リーダーに必要な唯一無二の資質
「イノベーションのジレンマ」で有名なクレイトン・クリステンセンが人生経験をもとに記した『イノベーション・オブ・ライフ』を読み直した。子育てをほぼ終えた親としての私自身の経験を踏まえて味わいなおすと「本当によい作品だなぁ」とあらためて感じたので、ここで紹介したい。
家庭内に文化を築く重要性
この本は経営学に登場するフレームワークや理論を参照しながら、「より良い人生を歩むにはどのように考えて、どのように行動すればよいか」を様々な視点から論じている。特に著者のクリステンセン自身の経験をもとに、個々人の人生のあり方よりも親が子供を導いていく立場での思考方法や行動基準にかなりの重点があるのが特徴だ。
その中に親の子供に対する心配事として、こんな状況が例示されている。
この状況への対応策は「家庭で何らかのルールがあればよいといった単純なものではない」と指摘した上で、子供が目の前の選択肢を正しく評価して、正しい結論を出すための優先順位や判断基準を前もって正しく設定しておく必要があり、それは多種多様な困難な状況に直面するはるか以前から準備が必要だと述べている。その準備が家庭内で文化を築くことだ。
「文化を築く」とは明文化されてないものも含めて、
何を正しいとして、何を間違っているとするか
何を大事にして、何を軽視するか
何を優先して、何を後回しにするか
などに関して、家庭内で統一認識がある状況を作り上げることと理解すればよいだろう。こうした家庭内の文化は意識的に築くこともできるが、知らず知らずのうちに生まれてしまう難しさもあると著者は指摘している。詳しくはこの作品を読んでいただきたい。
映画には人生の大切なものが詰まっている
『イノベーション・オブ・ライフ』を再読して振り返ったとき、私自身が家庭内文化を築くことを強く意識していたわけではないものの、結果的に文化に相当する価値観として重視したものがいくつかある。
1つは『論語』に登場する「直きこと其の中に在り」で、逸話としては次の内容だ。
我が家ではこうした考え方もあることを家庭内の会話で機会があるたびに何度も取り上げた。
そしてもう一つが「仲間を大切にする」ことで、それを示してくれる格好の素材が映画『ホビット』(特に第1作の「思いがけない冒険」)だった。
有名な作品であり内容は周知のとおりだが、ここにリーダーの典型というべきトーリン・オーケンシールドが登場する。ドワーフの一団を率いるトーリンは故郷を取り戻す旅の途中、魔法使いガンダルフの勧めでホビットのビルボを仲間に加える。
しかし、期待通りの働きをしそうにないビルボに対してトーリンの態度は冷たい。よそよそしい態度を取り続け、本当の仲間とは認めてないかのような様子を崩さない。
そんな旅路で一行は岩の巨人(ストーン・ジャイアント)同士の抗争に巻き込まれる。断崖から転落しそうになるビルボ!それを身を挺して救ったのがトーリンだった。これだ!!
自らも崖から転落死する危険を冒しながらも、ためらうことなくビルボを助ける行動を即座にとったトーリン。このシーンが訴えるメッセージは単純明快だ。リーダーは絶対に仲間を見捨てない。だからこそリーダーなのであり、そうしたリーダーだからこそ仲間がついてくる。そして、リーダーであり続けられる。リーダーに必要な資質としてこれに勝るものはないのだ。
我が家では映画『ホビット』をお気に入りで、3部作通しで何度見直したか数えきれない。そして、映画を振り返って感想を述べあうとき、繰り返し出てきた話題が「リーダーは絶対に仲間を見捨てない」である。
私は子供を将来のリーダーとして育てようと意識したわけではないが、リーダーについていく立場になった場合でも、この判断基準は役に立つだろう。映画には人生に大切なものが詰まっている。
これは小さな例かもしれないが、家族の貴重な思い出の1つであり、私の子供の奥底にしっかりとした価値観を刻んでくれたものと信じて疑わない。
みなさんのご家庭でも、よき文化が築かれることを願っている。
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