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僕の胸が高鳴る音は

年に何度か、とはいっても、片手で数えられるほどだけれど、この街には雪が降る。
天気予報で雪マークが並ぶと、高校生ぐらいまでは、休校になるかもしれないと、ワクワクしていたものだった。

朝起きると、天気予報の通り、あたり一面銀世界だった。
車通りのある道路では、シャーベット状にすでにシャーベット状になりつつあったけれど、歩道はまだほとんど足跡がない。
僕は急いで身支度をして、外に飛び出した。

キンと冷たい空気。吐き出す息も真っ白だ。
冷たい手に時々息を吹きかけながら、ザクザクと真っ白な道を歩き始める。
子どもの頃から、この音が大好きだった。
ザクザク、というだけで、心が高鳴るのだ。

似たような音といえば、喫茶店で食べるパフェの最後だ。パフェグラスの下に残るシリアル。溶けたアイスと混ぜると、ザクザクと僕の大好きな音が鳴る。

少し歩くと、目の前に小さな喫茶店があった。
ここにパフェはあるだろうか?
昔ながらの喫茶店という感じだ。
もうずっとこの街に住んでいるというのに、こんな店があることにすら気づかなかった。

肩に薄ら積もった雪を払い、喫茶店の扉を開ける。暖かな店内には、他には誰もお客さんはいなかった。

窓際の席に腰をかけ、メニューを確認する。

お、あったぞ。
チョコレートパフェだ。少し古ぼけた写真だったけれど、パフェグラスの下には、ちゃんとシリアルも入っているようだ。

「コーヒーとチョコレートパフェをください」

注文を済ませ、持っていたスマホを確認してする。
まだ朝の7時だ。こんな早くから開いていて、来る客はいるのだろうか?
そうは思ったけれど、僕の頼んだコーヒーとチョコレートパフェがくるころには、店内は出勤前のサラリーマンがちらほらモーニングメニューを食べに入ってきていた。

チョコレートパフェを食べながら、周囲を見渡す。外は雪だというのに、みんな慌てる様子はなく、モーニングメニューを食べている。
なんだか、この場所だけ時間がゆっくり流れているような気がする。
眠りに誘われそうな暖かさだからだろうか。

ザクザク。
ロングスプーンが、パフェグラスの下にあるシリアルに届く。
おっ、久しぶりだな、この音。
ザク。
積もった雪の足音もいいけれど、このシリアルが潰れる感じの音もいい。
ザクザク。
でもそれは、溶けたアイスクリームの水分を吸うと、僕の好きな音を奏でなくなる。
そうなると、僕は一気に残りのシリアルをかきこんだ。

外に出るとまだ雪は降り続いていた。
静かで冷たい空気に誘われるように、歩いてきた道を元に戻る。

ザクザク。
やっぱりこの音が好きだ。
今日はこの音と戯れるために、仕事を休んでしまおう。


一枚の写真から想像したお話です。
雪を踏む足音が聞こえてくるような、そんな静かな世界を想像して、書いてみました。

しめじさん、ありがとうございます。

2021.1.11

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。