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舞台『オデッサ』大阪公演 感想 いろんな表現で畳み掛けてくる新感覚の会話劇

2024年2月4日(日)、森ノ宮ピロティホールで舞台『オデッサ』を観てきました。
めっちゃめっちゃめっちゃ面白かった!!!

「言語」がテーマの舞台でしたが、セリフだけでなく声色、表情、仕草、音楽、照明などいろんな要素で言葉と会話をこうやって表現するんだ〜〜!!っていうのが本当に面白くて楽しかったです。
目の前で繰り広げられる会話劇の情報量の多さに置いてけぼりにされないために&全然見逃したくなくて、観劇中は意識を研ぎ澄ませて集中していたのが自分でも分かったし、脳内でグワーーーッと情報処理をしている感覚すら楽しめました。


公式サイトはこちら↓↓

公式サイトよりあらすじ一部引用↓↓

アメリカ、テキサス州オデッサ。
1999年、一人の日本人旅行客がある殺人事件の容疑で勾留される。
彼は一切英語を話すことが出来なかった。
捜査にあたった警察官は日系人だったが日本語が話せなかった。
語学留学中の日本人青年が通訳として派遣されて来る。 取り調べが始まった。
登場人物は三人。 言語は二つ。 真実は一つ。
密室で繰り広げられる男と女と通訳の会話バトル。

三谷幸喜が巧みに張りめぐらせる「言葉」の世界。
それは真実なのか、思惑なのか――――。
あなたはそのスピードについて来れるか。


ここから下は重大なネタバレがあります!!

私は今回ほぼ事前情報無しで観劇したのですが、何も知らない状態で観る面白さを存分に浴びることができて良かった〜!と思ったので、個人的にはこれから観劇予定の方はネタバレ踏まずになるべく情報入れずに観て頂きたいな…と思います。
大丈夫な方は下の目次からどうぞ!


◆新感覚の超多言語舞台

あらすじに「言語は二つ」とありましたが、実際に観劇してみると「とんでもない!これは超多言語舞台だ!!!」と思いました。

登場人物の三人は下記の通り。偶然か必然かその日に初めて集まった他人同士の会話劇が展開されていきます。
日本人青年=スティーブ日高(柿澤勇人さん)→通訳役
現地警察官=カチンスキー警部(宮澤エマさん)→日本語が分からない
日本人旅行客=児島カンタロウ(迫田孝也さん)→英語が分からない (役名の名前の漢字を忘れてしまいました…勘太郎だったかな?)


まず、閉店後のダイナーで待つスティーブの元にカチンスキー警部がやってくる。2人は実際は英語で会話をしているんですよ、という体で日本語で会話をしている(公演パンフレットの表現を借りると「翻訳劇風」)。
警部がすぐ戻るからと言って買い物に出かけている間に児島がやってきて、待っていたスティーブと対面する。児島が鹿児島弁を話すので2人は同郷であることが分かり、お互いに鹿児島弁で会話をすることになる。ここまでは普通の舞台。

ところがカチンスキー警部が戻ってきて舞台上に3人が揃ったところで警部の口から出てきたのは英語!児島は英語が分からない。
スティーブが警部の話す英語を日本語(鹿児島弁)に、児島の鹿児島弁を英語に通訳して取り調べが進んでいく。
警部とスティーブが英語を話すシーンでは背後のダイナーの壁のセットが前進してきて、そこに日本語字幕が映し出される。
そして児島が席を外してその場にいるのがスティーブと警部の2人だけになった時、会話は英語で話をしている体の日本語(翻訳劇風)になる…

なんだこの超多言語舞台!!

日本語が話せない役を日本語で演じるってどんな感じなのかな?と思っていたら、答えは「めちゃくちゃ流暢な英語+日本語字幕」でした。
日本語と英語と日本語(鹿児島弁)が飛び交って、英語のセリフにリアルタイムで日本語字幕が付く舞台なんて初めてで、どうやったらこんな構成にしようって発想になるんだろう??それを現実に芝居としてやってしまう役者さんも凄すぎる…と思いました。


◆異なる言語と意図的なすれ違い

取り調べはの基本的な流れは
警部の質問(英語・日本語字幕付き)→スティーブの通訳(鹿児島弁)→児島
児島の回答(鹿児島弁)→スティーブの通訳(英語・日本語字幕付き)→警部
の繰り返しで進められました。

しかしスティーブはただ通訳をするだけではなかった
英語が分からないせいで自分が置かれている状況がさっぱり分からない児島に対して、警部からの質問を通訳するのに付け加えて「顔色を変えずに聞いてください。あなたは今殺人事件の重要参考人として取り調べを受けています(鹿児島弁)」と説明。
すると児島はスティーブと最初に2人きりで話をした時は「警察に話を聞かれるなんて心当たりが全く無い」と言っていたのに、警部からの「あなたは被害者の死に何らかの責任はありますか?」の問いかけに対して「私がやりました、私を逮捕してください!(鹿児島弁)」と、急に罪を認める発言をし始める。

驚いたスティーブは、身に覚えのない罪を進んで被ろうとしている児島を思いとどまらせようと説得を試みるも児島は譲らない。
日本語の分からない警部に「何か余計なこと話してない?今のは自白じゃないの?通訳しなさい!」と詰め寄られたスティーブは観念して児島の自白を通訳する。

「私は、やってません!!!!(英語)」

こうしてスティーブはお互いの言っていることを意図的に正しく通訳しないことで児島が逮捕されないようにしつつ、カチンスキー警部から得た事件の目撃証言や被害者の所持品などの情報から、別にいるはずの真犯人を見つけ出そうとします。

その後も英語で一生懸命取り調べを続ける警部と、日本語で一生懸命「自分がやりました」と訴える児島の間で板挟みになって、大汗をかきながら頭をフル回転させて通訳…話をすり替えていくスティーブ。

児島は自らの罪を認める発言をスティーブが全然通訳してくれないのを感じ取り、犯行時の状況をジェスチャーでカチンスキー警部に伝えようとする。
児島「首を絞めて、地面に押し倒して、石を掴んで、殴りました!(鹿児島弁)」
スティーブ「蕎麦玉に、打ち粉を振って、延ばします!彼は日本では蕎麦打ちの仕事をしていたそうです!(英語)」
2人のジェスチャーはそっくりなのに、全っっっっ然意味が違う。
スティーブが苦し紛れに大胆に「嘘の通訳」をでっち上げて行くのが面白いのだけれど、本人は至って真剣なのがさらに面白さを加速させていました。目で訴えかけながらゴリ押ししてくる。

嘘をついているのにギリギリのところで破綻せずに絶妙に噛み合っている3人の様子を、言葉の意味を理解しながら俯瞰で見ている大勢の観客、という構図も面白かったです。
客席からは結構な頻度で笑いが起きていましたし、笑いの種類もクスクス…からアッハッハ!までありました。



◆言語のパワーに負けない魅力的な登場人物たち

仕事量が半端ないスティーブ(柿澤勇人さん)

警部は殺人事件の犯人を捕まえたい、児島は自ら逮捕されたいと言っている。だからもし2人の言葉が通じれば児島はめでたく逮捕となってWin-Winのはずだけれど、スティーブの必死の誤魔化しによって物凄い回り道をしている感じなんですよね。しかも誤魔化し方は無理矢理でもちゃんと理屈が通っていて頭の回転の速さがすごい。

スティーブが大真面目に大嘘をつく様子をいつかバレやしないかとハラハラしながら見守るのは、まるでスティーブが玉乗りしながらジャグリングして、火の輪くぐりをしたかと思えば綱渡りをし始めるのを見ているような感覚でした。
それくらい必死で焦っている様子が感じ取れたし、日本語と英語と鹿児島弁の切り替えの仕事量がすごかった。

スティーブ役の柿澤さんはさぞかし大変だったろうな…と思っていたら公演パンフレットに稽古が大変すぎて「毎日抜け殻のようになって」いたと書かれていて、そりゃそうだよな〜〜!!!と思いました。
日本語と英語と鹿児島弁を自在に操りながら、人懐っこくて他人のことを割とすぐに信頼しちゃうスティーブのピュアな人柄をしっかり魅せてくれた柿澤さん、本当に素晴らしかったです。

警部に「あなた、雨の日に捨てられた子犬のような目をするのね」と言われたシーンのスティーブは、「雨の日 捨てられた子犬 目」で検索したら真っ先に画像が出てくるくらい模範的な表情でした。ピュアすぎて逆に人の良心につけ込んでくる感じの曇りなきウルッウルの目。

ただ淡々と通訳をして児島を警察に引き渡しても良かったのに、さっきまで心当たりがないと言っていたのに一転、罪を進んで被ろうとする様子のおかしい男に「もうやめましょうよ児島さぁん〜〜」と親身になって声をかけて、彼が逮捕されてしまわないように必死になっているスティーブからは、彼のお人好しでお節介な性格と、「自分はなんとかこの場を切り抜けることができるんだ」という自信と、「やるしかない!」の意地を感じました。

キリッとしてるのにフワッとしてるチャーミングな警部(宮澤エマさん)

そんなスティーブに対して「あなたは何かを成し遂げたことがある?」「こっちだと5歳の子どもでも英語を話すわ」と言ってスティーブの自信をチクリと刺すカチンスキー警部もまた、人として、日系アメリカ人として、警察官としていろんな経験をしてきただろうことが察せられて全然嫌味に感じませんでした。

宮澤エマさん演じるカチンスキー警部からは何事にも誠実で一生懸命であろうとする人柄を感じて、それがとても好きでした。
事件の真犯人を見つけようと捜査に口を出すスティーブを咎めながらも対等に意見や考えを交換しているのを感じたし、「英語が分からないのにアメリカに来る旅行者は正直苦手」と言いつつ児島のこともぞんざいに扱わず、フラットな態度で取り調べを進めようとしていたように思います。

しかしカチンスキー警部、最初の印象は「やり手の刑事さん」だったのにだんだん詰めが甘かったり抜けている一面が出てきて、最終的には愛すべきおバカ感すら漂ってくるのが意外でした。
警部が「普段は遺失物係の所属だ」と皮肉っぽく言うので、もしかして女性だからとか、日系だからという理由で希望する部署に配属されなかったのだろうか…などと漠然と思っていたら、酒に酔って拳銃とパトカーを置いてきちゃった正真正銘のポンコツ警部でした。彼女が自分のかつての大やらかしを大声で叫ぶシーンはもう笑うしかなかった。

後半、スティーブとカチンスキー警部が一緒にエア蕎麦打ちをする例のシーンは、宮澤さんのニッコニコの笑顔がとってもとっても素敵で印象的で、犯行時の状況を再現中の児島(迫田さん)の鬼気迫る表情とのギャップが最高でした。

怪しい人なのに何故か親しみを感じてしまう児島さん(迫田孝也さん)

児島が最初にダイナーに入ってきた瞬間、え!ポスタービジュアルと違いすぎない!?と思いました。
キリリとミステリアスな雰囲気を醸す旅行者を想像していたら、無精髭でモジャモジャ髪の毛のくたびれた旅行者が出てたので……。身につけている服も「昨日まで2日間野宿してました」の説得力がすごくて、舞台作品であんなに真っ黒な白スニーカーを見たのは初めてでした。

最初にスティーブと話した時は「警察に話を聞かれて、訳もわからず…」と気弱な感じだったのに、突然「私がやりました!逮捕してください!」と言い出してからは彼の思惑が全然分からなくて、ある意味めちゃくちゃミステリアスでした。謎すぎるのに、様子がおかしいのに、迫田さんの演じる児島からはどこか放っては置けない愛嬌というか、妙に惹きつけられる人間味の魅力があったように思いました。

英語が分からない児島はスティーブの通訳を当てにするしかないので、警部の質問をスティーブがすり替えた嘘質問をしっかり間に受けて答えていくのがシュールでした。
私が一番好きだったのは、カチンスキー警部から「犯行現場付近で何をしていたのか?」と質問された際にスティーブが「景色を眺めて、それを詩にするんです!詩は児島の頭の中にしか無いから見せられない!」と誤魔化した後のシーン。
警部に「詩を出して!証拠を見せて!」と追及されたスティーブは、なんでもいいから児島にまとまった日本語の文章を喋らせなければ!と考えたんだと思います。
スティーブは「あなたの、健康状態を教えてください」とゴリ押しして、児島は「いきなり何ですか?」と困惑しながらも「子供の頃は喘息があって…」「内視鏡手術でした」「乾燥肌です」と、聞かれたことに対して大真面目に答えていくのが本当に面白かった…よく笑わずにできるな……
迫田さんと柿澤さんの話す鹿児島弁の響きが観劇日から数日経っても耳に残っています。

ラストシーンで「実は児島は英語が分かっていた」ということが明らかになってからは、これまでのオドオドした話し方や態度とは一転、落ち着いた低音ボイスを響かせて堂々とした立ち振る舞いになったので「ずっと隠してたんだな!!!!やられた!!!」と思いました。
児島が「謎の旅行者」から「連続殺人事件の犯人」になったことで彼への印象は変わりましたが、物語全体の空気がシリアスに暗くなりすぎることはなく、三人が一生懸命に会話をしてきた明るいドタバタな雰囲気を保ったまま物語の幕が下りたように感じて、それがとても良かったです。
脚本とか演出的なバランス調整もあったと思いますが、犯人役の迫田さんがやっぱりどこか憎めない魅力を漂わせていたからっていうのも大きいんじゃないかな〜と思っています。



◆面白くて楽しくて気持ちいい観劇体験

計算され尽くされた脚本の手のひらで踊るの、めっちゃ楽しい

カチンスキー警部とスティーブの会話(英語)
スティーブと児島さんの会話(鹿児島弁)
児島さんとカチンスキー警部の言葉を介さない会話(意思疎通の試み)
全部違うチャンネルで、見事にすれ違っているのに、全然全部ちゃんと繋がって話が進んでいくのがすごいな〜〜〜〜と思いました。

そして忘れられないのが、クライマックスに飛び出した物語の前提が全部ひっくり返されるあのセリフ。
カチンスキー警部が子どもと電話で、英語で話していた内容に対応する児島の
「あと、りんごは砂糖水に浸けた方がいいですよ」のセリフの瞬間

「「「「「ん?」」」」」

って客席の空気が明らかに変わったのを肌で感じて、みんなでその瞬間の違和感を共有したのが観劇体験としてめっちゃ面白かった!

(これは児島が英語を分かっていないと出てこないセリフだ、児島は英語が分かるんだ、じゃあ今までやってきたことは?児島は全てを分かった上でずっと分からないフリをしていたのか??)
と、私たち観客に一通り「ん?」って思わせてから絶妙なタイミングでスティーブが「あ!!」と気づいて違和感が回収されていく流れに入るのが見事でした。

この思考の流れとか展開のタイミングも全部全部計算なんだろうなと思いました。終演後にこのシーンを思い返しながら、逆にここまで一切「ん?」と引っかかりを感じさせないように緻密に作り込んであったんだな…ということに気づいて、もうひたすら凄いとしか言いようがないです。

ただならぬこだわりを感じたリアルタイム字幕

舞台上の背景にリアルタイムで字幕が出る舞台は初めてで、新感覚でした。
映画の日本語字幕のように固定された位置に表示されるのではなく、スティーブとカチンスキー警部の立ち位置に合わせて字幕も移動して、セリフとぴったり合ったタイミングで字幕が切り替わっていくので、違和感なく舞台に溶け込んでいると感じました。

溶け込んでいるどころか字幕もものすごくちゃんと演出がつけられていて、カチンスキー警部が殺人事件の概要を伝える長セリフでは、日本語字幕がスターウォーズのあの有名なオープニングみたいな感じで手前から奥に向かって斜めにザーーッと流れていって、客席大ウケでした。
取り調べ中のカチンスキー警部の質問セリフの英文が字幕として表示されて、「※みなさんも通訳してみましょう」といきなり英語のテストが出題されるシーンもあり、遊んでるな〜〜!!と思いました。(そのあとちゃんと答えも出る)

公演パンフレットにはスタッフ陣による「字幕検討会」の様子も紹介されていて、こういうプロの仕事の裏側を見せてもらえる記事が読めるのは良いですね。

観劇を終えて

カーテンコールではキャストさんスタッフさんの紹介が字幕で表示されて、宮澤さんは「警部役・英語監修」、迫田さんは「旅行者・鹿児島弁監修(指導だったかな?)」となっていました。
公演パンフレットでは柿澤さんが英語と鹿児島弁に必死で食らいついているのを宮澤さん迫田さんがサポートしていたエピソードも紹介されていて、ご自身の持っておられるものを存分に生かして舞台表現に繋げていらっしゃるのだろうな、と思いました。
それと同時に今作は脚本を書いてご自身で演出をつける、音楽を作ってご自身で演奏する、という形式になっていること、パンフレットのキャストインタビューや「字幕検討会」の様子からもこの舞台に関わる人がそれぞれの部門で手の届く範囲のことをできるだけ目一杯やりました!という姿勢を感じて、それってなんかすごく良いなぁ素敵だなぁと感じました。
(私が見聞きした情報から勝手にそう感じ取って好感を抱きました、という感想なので実際のところは分かりませんが、そう感じさせてくれることがね…良いなと…)

観劇中から「うわ〜〜楽し〜」と思っていたし、終演後も「面白かった〜〜!!!!」と晴れ晴れとした気持ちで劇場を後にして、良い余韻に浸ることができました。
公演日の約一週間前に「ちょっと気になってたけどやっぱり観たいわ!チケットあるかな?」と思い立っての観劇でしたが、チケットを確保できて幸運&即プレイガイドにアクセスして観劇を決めた私グッジョブでした。
舞台『オデッサ』、観れて良かったな〜〜!!!


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