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『落研ファイブっ』(52)「湘南の風 海辺の朝」

〔多〕「Morning! 実に気持ちいい朝だなー」
〔加〕「えーっ、すごい広いっ。パンダマジでここでサッカーやんの」
〔餌〕「お早うございます」
 カラスの集会のごとくはしゃぎまくるエロカナ軍団を引率いんそつして集合場所にたどり着いた餌は、ぐったりと座り込んでいる。

〔多〕「君たちが練習試合の見学に来たはん君のお友達だね。マナーを守って我ら『落研ファイブっ』を応援してね」
〔加〕「ゴー様は。ゴー様見に来たんだけど」
〔多〕「政木まさき君は電車内で缶詰状態らしいから後で来るよ」

〔長〕「下野しもつけ君も横須賀線よこすかせんで巻き込まれ中だよね」
〔服〕「僕らとパンダ君だけじゃ間が持たないよ」
 青柳あおやぎの父親の車で会場入りしたプロレス同好会三名は、気まずそうにエロカナ軍団を見た。

※※※

〔多〕「飛島君今日は放送部枠なんだって」
 機材のチェックをする青柳あおやぎの元へ急ぐ飛島に、多良橋たらはしが声を掛けた。

〔青〕「飛島君は今日は貸しませんよ」
〔服〕「飛島君が来たって事は電車が動き出したって事」
〔飛〕「いえ、母が車で。先生、母が急に部活見学をしたいと言い出しまして」
〔多〕「俺は良いよ。お母さんは場所分かるの」
〔飛〕「もうすぐ来ると思います」
 『お母さん』の一言に急に良い子ちゃんを装い始めたエロカナ軍団を餌が冷ややかにあざ笑っていると、明らかに上品そうなセミロングヘアの女性が白レースの日傘ひがさを差してやって来た。

〔飛母〕「息子がいつもお世話になっております。まさかこの子が運動をして、お友達の話をするようになるなんて」
 飛島の母はほっそりとした指先で目元をぬぐう。

〔青〕「そう言う事ならカメラは僕一人で回すから、試合に出たら」
〔飛〕「いえ、今日は放送部員として来ましたから」
 飛島は照れくさそうにうつむいていると、絵にかいたような深窓しんおうの奥方とは対照的な一団が、けもののような騒がしさでやってきた。

〔熊〕「おーい皆のしゅう。元気にやっとるか」
〔青〕「熊五郎さんお久しぶりです。DVDありがとうございましたっ」
〔餌〕「皆さんがかの『奥座敷おくざしきオールドベアーズ』で」
〔熊〕「おうよ、おうよ。八五郎はちごろうには会ったよな。他は今日が初顔合わせだあね」
 
〔熊〕「こっちの豆タンクが火消しの喜六きろく。ポジションは左右アラ両方。真ん中のアンコ型がトラック野郎の権助ごんすけ。ゴレイロだ。そしてムキムキ細マッチョのつるつる野郎が命知らずの清八せいはち。フィクソとピヴォの二面型。高所レスキューのエキスパートよ」
 練習場完成の立役者である芋名人いもめいじんの八五郎の隣で、タイプの違う三人の老人が眼光鋭く腕組みをした。

〔熊〕「そして俺が不動のキャプテン。全ポジション兼任けんにんの大工の熊五郎だ」
 すげーっジジイカッケーとエロカナ軍団が叫ぶと、瀬谷せや五闘将ごとうしょう(自称)こと奥座敷おくざしきオールドベアーズの面々は満足そうにうなずいた。
 その後ろにはいつの間にか影のように、応援部の樫村かしむらと|部員二人が学ラン姿でつき従っている。

〔餌〕「僕らの初戦相手は柿生川小かきおかわしょうOB会」
〔熊〕「そうだな。今日は総当たりで三試合。君らと柿生川小かきおかわしょうOB会は初心者チームだから、今日は二ピリオドの変則試合の予定だ」
〔多〕「前半十二分に三分休憩で後半十二分ですね」
 やりたきゃフルでやってみるかとの熊五郎の問いに、多良橋は苦笑いで答えた。

〔下〕「遅れまっしたあ済みませんっ。横須賀よこすか線が鎌倉かまくら手前で缶詰っすよ。あとちょっと動いてくれたらどうにかなったのに」
〔多〕「お疲れ。政木まさき岐部きべ三元さんげんももうすぐ着くらしい」
 と多良橋が言った側から三人が顔を出す。

〔シ〕「東海道線止まってた」
〔三〕「何あの日光女子軍団にっこうじょしぐんだん
 生仏像にエロカナ軍団がキャーっと黄色い声をあげる中、問題の『生霊いきりょう/お百度参ひゃくどまいり』『六条ろくじょうしをん』こと藤崎しほりは無表情でシャモを見つめていた。



〔熊〕「でっちゃん。こっちこっち」
 残り二チームを待つ間に合同で準備体操とパス練習を行っている所に現れたのは、やたらとガタイの良い男女グループである。

〔本〕「『でかでかちゃん』の本郷鷲ほんごうしゅうです。よろしくお願いいたします」
 関脇せきわけ風の男性が、見た目に反した低姿勢で礼をした。

〔八〕「こいつら弱そうに見えて曲者くせものなんだよな」
〔シ〕「どう見てもジョークのような名前なのに強いんですか」
 小声でシャモに耳打ちをした八五郎はちごろうに、思わずシャモはぎょっとして聞き返した。

〔八〕「『仙台はとこ船』のファンが意気投合いきとうごうして作った即席チームのはずだったんだが。腹回りがデカすぎて相手チームがふところに入れねえから、ボールポセッション率が異様に高いんだわ」

〔清〕「そのうち男も女も敏捷性びんしょうせいのある力士サイズ揃いになって、あれよあれよと言う間に中堅チームになりよった」
 『仙台はとこ船』ってそもそも何だよと思いつつ、シャモはだまってうなずいた。

〔喜〕「デュエルだってあいつらの方が圧倒的に体格が良いから、普通にぶつかっただけでも吹っ飛ばされるしな」
〔仏〕「三元さんげん聞いてるか。お前の活路が見つかったぞ」
 仏像が三元さんげんを目で探すと、三元はちゃっかりエロカナ軍団の中に収まっていた。

※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※2023/11/23 改題および一部改稿


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