見出し画像

『葬送のフリーレン』フリーレンは「ぼっちちゃん」

ハリウッドでプロの脚本家として実績のあるブレイク・スナイダーに『SAVE THE CATの法則』という著書がある。
「ヒットする映画には構成に多くの共通点がある」
と映画の構成作りや脚本検討に役立つ様々なノウハウを伝授してくれる内容だ。
この本では、数多くの映画はどれもが10種類のジャンルのどこかに当てはまると主張している。

以前紹介したが、人気アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』のジャンルはその10種類のうちの「金の羊毛」である。(もちろん、映画とシリーズ物のアニメの違いは承知の上で)

「金の羊毛」に属する作品の特徴は、

  • 主人公は何かを求めて旅に出る

  • 最終的に発見するのは別のもの=「自分自身」というストーリー

  • 主人公が旅の途中で人々と出会い、いろいろな経験をする

  • その出会いや経験が主人公を成長させる

である。そう、つまり『葬送のフリーレン』も「金の羊毛」ジャンルの作品だ。となると、フリーレンはぼっちちゃんってことだ。

冗談めかして書いているが「フリーレンはぼっちちゃん」の含意はとても深い。『葬送のフリーレン』では仲間(特にヒンメル)との別離が大きなテーマになっている。

人は誰でも、そしてすべての生き物にとって、生きるということは死に一歩ずつ近づいていくことだ。多くの人が普段はそれほど意識していないが、今日一日が過ぎるのはそのまま残りの人生が一日短くなったことを意味する。
過去の時間は多くなり、残された未来の時間は少なくなる。あらがうことのできない力で誰もが未来に押し流されていき、そしていつかこの世を去る。それが宿命だ。

しかし、エルフは違う。周囲の人々が否応なく過去に押し流されていくのを見ながら、自分だけは留まり続けている。

「でもすぐ死んじゃうじゃん」

と語るフリーレンの諦念は彼女にしか理解できない。

『葬送のフリーレン』コミック第4巻より

エルフは種族の根本的特質ゆえに孤独だ。おそらく、フリーレンは師のフランメと過ごすなかでこの宿命を悟った。そしてフランメを失ったときに強く実感した。
エルフにとって何かを得ることは、いつかそれを失う宿命と不可分なのだ。

フランメとの別離から約1000年、フリーレンは周囲とのかかわりを避けて生きてきた。ヒンメルたちと「たった10年」一緒に旅をしても、彼らを真に理解することができなかった。いや、理解したくなかったのだ。いつか失う日が来るのを無意識に恐れるあまりに。

そんなフリーレンがフェルンを弟子とし、一緒に旅をしている。そして、いつかフェルンとも永遠の別れのときがくる。フリーレンはその宿命を受け入れる覚悟を決めたのだろうか?

『葬送のフリーレン』という物語が終わるとき、最後のシーンはその別れかもしれない。

この記事が参加している募集

アニメ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?