かわいいを身に纏う

いくつもの恋をしてきた。
誰もが祝福をしてくれる恋もあれば、そうではない恋もあった。

恋をすると、人は変わる。
必ずしもそうとは言い切れるわけではないけど、変わる人が多いと思う。
好きな人には、かわいいと思われたい。だから、恋をしていないときよりも、選ぶ洋服やアクセサリー、髪型にも気をつかうようになる。
普段からおしゃれに気づかっている人も、よりおしゃれに磨きがかかっていると思う。

見た目はもちろんのこと、素直に好きだと言える人は、本当にかわいい。
ツンデレの「ツン」の部分も、「デレ」がかわいいから、「ツン」がかわいくなるのだ。

私はどちらかと言えば、「デレ」が極端に少ない。「ツンツンツンツン」の日々だ。私の「デレ」は、よほどでない限り、人目にふれることはないだろう。
要するに素直じゃないのだ。かわいくないのだ。素直に好きって言えたら。いつだって、そう思ってきた。外見を着飾るよりも、よっぽど素直に好きって言える、その笑顔がかわいい。

どんなにかわいい洋服を着たって、どんなに似合う髪型をしても、どんなにかわいいアクセサリーを身につけても、脱いだらありのままの自分しか残らない。
「かわいい」を着飾ることに、限界があるのだ。見た目に見える「かわいい」を全部脱ぎ捨てて、残るかわいいはやっぱり、素直な気持ちなのだと思う。

素直に好きと言えなかった恋があった。まだ高校生のころ。相手は大学生だった。
学校帰り、デートで映画館へ。
手を繋ぎたいとか、もう少し一緒にいたいが、素直に言えなかった。会いたいと言えなかった。
他愛のない話をして、普通にバイバイと手を振る。そんなふたりだった。それでも彼の素直な笑顔を見るのは幸せだった。
好きなはずだったのに、一度も素直に好きと言えなかったそのときの私は、きっとかわいくなかった。

大好きで大好きでたまらない人がいた。
同じクラスの男の子だった。仲が良かった。手を伸ばせば、すぐに触れられる位置にいた。
「好き」と言葉に出すよりも、態度で「好き」が溢れ出る恋だった。一緒にいると、好きって想いが溢れ出た。それを「ツン」の私も「デレ」の私も、邪魔せず私らしくいられた、そんな恋だった。だけど、そのときの私も、きっとかわいくなかった。「好き」と伝えられる素直なかわいさを、持っていなかった。

初めて、「愛してる」と伝えたい人に恋をした。言葉はいくらでも繕うことができる。でも、彼のくれる「愛してる」を信じていたし、その言葉だけで幸せだった。そんな彼にも、最初から素直に接することができたわけじゃない。かわいくなかった私は、彼のくれる言葉で、少しずつかわいさを身に纏った。言葉ひとつが人を幸せにしてくれることを知って、私も大切な人にはきちんと「好き」を伝えられる、素直なかわいさを見つけることができた。

会社でよく、かわいくないな、と言われる。
かわいげがないのだ。いつまでも新人のように甘えられないし、責任もある。つい強がってしまうことも多い。

「かわいい」は武器だ。
好きな人、大切な人にだけ見せる、武器なのだ。
本当の「かわいい」の上に、流行りの洋服やアクセサリーを身につけ、「かわいい」を上書きしている。
でも、その見た目の「かわいい」を取っ払ったときに残る素直さを守りたい。
それが最高の「かわいい」だ。
たったひとり、あなたに見せるための、裸の「かわいい」だ。

まぁ、まれに「ツンツンツンツン」が気に入られることもある。「かわいい」は好みにもよる。


参加しています。


2020.5.6

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。