手と手で繋ぐやさしさのカタチ

冷え切った手に、息を吹きかけていると、稜の手が私の右手を掴み、自分のポケットに突っ込んだ。

ポケットの中が温かいわけじゃない。だけど稜の手はまるでカイロのように温かくて、私の手に少しずつ温もりを与えてくれる。

「本当に、瑠奈の手は冷たいな」

そういう稜の首元は、私より寒そうだ。
今年のクリスマスは、稜にマフラーをプレゼントしようって決めている。
制服にも似合うようなダークグレー。
見ているだけで寒そうで、本当はクリスマスまで待たずに渡したいくらいだ。

冷たいままの左手で、不意に稜の頬に触れる。
無防備な首元から上は、さすがの稜も冷え切っていて、そこに私の冷たい手が飛び込んできたものだから、稜はビクッと身体を震わせた。

「稜の顔も冷たい」
「瑠奈ほどじゃないって」

ポケットから手を出した稜は、両手で私の頬を包み込む。
稜の手の温もりが、頬から私に伝わってくる。
ほっとため息を吐きたくなるくらい、幸せの時間。
このふたりの距離が、とても愛おしくてたまらない。

「ねぇ、稜」
「ん、どうした?」

あまりに真剣に見つめられて、鼓動がトクンと音を奏でる。
溢れるほどの好きって想いが、触れた肌から稜に伝わればいいのに。
どうして、大切なことは言葉にしなきゃ伝わらないんだろう。

「愛って、なんだろうね」
「どうしたんだよ、急に」

稜が私の頬を離し、さっきまでしてくれてたように、また私の右手を掴んで、自分のポケットに突っ込む。

「うーん、なんかね、ふっと思っただけ」

よくわからない感情を言葉にできなくて、誤魔化すように笑うと、稜は空いていた手で私の頭をポンと撫でた。

「愛って、やさしさだよ」
「やさしさ?」
「愛がなきゃ、やさしくできない」
「そういうものなの?」

イマイチ腑に落ちなくて首を傾げる。

「やさしさって、言葉じゃないと思うんだよね。なんつーかさ、滲み出るものというか、自然に溢れ出るものというかさ」

納得いくような、納得いかないような。
わかるような、わからないような。心がもやもやしてしまって、頷けないでいると、稜がやさしい笑みを浮かべる。

「誰に対してでも、やさしくある必要はないと思うんだ。自分の大切に想う相手にだけ、大切にすればいいじゃん?」
「うん」
「たとえばさ、俺が瑠奈にやさしくする。瑠奈が弟にやさしくする。瑠奈の弟が友達にやさしくする。誰かにやさしくしてもらうと、他の誰かにやさしくしたくなる。そんな風に、循環してくやさしさっていいよな」

ギュッと、ポケットの中で、稜が私の手をきつく握りしめる。
伝わってきたのは、やさしさという名前の愛。
少しずつ繋いでいくやさしさは、きっと目には見えないし、音も聞こえない。
だけど、こんな風に温かいのだけはわかる気がする。

巡り巡って、また私たちが触れるのがやさしさ。
もう、私の手は冷たくなかった。
稜のやさしい想いが、私の手を温めてくれた。


2020.12.2

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#やさしさにふれて #Koji心象風景 #名付け親企画

いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。