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tsuru8key
手首 #毎週ショートショートnote
時代遅れの大きなカバンを持った男が、ニヤッと笑ってグイと左手を差し出した。
ほら、よく言うでしょう・・・女心と秋の空、って。
その手首には、不思議な時計が巻かれていた。文字盤には水面のような、空のような、吸い込まれそうに透明な映像が映っていた。
大丈夫です！お客さん、この秋の空時計はズレません。大きな声じゃ言えないんですけどね、中身はあのオメガと同じ部品なんですよ。
どうにも文字盤の映像が気になって仕方ない。動いているような、色が少しずつ変わっているような・・そのことを確認しようとすると、するりと男は話題を変えてしまう。
お客さん、あなたはこの空時計に選ばれたんですよ。いやー素晴らしい。
慣れた手つきでするりと外した空時計を、俺の目の前に差し出した。おそるおそる受け取り、手首に巻く。生暖かいベルトに心拍数が上がる。
ピピピッ
やっぱり！お客さん、このまま何もしないと、心臓の病気になりますよ！
まさか、と思って空時計を見ると、灰色の雲のような映像が広がっていた。
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