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『葬送のフリーレン』のバトル展開がイマイチなのはどうしてか?

最初に言っておく。異論は認める。が、私は『葬送のフリーレン』のバトル展開はイマイチだと思う。
つまり一級魔法使い選抜試験のことだが、初見のアニメシリーズではここで何ヵ月か見るのを中断したし、3周目に入った今もここで止まっている。以下、「どうしてこうなった?!」のか、いくつかの切り口からの私論。


魔法の描き方は難しい

身も蓋もない言い方になるが、結局はこれに尽きると思う。魔法の描き方は難しいのだ。「葬送のフリーレン」でも作者の苦心はうかがえて、

  • 複雑な術式だから、とか

  • 民間魔法だから、とか

  • 女神さまの聖典の力で、とか

  • 魔法の研究が進歩して、とか

色々な匂わせ方をしているのだが、読者側には
「この世界では魔法で何ができて、逆に何はできないのか」
を判別する境界線があいまいだ。
以前、下記エントリーで取り上げたが、剣と魔法のファンタジー世界に共通する「魔法とは何か?」が確立されてないために、ストーリー展開の中で

「え?そんなことまでできるの?」

という違和感を読者や視聴者に与えてしまっていると思う。

例えば、リヒターの大地を操る魔法は『BASTARD!! -暗黒の破壊神』に置き換えると「天地爆裂」並みの威力だと思うのだが、それをごく短い詠唱だけで簡単に使いこなしている!この違和感が見る者を作品への没入から現実に引き戻し、しらけさせてしまうのだ。

『葬送のフリーレン』アニメシリーズ第21話より
『BASTARD!!』コミック第4巻より

もちろん、これは作者やこの作品に限った話ではなく、和製ファンタジー作品すべてに付きまとう根本的問題だと思う。

マンガとアニメの表現の違い

次に考えられるのは、原作マンガをそのまま単純にアニメ化しすぎているのではないかだ。毎度おなじみ『SVAE THE CATの法則』(フィルムアート社)に「セリフでプロットを語ってはダメ」というアンチパターンが説明してある。

例を挙げてみよう。「僕の姉貴なんだから、もちろんわかるだろ!」とか、「もうあの頃とは違うんだ。俺がニューヨーク・ジャイアンツでフルバックのスターだった頃。あの事故が起きるまでは……」なんていう登場人物のセリフ。こんなセリフは……(はい、みんな一緒に)アウトだ!

ブレイク・スナイダー『SVAE THE CATの法則』(フィルムアート社)より

ファンなら心当たりがいくつもあると思うが、『葬送のフリーレン』の一級魔法使い選抜試験では、何人もの登場キャラが説明文のようなセリフを話すのだ。それも長々と。これはよくない、、、

忘れてならないのは、登場人物は君の召し使いじゃないってこと。あくまでも自立して生きている存在で、自分の目的があってシーンに登場し、自分の心の内を打ち明けるのだ。君に代わって説明をするためじゃない。

ブレイク・スナイダー『SVAE THE CATの法則』(フィルムアート社)より

私は原作マンガは読んでないが、おそらく紙媒体で作品を味わう場合にはキャラの会話スピードは脳内で自由に変換・高速化が可能なので違和感が少ないのだろう。
しかし、映像作品にこうした妙なセリフがあると視聴者は作品に没頭できないし、バトルのテンポも悪くなる。結果、「面白くない」になってしまうのではないだろうか。

こんなことは素人の私に指摘されずともアニメ制作関係者は重々認識している問題だと思うが、ではなぜアニメで表現の工夫をしなかったのだろうか?
そのヒントがWikipediaに書いある。

「週刊少年サンデー」担当編集の小倉はアニメ化に際し、「原作者の山田鐘人はセリフ一つ一つを丁寧に扱っているため、アニメ化に際してはセリフを尊重してほしい」という要望を出した。

Wikipedia 葬送のフリーレン より

ということだ。制作現場でどんな検討があったかわからないが、もっと臨機応変にキャラのセリフ改変や映像表現で代替するなどの工夫があってもよかったと個人的には思う。

それでも選抜試験編が必要だった理由

これまた以前のエントリーで触れたが、『葬送のフリーレン』は主要キャラクターがフリーレン、フェルン、シュタルクの3人(+過去シーンのヒンメル)しかいない。これでは少なすぎてストーリー展開がマンネリ化しやすい。それが作者の悩みだったのではないだろうか。

そこで、一級魔法使い選抜試験編でキャラクターを一気に増やした。これは連載マンガでよく使われる手法だと思うが、ストーリー展開の流れで登場キャラを増やし、読者の反響から人気になりそうキャラを見極め、それを主要キャラに加えていくやり方だ。
マンガ連載とアニメ放映は時期が大きくずれているため、連載誌サンデーで行われた第1回人気投票の結果を調べたところ、

デンケン、 ラント、 ユーベル、 メトーデ、 ヴィアベル

といったあたりが新キャラでは人気上位ランクに入っていたようだ。この中から選抜試験終了後に準主要キャラや主要キャラの仲間入りを果たしたキャラクターがいるのかもしれない。(が、私は原作マンガを読んでないので、その答えは知らないけど)

ともかく、作者が『葬送のフリーレン』のストーリー展開の多様化、連載の長期化を狙うために一級魔法使い選抜試験編で登場キャラを増やしたというのは、推測としてかなりいい線いってると思うがいかがだろうか。

そしてこの先、少年誌に連載されている宿命のように『葬送のフリーレン』にバトルマンガ的展開が再度訪れることもあるだろう。願わくは、次のバトルシーンをアニメ化する際には、キャラのセリフを少し工夫・改変することをアニメ制作サイドに許可してほしいと原作者サイドの度量の広さに期待するところである。

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