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アニメ作品にみるイノベーション事例

経済学者ジョセフ・シュンペーターは「イノベーションの父」として知られている。イノベーションの源泉は新しい知・アイディアにあるが、シュンペーターは「新しい知は常に既存の知別の既存の知新しい組み合わせで生まれる」としてこれを「新結合」と呼んだ。

この考え方に基づくと、これまで出あっていなかった要素同士を新結合させてイノベーションを起こすことで、人気を博したアニメ作品がいくつか思い当たる。


新結合の作品例

例えば、
「アイドル」×「ゾンビ」=ゾンビランドサガ

ホテル&リゾーズ佐賀唐津にて

「南極観測隊」×「女子高生」=宇宙よりも遠い場所

つつじが岡ふれあいセンターにて

そして、
「戦車」×「部活動」=ガールズ&パンツァー
である。

大洗磯前神社にて

アニメ『ガールズ&パンツァー』については以前ここでも取り上げたが、茨城県大洗町とのコラボはアニメ聖地一番の成功例とも呼ばれるほどで、最初のTVシリーズが放映された2012年から10年超が経過した現在でもその人気を維持し続けている。

この「ガルパン」の企画製作にまつわる逸話は様々な場所で語りつくされているとは思うが、「新結合」をイノベーションへ昇華させた事例として面白い内容だと感じるため少しだけ紹介したい。
(以下、『ガルパンの秘密』‎ 廣済堂出版を参考に記述する)

ガルパン誕生

話はアニメ制作会社アクタスの丸山氏がバンダイビジュアルの湯川氏へ企画を持ち込んだことからスタートする。キーワードは「美少女」「メカ」「アクション」だ。ここまでは過去のアニメ作品にもみられる組み合わせで新結合の要素はない。

「メカ」「アクション」が「戦車」へと具体化された後、作品の基本方針に「人が死なない話がよい」がすえられて、これをどう実現するかが課題になった。この段階で様々なアイディア出しが行われたと推測するが、それを詳細に語った情報は見当たらない。
この状況を打開するアイディアを出したのがバンダイビジュアルの湯川氏だった。

ある日、湯川(淳)さんがいきなり「すげーこと思いついた。華道、茶道、戦車道だよ。丸山さん!」・・・大爆笑ですよ。「言ってる意味が何一つわからない」みたいな(笑) でも「芸道にすればいいんだ」ということが1つの突破口になりました。

『ガルパンの秘密』‎ 廣済堂出版より

つまり、
「メカ」「アクション」→「戦車」
と作品の内容を規定する具体的な変換の後、さらに、
「戦車」+「部活動」と新結合させ、それを具体的に「戦車道」と設定することでイノベーションを生み出したのだ。
ちなみに戦車道とはガルパンの世界で「華道、茶道と並ぶ女性の嗜みの1つで、伝統的な武芸」とされている。それを部活動として実施しているのだ。

現実世界で戦車を使った部活動などあり得るはずもないが、こうしたトンデモな部活動というアイディアはガルパンを嚆矢とするのではないだろうか。
一度この発想法に気づいてしまえば、その後に似たようなトンデモ部活を考え出すのは容易だが、最初に思い付くまでには相当な苦労があったと思う。バンダイビジュアルのプロデューサー恐るべしといったところか。

劇場版『ガールズ&パンツァー』より
メガネは割れても大怪我しない。もちろん、人も死なない

ここでは新結合によるイノベーションで生み出された人気作品としてガルパンの例を取り上げたが、探せば他にもいろいろと見つかるだろう。作品の企画製作関係者がどのようなアイディアを練った結果として各作品が生み出されたのか、想像するのも楽しい作業だと思う。

みなさんも面白い事例に気づいたらぜひ紹介してほしい。


注:ガルパンの戦車道は厳密には選択必修科目として授業の一環で行われている。しかし、参加メンバー集めや放課後の練習、全国大会への出場など、内容が高校生の部活動そのものなので、イメージしやすさを優先してこう表現した。


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