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冷たい泡に溶けた恋

その駅で降りた理由は、その直前に窓から見えたひまわり畑が、ここから見えるんじゃないかと、淡い期待を抱いたからだった。
でも、そんな淡い期待はすぐに叶わぬものだとわかる。

電車を見送った後、改札を出ると、前方にお寿司屋さんらしき店構えを見つけた。

さっきまで、お腹が空いた感覚は全くなかったのに、その店を見ただけで、不思議とお腹がぐーっと鳴り出す。
見知らぬ街のお寿司屋さんに入るのは、勇気がいるけれど、欲望には敵わない。

扉を開けると、無愛想なご主人に出迎えられる。
夕方と呼ぶには早い時間のせいか、お客さんは私以外に二人しかいない。

カウンターに腰をおろすと、私は生ビールを注文した。
運ばれてきた中ジョッキは直前まで凍らせてあったのか、ビールの泡が溶けかかったシャーベット状になっていた。

本格的な夏はまだまだ続く。
失恋なんかに、めげているわけにはいかない。
たまには、知らない街でこんな贅沢な時間も悪くない。

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。