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旅芝居・その先にあるもの

ちょいちょい連絡をしてくる〝自称・大衆演劇通〟(つまりは熱烈な古参ファン)のおっさんからLineが来た。
「喧嘩屋五郎兵衛はなんでキレたのだと思う?」
以前この記事に書いた芝居の主人公についてである。
簡単に言うと顔に大きな傷のあるヤクザの親分だ。
何々小町と評判のお嬢さんに惚れられる。
嘘。間違い。お嬢さんの勘違い人違い。
でも親分は祝言だと喜び親分衆に連絡する。
で、でも、間違いと知り激高、からの、悲劇的な結末、
っていう、どうしようもないしツッコミどころも多すぎる話について。
そんな旅芝居では猫も杓子もかけるスタンダード芝居について。
 
なんすかそれ。なんかの試験ですか。
この人は初めて会った時もまず言ってきた。
「君が女形で一番素晴らしいと思う役者は誰だね」
初対面なのに。そもそも私「一番」とかいう言い方は好かないのに。
とか色々肚の中で思いながらも「若葉しげるさんです(※80overレジェンド女形役者)(この人)」と真剣に答えたら「うーん」とか言われた。
思っている答えと違っていたらしい。
自分の好きな役者について語りたかっただけみたい。ごめんやで。
 
まあそれはともかく、今回も(も!)真剣にお答えした。
「若さとコンプレックスかと思います。(だから)役者って五郎兵衛が好きですよね」
やはり返事はなかった。
 
ちょっと補足をすると、
私が答えた「若さ」というのは年齢的な若さという意味ではない。
誰の心の中にもある〝幼さ〟のようなもの……。
自分の理性では制御できない感情じゃないかな、っていつも思っていて。
同時に、だから、旅役者たちはこんなに五郎兵衛を好むんじゃないかな、
彼らの中では無意識的にも、って、考えたりもしている。
 
彼らが愛し、猫も杓子もレベルで演じる五郎兵衛も石松も、
旅芝居の舞台で観ると、私には超・自己陶酔に見えて仕方がない。
目をひんむいたり、血糊で血まみれな石松を観ると、「あー。気持ちいいねやろなー」と思う。
激高の果てに悲劇的な結末を迎えるその盛り上がりと最後を演じる役者を観るにつけて。
で、また客席がそれを「きゃー」って言うたりするんやもんなあ。泣いたりなあ。「血糊最高♡」とかなあ。
あ、皆大好き某金髪サイコパス風ピカレスク芝居もですね。
 
コンプレックス、からの陶酔。コンプレックス、だからこその陶酔。
以前「旅芝居と長渕剛」でも似たようなことを書いた。
仏教に「威張るも僻むも自己へのこだわり」(だったかな)という言葉があると教えてくれたのは芸論や大阪学の権威のひとりである相羽秋夫先生だったが、やはり、そんなんなのじゃないかなぁ。
 
その奥の奥の奥にあるのは、きっと、「旅役者なんて」っていう古来よりの偏見の目、DNAに刻み込まれたそれも大きいのではないか。
概念として、いや、もう血に刻み込まれてきたそれ。
 
で、かの業界の役者たちは多かれ少なかれ「舐めんなよ?」のアナーキーさと根元からのパンキッシュさを持ち合わせているような人が少なくない。
そしてそれは、だから、悪い意味ではなく(悪い意味もないとは言わないけれど)いい意味での反骨魂や、古くからこの業界を評するに使われる「熱と汗の舞台」として今日、今の舞台にあらわれる。
 
ド派手な舞台をしたがるのも、私服が変なことが多いのも、ええ車を持ちたがるのも、モテたがるのも、モテたらすぐに手を出そうとするのも。
(すべて極論と私見ですよ。ですが! ね!)
ド派手なレーザービーム多用照明だとかド派手な舞台セットを誇るのも、
そしてそして、
本来ならば(昔々の掛け小屋時代の投げ銭はさておき)楽屋見舞いというかたちでやりとりされていたものが80年代くらいから、うん、そう、「恋はあーやしい夢芝居」くらいから、舞台上での目に見えるカタチでのお花(ご祝儀)というかたちになっていること、が、今に続くことも。
 
すべて、すべては。いい意味も悪い意味も。ええとこもわるいとこも、大きくもちいさくも。
 
そんな忠太郎たちを、だから、客席は、放っておけないのじゃないか、とも思ったりする。
客席の、一見からすると、異様とも思えるであろう、あの客の入れ込みようや熱、疑似恋愛を含む、まあ、いろんないろんな愛の姿ったら!
 
近年の私は、
旅芝居やその世界のことを考えていて、
許せないことやものばかりだと常々思っているのだが、
なのになぜか私もまだその客席に居る。
観ていて時に吐き気、嫌悪感、それをごまかす酒がセットとなっているにもかかわらずだ。
 
半分は、意地や、敵討ちの如く見届ける的な気持ちもある。
関わり続けることで言える言わなくてはならないこともある。
本当に本当はなにより一番に芝居(物語)が好きだ、芝居で満足したい。
「芝居としての舞踊(曲を大事に物語を表現できている舞踊)」でゾクゾクしたい。ちゃんと。
でもそれがなかなかピタッとくることはない、ほぼほとんどない、生意気なのは自覚している。ごめん。
 
でも。そうであってそうじゃなくて。それだけじゃなくて。
 
先に書いた自己陶酔とコンプレックスがプラスに作用するもの(熱と力の舞台)と、プラスとは言えない方向へ作用するもの。(いつも人間臭い、人間らしい、というフワッとしたいい言い方で言ったり書いたりしているもの)
両の、どうしようもないけれど、どうしようもないそれらに、笑ったり、吐き気がしたり、でも、だから、じーんとしたり。

旅芝居の舞台には芸にはすべて滲み出る、出てしまうし、出ている。
つまりやっぱり大きな言い方をすると〝人間そのもの〟が出る、見る、見える、見ざるをえない。時に、見たくないものも含めて。 

やはり、「だから」なのだよなあ、と思う。
 
今月はじめ、いい芝居を観る事が出来た。
過去に関西の座長大会で演じられた芝居を、
関東の座長が気に入り、劇団でかけている芝居だ。
継がれてきた芝居じゃない。ある人が書いたオリジナル作品である。
旅芝居の台本を幾つも手掛けてきたその人は役者ではない。
でも役者同様、業界に深く深くかかわってきた人で、
私は彼にずっと興味を持ってきた。手がけた作品も幾つも観てきた。

滲んで見えた。いつもそうだが、今作にも、更に。

生意気にも劇場で一緒に観せていただいたからだろうか。
隣から気持ちや熱のようなものが触れはしないのに伝わってきたような気すら(勝手に)した。

美学を持ち、「そうありたい」と思って生きてこられた人(と、ずっと思っている)。
父に憧れ、父の背中を見、そして、憧れであり師匠と思う人の背中をみてきた人。
キザでも格好良くもなかっただろう頃から「そうなりたい自分」「格好良さ」を目指し、魑魅魍魎・百鬼夜行の如き人間な舞台世界で生き抜いてきたその人は、そうするうちに、ほんまに、格好良くキザになった人。
ある件から、私は生意気にも勝手にソウルメイトとも思ってきたのだが、
彼の美学や彼自身が(きっと)全部つまった芝居だと感じた。

さらにその後、私は彼が書いた大事な芝居を映像で観た。ちょっとマジ泣いた。なぜならやはり、滲んでいた気がしたから。いろんなことが。
 
真夜中のダンディー。本日、未熟者。BORN TO BE FREE。…夢桜。

皆、皆、やっぱ、〝忠太郎〟なんじゃないかな。おおきな意味で。
やっぱ、忠太郎は、皆、皆の中に居るんじゃないかな。
 
意地と張りとで筋を通し、
なんて意味なんてないかもしれない。
きっと全然理性的ではないだろうそれを、でも、やりたい、やりたいんじゃないか。
生きれば生きるほどに、誰が味方で誰が敵とか、誰が本当のことを言っているのかとかわかんなくなるのだもの。
それでも信じるもの・信じたいものを持ち、「自分」で居たいもの。
かっこよくありたい、あれかし己、なんだろう。なんだもの。
あまりに生きることそのもの、人間であることそのこと、だからこそ。
 
今日の舞台にひとりでも多くお客さんを入れないと「食べていけない」「生きていけない」、綺麗事じゃなく、生きることそのものそのことの世界で。だからこそ。
誠に以て弱肉強食、生きるには結果を出さねばならず、
でも、それは本当に原始的かつ「当たり前」とも言えることで、だから、苦しいことで、ちょっとは酔わないとやっていけもしないのかもしれないな、しれないね。酔っていてはいけないことも含め、それでも、それらは。それでも。

なんてね。
 
BORN TO BE FREE。
 

今回の話は次の話と、私的には、セット。
(だから2本まとめて書いた&続けてアップしました)

 

観せていただいた芝居は、これでした!
(出た謎の長文インスタ!笑)

*その先にあるもの、の話はこれです!


◆◆◆
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と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
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大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。


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秋。体も気持ちもしんどくなりがちやけど。皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。

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