジュース屋さんはオレンジの形。大きな男性が2人でフレッシュジュースを作っていた。

大通りから少しはずれると、雑貨屋さんがならぶ。食器、アクセサリー、本、おもちゃ……。どのお店もショウウィンドウが額縁になったような、お洒落。穏やかで美しく、見るものがなんでも可愛い街だ。

人気のスーパーIrma。

Irmaの商品にはすべて女の子のロゴが入っているオリジナル商品ばかりで、お土産にも可愛い。

北欧といえばサーモン。
ちなみに、物価は日本よりちょっと高い。

甘いもの。オーガニックチョコドリンク。

川からは少し、潮のにおいがしていた。
穏やかで、気持ちのいい街だ。

 
デンマークは環境先進国でもある。電力の40%は風力発電。「王立劇場」から続く海には、大きな大きなプロペラが怪獣の尾ひれのように、沖の方までずるっと伸びている。

これがたぶん風力発電のプロペラ。写真では縦に重なっているけれど、一つひとつの間はかなり距離がありそうだ。海の中で、ものすごく存在感のあるプロペラの列だった。

 

デンマークをはじめ北欧は、環境や教育や福祉が充実している。世界的にみて、市民の生活満足度は高いとも言われている。2014年の「国連世界幸福度報告」では1位だったそうだ。
実情はわからないけれど、とても清潔で美しい街だった。

       *

ちなみに『ハムレット』の舞台となったクロンボー城には、結局行っていない。予定したいた日の朝はやる気満々で早起きしたけれど、一緒にいた友だちに悲しいことがあったのだ。シェイクスピアには悪いけど、友だちの方が大事。なんだかんだホレイショーを信頼し助けられていたハムレットなら、友人の大切さはわかるだろうけど。


「人間とは何だ?
 寝て食うだけが取り柄なら、
 獣と同じその一生。」

  シェイクスピア『ハムレット』

でもちょっとだけ、遠くからは見えた。
ハムレットにはいつでも会えるからね。
またゆっくり来ます。

 

 

〈おまけ〉デンマークの演劇

デンマークの演劇の歴史において重要な人物が、ルズヴィ・ホルベアだ。1684年ノルウェーで生まれ、デンマークで育った。(当時は同じ君主が治めていた)。

長い間、北欧の演劇はフランスやドイツの真似ばかりだった。しかし1722年にデンマークのコペンハーゲンに国民劇場(今の王立劇場)が開設され、大きく変わる。当時そこで作品を発表したのがホルベアだ。“北欧のモリエール”と言われ、たくさんの喜劇戯曲を書いた。だがホルベアの風刺劇は、財政難と大火事による貧困に反していた。ホルベアは10年経たないうちに喜劇をやめ、哲学や歴史の著作を書くことに専念する。その彼はいまや、近代のデンマークとノルウェーの文学の創設者とも考えられている。

1800年代前半は、デンマーク演劇の黄金時代となった。エーレンシュレーガー、ハイベアらロマン主義作家や、ハイベア夫人などの名優がヨーロッパでも質の高い演劇を創っていく。この頃、若きイプセンはハイベア夫人の舞台に影響を受けたそうだ。そしてノルウェーではイプセンやストリンドベリが新しい演劇の演出を生み出し、時代を築いた。

1900年代前半、世界は暗澹たる空気に蝕まれていく。戦争の間、多くの北欧劇作家が活躍したが、みな明確に反ナチスだった。彼らの作品は演劇の歴史においてイプセンやストリンドベリほど名を刻まない。演劇は、時代に寄り添い、終戦とともに過去のものになっていったと言えるのかもしれない。

1900年代後半になると、デンマークはじめ北欧は福祉・環境・教育が世界の高水準となった。演劇もそれら時代に寄り添った。国立劇団が地方を巡回し、さまざまな場所には劇場ができた。工場、刑務所、学校などでも演劇が上演され、それが当たり前となった。

少しずつ、時代は動き、演劇も移り変わっていく。

最近のデンマークといえば、王子がモデルとして生計を立てることが話題になったことが記憶に新しい。祖母でありデンマーク王女のマルグレーテ2世は芸術を愛し、本の挿絵を描いたり、舞台衣装のデザインなども手がけているそうだ。

王家が芸術を大切にしていることは国民にとって良い影響があるだろうな……と思いたいけれど、日本をかえりみると、どうなんだろう……


「習慣という怪物は、
 どのような悪事にも
 たちまち人を無感覚にさせてしまう」

 シェイクスピア『ハムレット』

芸術は必要だと言い続けたい。そして言い続けることが習慣になった時には、無感覚にならないようにしたいなぁ。
 

 

 
       デンマークの旅、おわり。

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お読みくださりありがとうございます☺️
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河野 桃子

ライター。演劇、海外、報道、経営、IT、SDGsなど。高知出身。大学では演劇・制作専攻→海外→マスコミ(報道)→車生活→専門誌編集→フリー。マンガ/映画/写真/ソーシャルデザイン/(株)人狼。momo.com0120@gmail.com Twitter:momo_com

海外/旅

これまで30ヵ国くらいを旅したこと(日本ふくむ)
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コメント2件

綺麗な街並みですね!
街の写真からも、人々がアートを大切にしている様子が見えてきます。
日本も、アートを大切にする人がもっと増えたら良いのになあ、と思いました。
>すずきみなとさん
ありがとうございます!都会すぎず落ち着きがあって、とても居心地のいい街でした。ほんとうに、アートを大切に思う人たちが増えると、日々が豊かになるだろうになぁと思います^^
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