見出し画像

小さいときから考えてきたこと

           黒柳徹子

『小さいときから考えてきたこと』は、黒柳徹子さんのエッセイです。黒柳徹子さんは、言わずと知れた『窓ぎわのトットちゃん』の作者で、こちらも必読の名著ですが、私はこの『小さいときから考えてきたこと』のエッセイを通して、世界で現実に起こっている様々な問題を考えるきっかけを得たような気がしています。このエッセイは、黒柳さんが大人になってから、コソボやアフガニスタンなどの紛争地域や難民キャンプを訪れたときの体験を綴ったものです。その中から、コソボ共和国を訪れたときのお話を一つ紹介します。

いまコソボで何より大変なのは、地雷が、そこら中にある、ということ。これは、この国だけではなく、私が今までに行った内戦のある所には、必ずこの問題があった。

地雷はどこにあるかわからないので、たくさんの子供たちが被害に遭うそうです。だから、コソボの小学校でも、子供たちにまず地雷のことを教えます。

特に卑怯なのは、コーラやジュースの缶の地雷があることだった。子供が飲もうと思ってフタを開けると、爆発するようになっている。だから、先生は、子供たちにジュースの缶を見せて質問する。  
「これが畑にあったら、どうします?こんなものは、ふつう、畑にはありませんね」

すると、指された小さな女の子が先生に聞きます。

「なんのジュースですか?」      
「オレンジジュースです。どうしますか?」その子は少し考えてからいった。
「えーと…オレンジジュースだったら、そばに行って、ちょっと確かめてみます」 
見ていて私は胸が痛かった。その子はオレンジジュースが好きなのに違いない。今、コソボでは、オレンジジュースなんか、簡単に手に入らないから、オレンジジュースなら、そばに行って確かめてみる、と言っている。どうやって確かめるのだろう。結局、開けてみるしかないのだから。

地雷は、子供が好みそうなカラフルでキラキラした色に彩色され、蝶や鳥の形を模して、その幼い好奇心を煽ります。そして、爆発しても即死しないくらいのダメージにわざと加減されているそうです。なぜか?怪我人の手当てや看護のために時間や人員が割かれて、敵の戦闘能力を落とさせることを目的としているから…。なんという悲しい現実でしょうか。黒柳さんは、こう綴っています。

子どもを殺すことなんて、本当に簡単だと思う。疑わないのだから。ぬいぐるみに仕掛けた爆弾で、それを抱いた子供が死んだという話を聞いたとき、私は呆然とした。そんなことができるなんて。子供が、大好きな、ぬいぐるみを抱くことを知り尽くして、爆発物を仕掛ける人たち。これが民族的な憎しみというものだと知らされた。

私は、このエッセイを通して、大げさだけど「平和」について考えるきっかけを得ました。会ったこともない、話したこともない国の人たちの置かれた現実に関心を持つこと。そこで起こっている悲しい出来事を、自分の身に置き換えてみて、心を痛めること。それが、「平和」への第一歩なのかもしれない。そう思っています。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?