水色のキラキラ

ざわついてる場所の方が集中できるタイプだ。よく、マクドナルドで勉強する。ブラックコーヒーのMサイズにミルクポーションをひとつつけてもらう。最寄からひとつ離れた駅のマクドナルドは、夜の時間帯は勉強熱心なサラリーマンや大学生が数名、テキストを開いて難しい顔をしているだけで、たいていは空いている。

でも、昨日は違った。

いつものように手でドアを開けると、奥の席からさわやかな水色の声が溢れてきた。地元の高校の制服に身を包んだ女の子たちがキャッキャと笑いあっていた。

アイスコーヒーのMサイズにミルクポーション。いつからわたしはコカコーラを飲まなくなったんだろう。席について教科書を開いて勉強を始めた。時折小さな笑いの爆発が起きる。

そういえば、わたしの通っていた高校の最寄駅にも、マクドナルドがあったな、と思い出す。確か三角チョコパイが出た時、部活の後にみんなで食べに行った。高校生でお金がなかったのでジュースもポテトも頼まず、三角チョコパイだけを食べた。
お金がない、なんてことは問題じゃなかった。そんなことはどうでもよかった。たった100円でみんなとの時間にチョコレートパイがついてきた。ジュースやポテトが「ない」のではなく、三角チョコパイが「ある」という感覚だった。

小さなテーブルを真ん中において、あれやこれやと話した。話題が尽きることなんてなくて、夢中で話し込んだ。理不尽な先生やいじわるな先輩の悪口、誰と誰が付き合った、誰のことが好き。

大人になった私たちは、そんなこと、アルコールドリンクがないと話せなくなっていた。話の内容も、ずん、と重みがある。浮気された、とか2番目の女になりかけている、とか、外国語の単位を落としそうだ、とか。

あの日のわたしは、高校生の時間は永遠に続くと思っていた。誰と誰は結婚するかもね、結婚式には呼んでくれるかなあ、なんてクスクス笑ったあの日々が。結婚なんてそんなの遠い遠い未来の話で、半分、夢物語みたいなものだった。でも実際は、そう遠くない将来、あの時話した「誰」は別の誰かと結婚するだろう。

そんな時間を過ごした高校の最寄駅の、あのマクドナルドは、17歳の秋に閉店した。マクドナルドと寂れた薬局と、河原と高校しかないような田舎だったから、経営が難しかったのかもしれない。閉店のお知らせの紙には11年間ありがとう、と書いてあった。11年も持ったんだね、やるじゃん、とみんなは口々に言った。最後の日は、高校生が長蛇の列を作っていた。

あのマクドナルドはもうない。あのマクドナルドには、もう一生行けないのだ。あの三角チョコパイはもう一生食べれないし、あの時間が戻ってくることも、ない。たった数年前のことなのに、遠い昔のような気もしてくる。

わたしはもう、17歳にはなれないのだ。

ガタガタと音を立てて女子高校生たちが立ち上がった。ありがとうございましたー、という店員に同じくらい大きな声でお礼を言い、自転車にまたがって走って行った。

彼女たちの周りには、水色のキラキラした何かがずっと光っていた。

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