「絶望」と言う名の「希望を抱く人」

YouTubeを本格的に見始めてから5、6年経つが、最近とてもハマってしまったチャンネルがある。

「絶望ライン工ch」というチャンネル名。
40代独身、非正規雇用の労働者、婚活中というパワーワードの塊のような投稿者だ。

「絶望」というだけあって、質素な暮らしぶりを投稿する「日常系」なのだが、その動画の節々にはそれほど「絶望」感はなく、そこはかとなく漂う上品さと質の高さが垣間見える謎のチャンネルでもある。

ただ、その投稿主の過去や背景を知ると、その「絶望」は浮彫となってくる。
そしてその過去や背景を隠しもしないし、動画内で流れているBGMは全て自作の音楽でもあるのだ。

長く作曲家として活動していたが、次第に印税が入らなくなり、それでも好きな事を続けるために非正規労働者の道を選んだという背景を知ると、ご本人の「音楽への気持ち」がとても素直に受け取れる。

今でも動画内でご本人が語る「ぼんやりとした不安」というものは、誰もが抱いているだろう。
立場が違っても、それは常につきまとう。
余程の楽天家でない限り、規模の大小があれど、「ぼんやりとした不安」を抱えながら仕事をしたり、好きな事に打ち込んだり、酒を飲んだり、遊び歩いたりと解決方法は違っても常に「ぼんやりとした不安」から逃げる「逃亡者」である人は多いと思う。

絶望さんが「ぼんやりとした不安」を抱きながら、サラリーマンになるという選択をした事を嘘つきよばわりしたり、口汚く罵るコメントもあったようだ。
(今は肯定的なコメントが上位に表示されるので、目にする事はほとんどない)

そういう人の事も、自分も同じタイプの人間だから痛いほど気持ちがわかる、と言える素直さも、絶望ファンが増え続ける理由かもしれない。

あとは、このチャンネルについて語る人もおすすめによく出て来る。
たいていの人は好意的だし、絶望さんのクリエイティブなセンスを絶賛しているのだが(その中には2年前の中田敦彦氏もいた)、たまに同じ非正規労働者を名乗る人が嫉妬心むき出しで煽り倒している動画にも出会ってしまう。
あまりにひどい内容に反論のコメントをしたくなるが、ご本人がそこは華麗に淡々と説明されているのに、一ファンが場外乱闘を起こすのも失礼かと思い、そっと動画を閉じた。

クリエイティブな仕事というのは、浮き沈みが激しい。
どんなにいい作品を発表しても、それが人の目に触れ、売れるようになるのには、タイミングや運はとても重要だと思う。
絶望さんはボカロPだったりDJだったり、ある一定の層には超有名だったとは思うが、界隈が違うと流れて来る事が難しい時代だったことが災いしたかもしれない。
そういう意味では、このチャンネルを見た人の中で、かつての活動を知っている人なら一瞬で「あ、この人!」と気付いたであろう。

ただ、「絶望ライン工ch」で流れるBGMや、周年記念の歌などは、私が好きな音楽だし、全体的に「優しい」と感じるメロディだ。
今まで知らなかったことを損したと思っている。

どれだけ生活が苦しくても、仕事をしない人もいる。
華やかな世界に身を置いていた人が、生活のためとはいえ、派遣工として働くのは、辛かっただろうし、その部分だけでも「絶望」したであろうと想像する。

初期の動画は撮って出しのような素朴感があったが、徐々に編集もBGMもナレーションも凝って来て、今のスタイルが確立している。
きっと、「仕事」に対する姿勢は、常に真剣できちんとする人なのだろうと感じるが、あくまでも動画投稿は趣味だとおっしゃるので、その部分は尊重したい。

インスタの過去の投稿で、10年以上前と思われる姿も拝見した。
長身ですらりとし、顔もイケメンなのだ。
このころはさぞかしモテたであろうと容易に想像がつく。

マッチングアプリの登録画像も動画にしていたが、ちょっと凄味のある外見になっていて、30代半ば~40代くらいの婚活女性が食いつくような写真ではなかったが、絶望さんの背景などを知ったら、どんな反応をするのか見てみたい気もする。

絶望ライン工CHの登録者は40万人を超える。
多分、みんな、「絶望ライン工」を応援したいとか、自己投影したりとか、一人じゃないんだと勇気をもらったりとか。
そういう点で集まって来た人達だろう。

それでも音楽に触れている時の絶望さんの「中の人」はキラキラとした笑顔で、とても輝いている。
いつか、音楽だけでも生きていけるようなそんなサクセスストーリーを見せて欲しいという欲求に駆られてしまう。
だから、もし「絶望ライン工ch」が、音楽労働のプロモーションだったとしても全く嫌な気持ちにはならないし、「派遣労働者」と「音楽家」の両輪のバランスを取るための投稿だったとしても、それはそれでありだと思える。

ひとつ前の投稿でも書いているが、才能のある人はどこかで開花するし、一旦下り坂になっても復活する人もいる。
私は絶望さんが本来の「職業」で復活することを信じている。

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