アルコール依存症の女 人生を変えた会社

憧れの新聞社に入社することが決まったが、調子に乗って酒を飲むような事態にならないよう気を引き締めて過ごした。
シャンパン、ではなく以前から欲しかったワイヤレスイヤホンを買った。小さなご褒美だ。

私の後任を決めたり、引き継ぎをしたりしないといけないので所属長には退職する意向を早めに伝えた。
大好きな職場をあと数ヶ月で去らなければいけない。
思えば約2年前の冬、スマホの道案内を頼りにこの会社に面接に来た。採用されると思っていなかったから二度とこの道を通ることはないだろうと駅まで歩いた。
たぶん早急に人材を求めていたのだろう、何の取り柄もない私が採用された。よりによって社内で一番忙しく慌しい部署に。

未知の業界に飛び込み右も左もわからず、とにかく必死で仕事を覚えた。
入社したばかりの頃、本気で仕事に取り組もうと禁酒していた。それが徐々にゆるみ、二日酔いでの出勤も増え始めた。ついには長期の欠勤をし、カウンセラーとの面談までする羽目になってしまった。
しかし、その面談が私の人生を変えることとなる。
アルコールの専門治療を勧めてくれたのはこのカウンセラーで、当初嫌がっていた私を説得してくれた。そのおかげで断酒への道が開けた。
酒をやめるためにこの会社に入った、といっても過言ではない。
天国の父や祖母が酒に狂う私を見かねて仕掛けたのかも、とも思う。

部署のみなさんの後ろ姿はかっこよかった。あの部署だけ異様な熱気があった。自分もいつかみなさんのようなかっこいい、素敵なヒトになりたいと思った。

私を変えてくれた、憧れを抱かせてくれた素敵な会社を退職するのは非常に残念だった。

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