カミュ著・ペストに群衆の心理表現の真髄をみる。

カミュのペストを一気に読んだ。この本の特筆すべきは、群衆の心理を、1つの人格として的確に描ききっている点だと思う。

普通、こういった不特定多数の心理を表現しようとすると、真面目に書けば多角的な解説が必要なため表現が霧散してしまうし、もしくは大多数の考えを、さも全ての意見として一括りにして語ってしまう。これは、まさしく現代の報道の抱えるジレンマと一致する。

その点を、カミュの文体表現は、ただ1つの視点から見るでもなく、かといって、散漫にならない、的確な表現と客観性を持って記述されている。
これは、様々な立場、信念を持った登場人物達を登場させ語らせる事で、正解を作らないようにしているからではないかと思う。

ペストの世界には、完全無欠な「正しさ」がない。不条理が降りかかった時の対処はそれぞれ異なるが、どれに対しても正しさもなければ、間違いもない。それぞれ心の中の信念はあるが、何が正しくてや何が間違いはない。

過去と現在の考えが矛盾していようが、今の信念に沿って誠実に生きる事。

目指せるならば、目指したい私の境地だ。



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